5-19 やっと完成
―1―
《転移》スキルによって我が家前に着地する。お、出来てんじゃん。
もっと帝都によくある中華風な建物になるかと思ったら、ここで言う神国風の建物じゃん。何だろう、幽霊でも出そうな洋館というか……、元あった建物に似ているな。
その洋館の横に小さな小屋がくっついている。む、煙突も伸びているし、景観を損ねるなぁ。
「ラン、また!」
我が家を感無量の面持ちで眺めている俺の横を通り、ジョアンが自宅? へと帰って行く。ほーい、またね。
さ、では俺は完成した自宅へ帰りますかね。そう、完成した我が家の中を見たいからね! と、俺が我が家へ近づくと横の小屋からフルールが現れた。
「待ってましたわぁ」
おうさ、ただいま。って、そこ、フルールの作業場なの? 俺の家にくっついているのかよ。
「なかなか戻ってこないので心配しましたわぁ。それと頼まれていた物、出来てますわ」
お、おお! ついに、ついに完成したか!
「こちらですわぁ」
フルールの案内で小屋の中へ。小屋の中は木槌や金槌、よく分からない色々な道具が散乱していた。そして異常な熱気だった。いや、あの、部屋の中央が燃えているんですが。もしかして、コレが炉か。あっついなぁ。
フルールが部屋の片隅に無造作に置かれている、布に包まれた長く伸びた物体を拾い、こちらへと持ってくる。お、コレか、コレかッ! 来たぞ、来たぞ、来たぞーッ!
フルールが布をほどいていく。
「私がカスタムした究極でウルトラでハイパーデラックスな真銀の槍ですわぁ」
現れたのは長い柄を持った青く銀色に輝く長剣だった。いや、コレ、槍って言うより、柄が異常に長い長剣だよね。恐ろしく精巧な装飾が施された、長さ1メートルほどの両刃の長剣。それに1メートルほどの真銀を使った柄が付いている。柄部分も真銀製なのか。これなら杖武器のようにも使えそうだし、そこで相手の攻撃を受けることにも使えそうか。剣部分は斬るのがメインで突きにも使えるって感じだな。振り回して使う感じの槍かぁ。俺だと突きメインの方が良かったんだけどなぁ。ショートスピアというには長く、ロングスピアというには短いって感じか。
「ランさんは手が短いので柄を長くしましたわぁ」
ふむ。これで長く、かぁ。ま、使ってみて使いにくいようなら、またインゴットに戻して作り直して貰うか。と、一応、鑑定しておこう。
【真銀の槍フルールカスタム】
【真銀によって作られた上質な槍。氷嵐の主用にカスタマイズされている】
いや、あの、カスタマイズって何だよ。そしてちゃっかり武器にフルールの名前が入ってるじゃないか。何という自己主張。
ま、何はともあれ、これで完成か。ついに俺も真銀の槍を持つほどになったんだなぁ。武器としてはこの真銀の槍と真紅妃があれば充分かな。後は金剛鞭もあるし、何かすんごい弓でもあれば、当分は大丈夫そうだ。
俺が真銀の槍を取ろうとすると、そこでフルールからの待ったがかかった。うん、どうしたの?
「ランさん、お代がまだですわぁ」
え? え? お、お金、取るんですか? 素材を用意したの俺じゃん。タダじゃないの?
「私ら職人はただ働きはしませんわぁ。私はランさんと契約してますんで格安にしときますけどー」
あ、ああ。そうなのか。まぁ、よく考えたらそうだよな。タダで仕事をしていたら職人の価値を下げることになるし、ご飯が食べられないもんな。収入は必要か。てっきり、契約しているから給料でも出すのかと思ったけど、そうなるのか。どうしようかなー。とりあえず、俺の家に住んでいるから家賃を取るとか、いや、それだとフルールが生活出来ないのは一緒か。あれ? でも扉は作ってくれたよな? あー、もしかして渡した魔鋼が、その報酬代わりになったのか。なるほどな。
「マスター、失礼します」
あ、14型さん、どうしました?
「そこの犬頭、これをとりあえず代わりとして我慢するのです」
14型さんが背中の魔法のリュックから何か大きな鱗を取りだしている。うん? 何だそれ?
「こ、これわぁ」
何だ? 何だ? 気になるし、鑑定しておくか。
【赤竜の鱗】
【赤竜から剥がれ落ちた風の魔力を秘めた鱗。数々の武具の素材となる】
うお。そ、そう言えば、真紅妃で鱗を削り落としていたよな……14型、集めておいてくれたのか。
「分かりましたわぁ。こんなん戴いたらお代なんて取れませんわぁ」
も、もしかしてすっごく高く売れるのか? 赤竜を倒したらお金持ちになっちゃうのか?
『ちなみにこの鱗から何が作れるのだ?』
とりあえず聞いておこう。
「やはり鎧が一番ですわぁ。次に盾や兜が多いと思いますわ」
鎧かぁ。俺は鎧が装備出来ないしなぁ。いや、待てよ。鎧……有りだな。よし、赤竜を倒すことがあったら、すっごい贅沢に鱗を使った鎧を作って貰おう。よーし、ワクワクしてきたぞ。あ、そうだ、余ったらジョアン用に盾を作るってのも有りだな。
「と、そう言えば、貰った魔鋼でこんな物も作りましたわぁ」
フルールが魔鋼で作った物も見せてくれる。
ロングソードが3本に盾、鎧に多数の矢。
……矢?
『この矢は?』
「残った魔鋼で作ったんですわぁ。矢なら本数が作れますし、この素材なら結構な値段で売れそうやしー」
なるほど。
「ということで、ランさん売り子は見つかったん? 先に商業ギルドで販売許可を貰ってきましたわぁ」
あ、はい。すいません、すっかり忘れていました。にしてもフルール、ここで売るつもりなのか。お客さんとか来るのかなぁ。何処か武器屋とかに卸した方が良くない?
「あ! そうだわぁ。ランさん、この間、帝国の人来てましたわ」
え? 帝国の人? 誰のこと?
「ぜーの人ですわぁ」
フルールが眼を左右に引っ張っている。もしかして、キョウのおっちゃんか! って、いや、そんなことをしてもキョウのおっちゃんには似ていないからね。
「ランさんに、冒険者ギルドに報酬を用意したって伝えて欲しいって言ってましたわぁ」
って、おい。おいー! それ凄い重要な内容じゃないかッ! 先に言えよ、先に。
俺はフルールから真銀の槍フルールカスタムを受け取る。
『自分は冒険者ギルドに行ってくる。フルール、槍、かたじけない』
俺の天啓に狼頭のフルールが口の端から牙を覗かせて笑う。
「おおきに、ですわぁ」