2-25 軍人
―1―
俺は腕を見てみる。腕にあった隷属の腕輪は無くなっていた。ははは、勿体ないから回収でもされたのかな。俺がもうちょっと考えて行動していたら、もっと違った結果に……いや、よそう。今考えるのは、この後『どうするか』だ。
「ランさんよ、会って貰いたい人が居るんだが、良いか?」
俺は頷く。
「ソード・アハトさん、入ってくれ」
木のドアを開け、入ってきたのは、鎧に身を包んだ2本足で歩く蟻だった。
あれ? もしかして蟻人族?
「ジジジ、ランと言ったか、自分はソード・アハトという」
あれ、字幕にジジジって表示されているけど、実際にもジジジって言っているぞ。
「自分は帝国、第三部隊に所属している」
帝国? 帝国なんてあるのか?
「あー、ソード・アハトさんは大陸にあるウドゥン帝国の軍人さんだ。ランさんからすると珍しいかも知れないが、蟻人族の方だ。蟻人族はもれなく帝国軍人でな……」
2本足かぁ。俺も頑張って2本足で歩くようにしようかな。そうすれば魔獣に間違われることも、もう少し減るかも。
「うむ。ということで自分も漏れなく帝国の軍人だ。ジジジ、ところで、此れを見てくれ」
ソード・アハトさんが1枚の紙切れを取り出す。うお、紙だ。この世界にも紙があったのか?
「君が見た盗賊は、ジジジ、こんな顔をしていなかったか?」
紙に描かれていたのは、あのエンヴィーだった。
『ああ、こいつだ』
「ジジジ、そうか。ナハンの地に来ていたか。情報感謝する」
『何故、追っているか聞いてもよろしいか?』
ソード・アハトさんは腕を組んで考え込む。腕が組めるほど長いってのは羨ましいなぁ。同じ虫なのに、何この違いッ!
「うーむ。ジジジ、まぁ、軍事機密と言いたいところだが、良いだろう。我が帝国の愚かな貴族がこの盗賊と繋がりがあったのだ。ジジジ、その愚かな貴族がこの盗賊に渡したものを追っている」
もしかするとエンヴィーは帝国に追われて大森林に来たのか?
「それは竜の紋章が描かれたエンブレムなのだが、ジジジ、もし見つけたら教えて欲しい。高く買い取ろう」
なるほど、情報を公開したのは俺がエンブレムを手に入れたときにすれ違いにならないように、か。
『了承した』
う、頭が重い。くそ、これはMPが少ないことの弊害か。念話で消費するMPがキツい。会話もままならないとは……。
「ジジジ、私か、私の部下はこの里に当分の間居るつもりだ、よろしく頼む。傷ついた体の中、会話かたじけない。ゆっくりと休むがよかろう」
「ランさん、俺も当分、この里に居るから、また何かあったら呼んでくれや」
『ああ、助かる……。では、また後で……』
そして俺は、そのまま気絶した。
―2―
目が覚める。
MP枯渇の気絶からは、大体、1時間で目が覚めるようだ。起きるとMPが全回復しているので、もしかするとMPが満タンに回復するまで気絶しているのかもしれない。
そしてとても重要な事に気付いたのだが、MPが枯渇するまで消費されると最大MPが増える。現在最大MPは12になっている。
ウーラさんがMPは増えないって言っていたのに……増えてるじゃん。しかしまぁ、アレだ。なんというか、希望が湧いてきた。
あー、でも、最大MPが増えると昏倒時間も増えるのだろうか、それは困るなぁ。
さあ、MPは増やす方法が見つかったので最大MPが減った問題は解決出来そうだ。次はお金、食料、武器、アイテムを入れる物、そして当初の予定だったクラスを手に入れる、だね。
と、コンコンと一つしかない木のドアがノックされる。
「よぉ、起きたみたいだな?」
入ってきたのはイーラさんだ。
「さっきと同じ1時間ってとこか? もしかしてMPの枯渇か?」
俺は念話を使わず頷くにとどめる。
「まぁ、無理すんな。ここには何時まで居ても良いからな。ここは旅人達のための共用スペースみたいなもんだから」
なるほどなー。共用の宿泊施設が用意されているのは良いな。
「なんと言ってもフウロウの里はお金が使えないからな。物々交換が基本だ」
へ? はぁッ? 何と原始的な……。
「まぁ、つまり住む場所はタダだが、飯は自分で用意するか、飯と交換できる素材を取ってこないと駄目ってことだ」
き、厳しいなぁ。
「で、だ。一つオススメの提案がある」
む?
「ランさんよ。まだクラスを持っていないと聞いているが間違いないか?」
俺は頷く。
「ここですぐに『弓士』のクラス試験を受けることをオススメする」
試験がある、か。
「『弓士』の試験を受けるのには何も要らないからな。更に一次試験が通れば初心者用の弓と矢が貰える。全てを失ったランさんには丁度良いんじゃないか?」
一試験の難易度次第だが、武器を――弓を貰えるのは有り難いな。最悪、転移で宿に帰ることも考えていたけれど(食事の分の代金は支払っているしね)ここでクラスを得られるならそれに越したことは無いな。また二日かけてここまで来るのも馬鹿らしいし。
『聞きたい。試験は今すぐでも受けられるか?』
「おいおい、確かに試験は何時でも受けられるが、大丈夫か? あんた腹を切り裂かれていたんだぞ?」
大丈夫じゃない。でも、食べ物もない追い詰められた状態で時間を無駄にしたくない。宿に逃げ帰るのだけはしたくないんだ。
「決意は固そうだな。わかった、案内するぜ。この里の族長の場所へ、な」
族長……か。
軍人のソード・アハトさんもヤツを追っている。急がないとな。
急いで力を付けて、誰もよりも早く、俺がッ、ヤツを倒すッ!
4月22日追加
2本足かぁ。俺も頑張って2本足で歩くようにしようかな。そうすれば魔獣に間違われることも、もう少し減るかも。