5-17 山岳都市へ
―1―
「助かった、助かった」
商人も竜馬車から降りてくる。
にしても竜かぁ。姿は西洋竜だったよね。この世界はやはり西洋竜系ばかりなのかな。蛇みたいな形の竜は居ないのかもしれないね。
「いやあ、チャンプすげぇじゃん」
なぜかポンさんが俺の肩? 背中? に腕を回してくる。
「ホント、助かったぞ」
リンガーさんも手を叩きながら大喜びだ。いや、君らね、ちょっとは加勢しようとかしてくださいよ。ほんと、馴れ馴れしいなぁ。
「いくらマスターが芋虫のような雑魚にしか見えない姿をしていたとしても、マスターなら当然なのです」
いや、あのね、14型さんよ、自慢気に言ってますけど、あなたも何もしなかった仲間なんですよ。
回復したジョアンがこちらへと駆けてくる。
「やったな!」
やったぜ。
「あんた、剣聖様の孫だよな。さすがは剣聖様の孫だぜ」
その言葉にジョアンは嬉しそうだ。でもさ、俺はジョアン自体を褒めてやって欲しいんだよな。ジョアン、頑張ってるじゃん。孫だから凄いワケじゃ無いと思うんだけどなぁ。
あ、忘れずに弓技スキルを上げておこう。俺ってば、すぐに忘れちゃうからね。
【《弓技》スキルがレベルアップ】
【《弓技》スキルのレベルアップに伴い《チェイスアロー》のスキルが発生します】
チェイスアロー? 何だろうホーミング的な技なんだろうか?
【《弓技》スキルがレベルアップ】
【《弓技》スキルのレベルアップに伴い《アローレイン》のスキルが発生します】
アローレインってアレですか? 矢を降らせる的な技かな?
【《弓技》スキルがレベルアップ】
【《弓技》スキルのレベルアップに伴い《ラピッドアロー》のスキルが発生します】
早いって感じなのかな? うーん、ここまで覚えてから考えるのも何だけど、一個一個自分の技として確実なモノにしてから、段階を踏んでからの方が良かったんじゃないかなぁ。これ、一気に覚え過ぎて効果が把握しきれず使い切れない予感。うーむ。いや、選択肢が増えたって前向きに考えることにしよう。
【《弓技》スキルがレベルアップ】
【《弓技》スキルのレベルアップに伴い《ダブルアロー》のスキルが発生します】
えーっと、これ、まだ続くのか? 現段階でも消費MSP1400も使ってるんだぞ。使えるとこまで使うつもりだったけど、もう、これくらいで良いかな? って思い始めてきたよ。もう充分、戦闘での選択肢は増えた気がするもんなぁ。
【《弓技》スキルがレベルアップ】
【《弓技》スキルのレベルアップに伴い《トリプルアロー》のスキルが発生します】
おいおい、ダブルの次がトリプルなのかよ。使ってないからどんなスキルか予想でしか無いけど効果次第ではダブルが死にスキルにならないか?
【《弓技》スキルがレベルアップ】
【《弓技》スキルのレベルアップに伴い《バーストアロー》のスキルが発生します】
MSPの消費きっついなぁ。終わりが見えないのもきっついよなぁ。次で終わりかもって思うと、もう一回だけ、もう一回だけって上げちゃうよなぁ。
【《弓技》スキルがレベルアップ】
【《弓技》スキルのレベルアップに伴い《ファイナルアロー》のスキルが発生します】
ここで《弓技》スキルの必要MSPに横棒が入った。あ、8で終わりなんですね。って、コトは他のスキルも8が最高なのか? にしても今回だけで3,500消費かよ。コラス戦で増えた分が一気に消し飛んだんですけど。スキル取得系の100消費系は全部で3,600使うってことか。一月くらい蟻に篭もって一箇所埋められる感じか。……うん、蟻を単位として考えるのはやめよう。まるでソコだけでしかMSP稼ぎが出来ないみたいじゃないか。
あ、そうだ。せっかくだから早熟も上げきってしまうか。
【《早熟》スキルがレベルアップ】
【《早熟》スキル5:常時発動、獲得出来るMSPが2人でも減らない】
ん? んん? あれ? MSPが5増えるようになるんじゃないの? も、もしかして折り返し地点からはパーティでも普通にMSPが貰えるようになるスキルになるのか? いやいや、聞いてないんですけど。こ、これは上げる必要が無いか? いや、でもせっかくだから最大まで上げておこう。最高が8って分かったことだし、どんどんカンストを増やす方向で進めよう。
【《早熟》スキルがレベルアップ】
【《早熟》スキル6:常時発動、獲得出来るMSPが4人でも減らない】
【《早熟》スキルがレベルアップ】
【《早熟》スキル7:常時発動、獲得出来るMSPが6人でも減らない】
【《早熟》スキルがレベルアップ】
【《早熟》スキル8:常時発動、獲得出来るMSPが+8され、獲得出来るMSPが8人でも減らない】
あ、最後は増加量も8になるんだ。良かった。最高レベルまで上げて良かった。にしても、ホント、この世界って8って数字が基本なんだな。一週間も8日間、通貨も8区切り、属性も8個、スキルのレベルも最高が8……。数字は10区切りの方が分かりやすいと思うんだけどなぁ。あー、でも俺のクラスチェンジは10だったな。10の区切りもあるのか? うーん、線引きが分からない。
さーって、とりあえずこれで準備は完了かな。
―2―
「いつ竜がまた襲ってくるか分からない、急いで山岳都市まで向かおう」
商人さんの言葉で急ぐことに。商人さんとジョアンは竜馬車へ。俺と14型、リンガーとポンは護衛も兼ねて歩きで。ま、俺は竜馬車に乗るよりも歩く方が早いからね。
その日、歩き、歩き続け、赤竜の再度の襲撃は無さそうだ、と皆が思い始めた所で野営となった。うーん、夜の間に《転移》でこっそり家に戻ったら駄目かなぁ。俺は別に護衛の依頼を受けているわけじゃないしね。
あー、でも、ここで《転移》を使ったら、ジョアンも一緒に転移してしまうか。しょうが無い、山岳都市までは我慢して一緒に進もうか。
ちなみに彼らと一緒に行動している間、14型には一切料理をさせていない。ポンさんが料理上手だ、ということで素材を提供するだけに務めている。実際、ポンさんは14型と比べものにならないくらい料理が上手だからね、仕方ないね。こういう外でも料理が上手い人って凄いよなぁ。だってさ、調理器具や調味料が揃っている訳じゃないんだぜ。あり合わせで美味しく作るのは才能だよなぁ。うん、やっぱりそう言った才能をもった人間を仲間にしたいな。次のパーティメンバーは料理人で! って、料理人みたいなクラスとかあるのかなぁ。
それから更に2日歩き、やがて岩山が見えてきた。木々は殆ど生えておらず、硬そうな岩ばかりだ。その岩をくり抜き道が作られている。
「ここを抜ければ山岳都市ミアンだぞ」
ほー、そうか。ということはもう少しってコトなんだよな。
……。
しかし、山岳都市までは更に8日間かかったのだった。だったのだ! 許せん。
俺の前方に盛り上がった巨大な岩に四角い穴の窓が無数に作られている不思議なモノが見えてきた。アレが山岳都市か? 都市というか、岩の中に住んでいるって感じで、とてもじゃないが、生活水準は高そうに見えない。それにさ、こんな所に住んで水とか大丈夫なのか?
はぁ、うへぇ、でも、これで終わりか。長かった。道が出来ているとはいえ、岩山を歩いて行くのは疲れたよ。魔獣が出なかったのは幸いだったけどさ、手すりはないし、道幅は狭いしで死ぬかと思った。途中、途中、休憩用に広く岩が削られている所があったけどさ、こんな難儀な所を道にする方が間違っていると思うんだ。
ま、でも、これでやっとゆっくり出来そうだ。
しかしまぁ、こんな苦労して神国まで行って、また帰ってきて、それで商売になるのかな?