5-13 迷宮都市へ
―1―
翌日、寝起きのフルールにインゴットを渡す。
【究極の真銀インゴット】
【真銀を精製し作成された究極の真銀の塊】
【究極の魔鋼】
【魔鉱を精製し作成された究極の魔鋼の塊】
上位魔法でインゴットを作成したら究極って名前が付きました。うーん、正直、究極って名前はダサいなぁ、なんて思うんですけど。まぁ、鑑定で表示された名前にケチを付けても仕方ないしね。金属球が大きかったからか究極の魔鋼は5つ作成されました。当たり前だけどさ、やはり素材となる元々のサイズもインゴットの数に関係があるんだね。
『真銀から真銀の槍の作成を頼む。魔鋼は扉の作成に。残りは好きに使ってくれ』
俺からインゴットを受け取ったフルールが奮えている。
「め、目が覚めましたわぁ」
あ、そうなの?
「これを何処で? こんな高純度の素材、見たことありませんわ」
そりゃまぁ、里でしか過ごしたことがないであろうフルールは見たことがないだろうね。……まぁ、俺も初めて見るんだけどさ。
「これなら素晴らしい物が作れそうですわぁ。ランさん、期待して待っていてくださいな」
フルールがニヤニヤと嫌な笑顔になっている。うーん、狼頭でニヤニヤされると怖いね。
「鍛冶ギルドでは装備が揃っていませんでしたからねぇ。これなら、これなら、この帝都の鍛冶ギルドの連中を見返せますわぁ。あの鍛冶ギルドをぶっ潰して、ここを一番にしてやりますわぁ」
あー、そうだね。夢を大きく持つのは良いことだ。ま、確かに大きなリュックを背負っていたのに、鍛冶ギルドでは簡単な道具だけ、それに一瞬で作っていたもんな。ホワイトさんに武器作成を依頼した時はもっと日数が掛かっていたし、フルールのコレも負け惜しみではないのだろう。が、せっかくの真銀なんだから、大切に扱ってね! すっごい期待しているからね。変なのを作ったら許さないんだからね!
フルールとそんなやり取りをしていると、ジョアンが金属鎧をガシャンガシャンと響かせながらやって来た。お、久しぶり。もう怪我は大丈夫だよな。
「ら、ラン! 遅くなった」
ジョアンは傷が治ったのが嬉しいのか手に持った盾を振り回している。
『傷は大丈夫か?』
ジョアンが頷く。
「昨日、羽の生えた天使が現れたんだ。帝都の治癒術士では難しいと言われていた傷を、その天使が治してくれた!」
お、久しぶりに饒舌だねぇ。にしても天使? 一体誰なんだ? って、この世界にも天使とかって概念があるのか? いやぁ、異世界だしさ、実際に居る可能性もあるか。
『良かったな』
―2―
「ら、ラン!」
あ、はい。
「すぐに東へ向かうのか?」
うーん、どうだろう。俺はそれで構わないけど。
「構いません。マスターの望むがままに、不十分な準備で向かって、苦労されるのがマスターらしくてよろしいかと思うのです」
いつの間にか14型が俺の後ろに居た。びっくりするなぁ。にしても準備ねぇ。いざとなったら《転移》で戻ってくることが出来るし、大丈夫なんじゃね?
あ、そうだ。せっかくだから、《転移》スキルのレベルを上げておこう。チェック出来る箇所が増えて困ることもないしね。
【《転移》スキルがレベルアップ】
【最大チェック数5 最大転移人数5】
もう一個くらい上げてもいいか。ま、MSPにはまだまだ余裕があるしね。
【《転移》スキルがレベルアップ】
【最大チェック数6 最大転移人数6】
ま、これだけあれば充分か。これだけでMSPを880も消費か……。うーん、弓技も上げられるだけ上げたいんだけど、一気に使うのも勿体ない気がするんだよなぁ。よし、もうちょっと悩むか。
『ところで、ジョアン。竜馬車を使わないのか?』
俺の天啓にジョアンが首を横に振る。
「砂漠を越えるから」
へ? よく分からないけど、砂漠を越えるから竜馬車は使えないのか? うーん。ま、まぁ、幾ら転移で戻れるって言っても竜馬車ごと戻れるワケじゃないからなぁ。竜馬車を現地に放置して戻るってのは、ちょっと危険か。そうだな、うん、仕方ない歩いて行くか。
あ、そうだ。ちょっとアレを試してみよう。
――[ウィンドボイス]――
「うえからくるぞ」
ジョアンの後ろから風に乗って声が聞こえた。突然、後ろから声が聞こえたジョアンは上を見たり、後ろを見たり、挙動不審になっている。おー、出来た出来た。
これさ、魔法の効果を確認してみたんだけど、どうも録音した音声を任意の場所から再生する魔法みたいなんだよな。つまり天啓でしか喋れない俺には無用の魔法ってことだ。ま、一応、何種類か録音しておいたけどさ、使い道が余りなさそう。コウと戦った時みたいに不意を突くのには使える……かなぁ。いや、でも、事前録音が必要だから、やっぱり戦闘には組み込めなさそうだ。
『では、行くか』
俺の天啓を受け、キョロキョロしていたジョアンが頷く。14型が俺の後ろに控える。羽猫が頭の上で寝返りを打つ。フルールが欠伸をしている。
「ランさん、何処か行くん?」
フルールはのんきなモノだ。って、フルールには言ってなかったか!
『自分たちはこれから迷宮都市に向かう』
俺の天啓にフルールが驚く。
「いやいや、ランさん、ここどうするん?」
『それなら心配ない。あのびゅーんとした移動で定期的に戻ってくる。フルールは自分の作業を、仕事を頼む』
俺の天啓にフルールが手を叩く。
「なるほどぉ。任されましたわぁ」
よし、フルールはこれで大丈夫だな。あー、そうだ。パーティも編成し直そう。どうせ、距離的な問題でフルールはパーティから自動的に外れるだろうし、ジョアンをパーティに入れて、ジョアンと俺の二人パーティだな。14型と羽猫は別枠だから、これで……うん、よしっと。
では、改めてッ!
行きますか、迷宮都市リカイン!