5-10 鍛冶作業場
―1―
いつものように貧民窟を歩いているとクソ餓鬼どもが寄ってきた。
「あー、チャンプだ」
「知らないのをつれてるぞ」
「あーほんとだ」
「だれ?」
さあ、フルールよ、クソ餓鬼どもの洗礼を受けるが良い! って、そういえば、14型ってさ、買い物へ行く時は、毎回この道を通るんだよな。このクソ餓鬼どもをどう回避しているんだ? うーん、ま、今度聞いてみよう。
フルールはすぐにクソ餓鬼どもに囲まれる。よし、囮作戦成功だな。
俺がクソ餓鬼から離れフルールの動向を見ていると、クソ餓鬼に囲まれたフルールが懐から何か光っているモノを取り出した。え? 何々? クソ餓鬼どもの視線が一斉に光り物に注がれる。そして、フルールは、それを放り投げた。わあぁとクソ餓鬼どもが光り物を追いかける。
フルールはその様子を見ながら、こちらへと悠々と歩いてくる。
「さあ、先を急ぎましょう」
な、なんだと。あのクソ餓鬼連中に、そんな攻略法が……。
『と、ところで先程のアレは……』
「ええ、くず鉱石ですわぁ。あんなゴミで良ければ何個か持ってますよ」
いや、要らないです。というか、なんでそんなモノを持ち歩いているんだ。重くないのかなぁ。
しばらく歩いているとフルールが飛び上がり小さな俺の後ろに隠れた。ど、どうしたの?
「ら、ランさん、魔獣ですよぅ、魔獣が道を歩いてますわぁ!」
いや、あの……、その……、あなたの目の前の私も魔獣の姿をしているんですが……。
「な、なんで町の中に魔獣がいるんですぅ」
あー、そうだよね。帝都ってさ、オークやゴブリンなどの魔獣――その中でも人と同じように考えることが出来る魔獣が普通に住んでいるんだよな。俺がこんな姿だから――考えている訳じゃないけど――人と同じように考えて、行動できて、対話が出来るなら、もうそれは人と同じだよね。
『帝都は人と魔獣の住まう地だ』
ホント、そう考えると俺には住みやすい地って感じだよね。神国は魔獣とか殺されちゃうらしいからなぁ。
「ひえぇ、そうなんですかぁ。それは慣れないとですわ」
そうなんですよ。
―2―
門を抜けて東側へ。
「なんて遠いんですわぁ」
いや、そう? フルールって鍛冶仕事をしている割には体力がないのか?
東側からは魔獣の姿が消える。東側は貴族の住む地……か。ま、関係無いな。俺は普通に入れる許可も貰っているしね!
さあ、鍛冶ギルドに行こう。あ、でもその前に冒険者ギルドに寄ったら駄目かな? だ、駄目ですよねぇ。
煙突沢山の鍛冶ギルドへ。
前回と同じようにそのまま入ると、カウンターの女性が走ってくる。ふむ、俺の他にもお客様が何人か見えるな。全て貴族なのかな?
「あなたは前回も来た方ですよね。その姿、間違えようがありません。前回も言いましたが……」
『フルール!』
俺は相手の話を打ち切り、天啓にてフルールを呼ぶ。
「何ですかあ、ランさん、頭に響きますわぁ」
『まずはコレを』
俺は女性にキョウのおっちゃんから受け取った紹介状を渡す。紹介状を受け取った女性が、その場でそのまま開封しようとする。
『よいのか?』
いや、それキョウのおっちゃんが持ってきてくれた紹介状じゃん。受付の人がこんな所で開けて良い物なの? 駄目だよね。キョウのおっちゃんって結構、色々なコネ持ってそうだったもんなぁ。
俺の天啓を受け、女性が紹介状を見る。封を確認し、もう一度確認し、震え出す。
「ぎ、ぎ、ぎ、ギルド長に、は、話を通してきます……」
お、効果は覿面だ。やっぱり凄い感じの紹介状だったか。さすがはキョウのおっちゃん、頼りになるぜ。
しばらく待っていると、ドタドタと言った慌ただしい音ともに一人の普人族の男性が駆けてきた。まさか、この人がギルド長か?
「ああ、すいません、お客人、お待たせしました。私はこのフロアを任されているヤポという者です」
あー、さすがにギルド長が出てくるとかは……無いか。そうだよね、漫画とかじゃないもんね。それでも管理職クラスが出てきてくれたんだから、紹介状の効果は大きかったか。
『いや、大丈夫だ。自分はラン、冒険者だ。そしてこちらは鍛冶士のフルール』
「フルール言いますぅ」
狼頭がぺこぺこと上下している。フルールってば権力には弱いタイプなのかな。
「立ち話も何ですから、奥へ行きませんか?」
ヤポさんの案内で鍛冶ギルドの奥へと進む。
「ところでランさんの要望は扉の作成と炉を分けて貰うということで、よろしいでしょうか?」
ふむ、ラン『さん』か。特に特別扱いやお客様扱いってワケではないのか。
『ああ、すまない。途中で話が変わった。扉はこちらのフルールが作成する。なので炉を分けて貰いたい』
そこで俺はフルールを見る。嬉しそうに手をにぎにぎしているな。はぁ……。
「と、ランさんが、このフルールの実力を疑っているようですのぉ、そこで急ですけど、ちょっと鍛冶場も借して欲しいわぁ」
あ、意外と図々しい。
「ほう、そうですか。それではこちらへ」
ヤポさんが途中で進路を変える。む、そちらは何だか熱気が……。うーん、進めば進むほど熱くなるんですけど。これが、鍛冶場か、鍛冶場なのか。
そう言えばフウキョウの里でさ、結局、鍛冶場を使わせて貰えなかったんだよなぁ。刀、打ってみたかったのに……。
―3―
部屋が燃えていた。う、熱い。俺、寒さには強いけど、熱耐性はないのかも……キツい。
「わあ、さすがは帝都の鍛冶ギルドですわぁ! ホワイトのおっさんのしょぼくれた鍛冶場と大違いですわぁ」
フルールが何やら無性に感動している。
部屋の中には大きな四角い枠で覆われた熱を放つ謎の装置、煙突に繋がる窯のようなモノ、そして何かを叩き付けている人たちが居た。
「道具はご入り用で?」
ヤポさんの言葉にフルールは狼頭を横に振る。
「手に馴染んだモノが一番ですわぁ」
そう言うが早いかローブの下からたすき掛けのように掛けていたと思われる袋を取り出す。そして、その袋の中から篭手とハンマー、砥石?、眼帯を取り出していた。
眼帯を付け、その後、篭手を取り付ける。えーっと、その眼帯、意味があるんですか? ちょっと鑑定してみるかなー。
【鍛冶士の眼帯】
【鍛冶作業の成功率を上げる眼帯】
うお、意味があったのか。にしても成功率? えーっと俺が想像している鍛冶仕事と違うことが起きそうな予感がしてきたんですけど。何だろう、凄い魔法チックなファンタジックなコトが起きそうな予感がします。
フルールが四角い枠に覆われた、もっとも熱を放つ場所へと歩いて行く。そして篭手ごと、その中に手を突っ込み、すぐに戻した。
「さすがですわぁ。良い温度」
えーっと、やけどとか大丈夫? 普通、そんな所に手を突っ込んだら燃えて死んじゃうんじゃない?
「さてと、ランさん。フルールの特別なウルトラでスペシャルな実力をお見せしますわぁ」
眼帯をしたフルールがこちらを見て犬歯を覗かせながらニヤリと笑う。
「ということで、何か良いインゴット持ってません?」
そこは俺持ちなんだ……。