5-9 魔法の練習
―1―
何故か、フルールが親方に自分が寝る所を優先的に作らせている。いやまぁ、そのままだと眠れないって言い分も分かるけどさ、ホント、何なの。ま、まぁ、先行投資だと思って許容するけどさ、これで腕がたいしたこと無かったら追い出すからね。冗談じゃ無いんだからね!
とりあえず暇なので魔法の練習をする、
――[アクアポンド]――
真紅妃さんが更地にしてしまった墓場に魔法の池を作る。うむうむ、最初は水溜まりが精一杯だったのに、ちゃんと池らしくなってきたじゃん。しかも、この魔法、効果時間がべらぼうに長いんだよね。俺が消そうと思わない限り消えない。最初からこうだったかなぁ、って思うけど、まぁ、それは熟練度が上がった効果ってことにしておこう。
――[ウォーターリップル]――
ウォーターリップルの魔法を使うと俺の足が、フェザーブーツが水のような膜に覆われた。そのまま、作り出した池の上へと一歩踏み出す。水面に波紋が広がり、そのまま足が浮かぶ。うんうん、効果に間違いは無いな。
そのまま池の上を歩いて行く。4歩ほど歩いた所で効果が切れ、俺は池の中に落ちた。ちょ、深い池じゃなくて助かったけど洒落にならん。たった4歩かよ。
うーむ、水の上を歩ける魔法で間違いないようだが、このままだと使えないなぁ。これは熟練度を上げないと使い物にならない系の魔法だね。消費MPは8か。それにさ、俺には《浮遊》と《飛翔》があるからなぁ。これは、そこまで必須って魔法じゃないよね。ただまぁ、使えるモノが多いほど戦い方のバリエーションは増えるから、練習しておいて損はないか。
――[アイスランス]――
3本の氷の枝が槍のように生まれ伸びていく。この魔法が現段階では最強の攻撃魔法かなぁ。氷の槍で貫かれたら結構致命傷になりそうだもんね。ただ、脆いのか、普通に武器で削られるのだけがネックかなぁ。ある程度以上の相手には通用しそうにないんだよな。消費MPも64と大目だからなぁ。いくら今のMPが1,000を超えているからって連発はちょっとキツいな。
――[ハイスピード]――
風の鎧が体を覆う。風を覆わせたまま軽く反復横跳びをしてみる。跳ねる芋虫。うんうん、《飛翔》の速度には劣るけど、かなり素早く動けるな。それに周囲の風が簡単な攻撃なら――遠距離からの弱い矢とかね――弾いてくれる感じだ。常にMPを消費し続ける《飛翔》と違い使い切りなのが嬉しいね。こいつは消費MPが16か。常に使い続けてもいいかなって感じです。その方が熟練度稼ぎにもなるしね。あー、でも、常に風に覆われていると日常生活に問題があるか。買い物をしようとして商品を吹き飛ばしたりとか、ご飯を食べようとしてご飯が吹っ飛んだりとか――駄目だな。
魔法を試していると14型が帰ってきた。そのまま俺の前まで来て綺麗なお辞儀をする。
「お帰りなさいませ、マスター。私が買い物に行っている間を狙って帰ってくる意地悪なマスターですが、私がそれに思い至らなかったのが問題です、ええ、問題なのです」
よ、よく分からないけどただいま。
「ところでマスター、あそこに居る犬頭は何でしょうか? 家に門番として飼うには少々品性に欠けると思うのですが」
そうかな? 俺からすると14型さんも似たようなもんだと思うよ。
―2―
何故か14型とフルールがにらみ合って会話をしている。うーん、まぁ、早速仲良くなったみたいで良かったよ。
夜は今日も親方の作った料理で食事となった。14型はそれを一生懸命眺めていた。うん、見て盗むことは大事だよね。
夜になり、俺と14型は地下室へ。フルールは自分用に作られた簡易小屋で就寝。うーん、俺よりもフルールの方が、扱いが良い気がするぞ。にしても、新たに魔獣が現れはしないな。これ、もう、扉を作る必要が無いんじゃ……? ま、まぁ、俺が居ない時に魔獣が現れても困るからね。仕方ないね。
次の日、またもキョウのおっちゃんがやって来た。おいおい、キョウのおっちゃん、もしかして暇なのか?
「旦那、とりあえず紹介状なんだぜ。まぁ、これを報酬なんて言えないから、こっちで何か用意するんだぜ」
いやぁ、別に、そこまでしなくてもいいのにさ。
「もう少しだけ待ってて欲しいんだぜ」
了解。ま、ここまで来たらキョウのおっちゃんに任せるか。俺はキョウのおっちゃんを信用しているんだからね!
本当は報酬は要らないかなぁ、って思ってるくらい何だよね。何というか、俺が喰らってしまったあの巨大な透明魔石が美味しすぎた。アレがあるから――アレで報酬の代わりってコトでも納得出来るくらいだもん。だってさ、アレでMSPが6,000近く増えているんだよ。いやね、これならスキル取り放題じゃん。コラスのヤツ、どんだけ魔石を溜めていたんだって話だよ。迷いすぎて、悩みすぎて、どれから上げるか選べないくらいだもん。蟻千匹分かぁ。1月分の蟻が一瞬で……うん? そう考えたらたいしたことが無いように思えるな。
俺が紹介状を受け取るのを狼頭のフルールがギラギラとした眼で見ていた。もうね、このワンコは、何なの。
「そ、それは鍛冶ギルドのですわ」
そうですけど。
「早速、行きましょう!」
あ、はい。
「それなら私もお供をするのです」
いや、14型さんは地下室の見張りで。そんな驚いた顔をしても駄目ですからね。地下室の扉が完成したら見張りは終了ですから、今はその為の準備ですから、もうちょっと待っててね。
『と、ということでキョウ殿、早速、鍛冶ギルドに行ってくる』
「お、おう。それじゃあ、俺はここの嬢ちゃんの不味い飯を食ったら帰るんだぜ」
あ、じゃあ、14型さん、キョウのおっちゃんのご飯、お願いします。
14型の「何で私が……」みたいな言葉が見えたような気がするが見間違いだろう。
じゃあ、フルールを連れて鍛冶ギルドに行きますか。
「え、歩いて行くんですぅ? あのびゅーんとしたので行くのでわ?」
いや、転移チェックしてないからね。《転移》って、そこまで万能じゃないからね。
「仕方ないですわぁ」
フルールがとぼとぼと俺の後ろを歩いてついてくる。いや、あの、あなた、大陸まで旅をする予定でしたよね。そんな感じで大丈夫だったのか?
真銀の槍を作って貰いたいし、扉も作る必要があるのに、何だか全然進まない気分だよ! 俺は早く東の迷宮都市に向かいたいんだけどなぁ。
ま、ジョアンのこともあるし、こういう準備期間も必要か……。
2021年5月14日修正
鍛冶ギルドのでわ?」 → 鍛冶ギルドのですわ」