2-24 復讐を誓う
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夢を見ていた。俺が芋虫になって異世界に行って冒険者になって……そして殺された。ああ、夢だった。夢で良かった。悪夢だな。そうだ、今日は俺の誕生日で、昨日買ったケーキが冷蔵庫に入れたままだった。あのケーキはどんな形だったかな……。
う、う……夢、夢だったんだ。アレは全て悪い夢だったんだ。
ああ、分かっているさ。分かっているよッ! ああ……。
「お、どうやら気付いたみたいだな」
声に導かれ、ゆっくりと目を開ける。光がまぶしい……。
ここは……?
「よお、どうだ? 喋れるか? ってお前さんは念話スキルで喋るんだったな」
『あ、ああ……』
「大丈夫そうだな」
大丈夫? アレが大丈夫かよッ!
「うん? どうした? ここが何処か気になるのか? ここはフウロウの里だぜ」
フウロウの里……? フウロウの里だとッ!
『あ、ああ……、あの、あ……』
「落ち着け、お前は生きているし、助かったんだ」
助かった……? 助かったッ!? そ、そうだ。
『グ、グレイ殿は? 一緒に居た護衛の……』
「グレイが居たのか……。いや、見なかったぜ」
『そうか……』
グレイさんの死体は――無かったのか。あの状態で生きているとは思えない……。まさかあの後、魔獣に喰われて……くそっ、弔うことも出来なかったのか。
「で、教えて貰っても良いか?」
俺は改めて目の前の人物を見る。赤いバンダナで短めの髪を立たせている。背中に大きな両刃の斧を持った歴戦の戦士風の人物。
「何があったんだ?」
『魔人族の男に、エンヴィー・ウィズダムという魔人族の……』
う、なんだ……、目眩がする。念話を使うのが辛い。
「お、おい、どうした? 大丈夫か?」
『あ、ああ、猫馬車の御者と商人に扮した……魔、魔人……族が……』
俺はそこで気を失った。
―2―
覚醒する。う、頭が重い。
「起きたか。1時間ほど気絶してたぞ、大丈夫か?」
『ああ』
まだ頭が重い気もする。大丈夫……か?
「大丈夫そうだな。お、そうだ、自己紹介がまだだったな。俺はイーラ。アクスフィーバーというクランのサブリーダーをしている。お前さんのことはウーラから聞いてるよ」
ああ、ウーラさんのクランの人だったのか。どうりで斧を持っているわけだ。
「猫馬車の御者に扮した魔人族に襲われたってことで間違いないか」
『あ、ああ』
一緒に乗っていた商人風の男が魔人族だったんだが、訂正をするつもりはない。
「やはりそうか……。ところで奴らから何か聞いていないか? 奴らのアジトにつながるような事を。何でもいいんだ」
確か、崖のアジトとか言っていたな。だが俺はソレを教えるつもりは無い。
「魔人族は人を騙り、惑わし、裏切り、人から盗む。人の世に災いしかもたらさない種族だ。見つけ次第殺すしかないっ!」
魔人ってついているから何らかの特殊な種族かと思ったけど、この口ぶりからするとただの詐欺師、盗賊集団な訳ね。そりゃあ、殺すしかないよなー。
そ、そういえば、俺の荷物は? 俺のステータスプレート(黒)は?
俺は辺りを見回す。俺は木のベッドに寝かされていたようだ。布団などは掛けられていない。周りに何もないシンプルな木で作られた部屋。当然、俺の荷物はない。鉄の槍も買ったばかりの切断のナイフも、何もかもがッ!
『すまない、荷物を知らないだろうか?』
「ああー。現場には何も無かった。腹を切り裂かれたあんたが居ただけだ」
はははは。何も無かった、無かっただとッ! せっかく貯めたお金も、武器も、何もかもがッ! これからどうしろと? 何も無くなった状態でッ!
「落ち着け、そして受け取りな」
イーラさんから手渡されたのは――1枚のステータスプレートだった。
「さすがに、ステータスプレート無しは不便だろ」
『いいのか?』
「ウーラから聞いてるぜ。初めの三つのクエストを終えているんだろう? その報酬だったものだ。お前が正当な権利を持ったステータスプレートだよ。と言っても初心者用の銅だがな」
銅色のステータスプレートに触れる。文字が浮かび上がる。
【ステータスプレート(銅)認証完了】
そして浮かび上がるステータス。
名前:氷嵐の主
所持金 :0
ギルドランク:G
GP :25/100
MSP :2
種族:ディアクロウラー 種族レベル:2
種族 EXP 1036/2000
クラス:なし
クラスEXP 0/-
HP: 40/ 100
SP: 5/ 810
MP: 8/ 11
筋力補正:4
体力補正:2
敏捷補正:8
器用補正:1
精神補正:1
所持スキル : 中級鑑定(叡智のモノクル) 糸を吐く:熟練度8121
念話:熟練度2576 毒耐性:熟練度2400
クラススキル: 槍技:熟練度1232 スパイラルチャージ:熟練度384
払い突き:熟練度24
サブスキル1: 浮遊3:熟練度120 転移:熟練度40
所持属性: 水:熟練度344 風:熟練度342
所持魔法: アイスニードル:熟練度100 アイスボール:熟練度584
アクアポンド :熟練度2
は、はは、はははは。なんだコレ? なんだコレ?
MPの最大値11? 11って何だ? 飛翔のスキルツリーも消えてる。習得したものは消えていないがツリー自体は消えているとか、はははは。
絶望的だな。絶望的状況だな。は、は、は、はー。いいぜ、いいよ。やってやろうじゃねえか、何故生き延びたのか分からないけれど、生き延びたんだ。生き残ったんだッ!
お金も無い、武器も無い、MPも無い、スキルツリーも消えた。
で? だから、どうした?
負けてたまるかよッ!!
魔人族のエンヴィー・ウィズダムッ! 首を洗って待っていろッ! 俺を殺しきれなかったことを後悔させてやる。必ず、必ずだッ! グレイさんの仇を取る、この俺の手でッ!!
俺は復讐を誓った。
2020年12月12日誤字修正
通りで斧を → どうりで斧を