5-7 鍛冶士加入
―1―
【[ウィンドボイス]の魔法が発現しました】
朝、起きると魔法が発現していた。え、え、え? えーっと、何が原因なんだろう。それに[ウィンドボイス]の魔法? 何だろう、風? 声? うーん、使ってみれば分かるかな。
――[ウィンドボイス]――
しかし、何も起こらない。どういう魔法なんだろう。うーん、まぁ、コレは今後調べるってコトで良しとしようか。
さてと、今日の予定は……スイロウの里で弟子の人を回収か。
「マスター……むにゃむにゃ」
えーっと14型はまだ寝ているみたいだな。って、むにゃむにゃだとッ! 俺は初めて現実でむにゃむにゃって言って寝ている人を見たよ! 本当に寝ているのか? それとも何だろう、14型を作った人が、そういうセンスで作ったのかなぁ。うーん、むにゃむにゃって無いよなぁ。
ま、14型さんも寝てるし、このままスイロウの里へ行っちゃいますか。うんでは、遠慮無く行っちゃいます。
仮組みされた家を出る。おー、外に出ると改めて気付くけど、一日で結構進んだよなぁ。
うっし。さ、行きますか。
――《転移》――
―2―
スイロウの里へ到着っと。では、早速ホワイトさんのトコロに行きますか。
朝早く、人の少ない通りを歩いて行く。のしのしと歩いて行く。さすがにスイロウの里では俺の姿を見ても驚く人は居ないか。サイドアーム・ナラカを背中に回して、背負っているような感じで鋭く凶悪な真紅妃さんを持ち、マントのようにクロークをはためかせ、そのうえ羽衣が周囲をふよふよ、更に緑の長靴を履いている芋虫。うーん、どんどん姿が凄いことになっているな。
ホワイトさんの鍛冶屋へ到着。歩くのも速くなっているからね、サクサクよ。ということで、そのままホワイトさんの鍛冶屋の中へ。うむ、いつもながら誰も居ない。ホワイトさんは奥か。
『頼もう!』
……。
俺の天啓は届いたよな?
「うるせえよぅ。朝っぱらから、その頭に響くのを止めやがれ!」
奥から犬頭をふらふらさせたホワイトさんが現れる。あ、すいません。って、ちゃんと居るじゃん。
「あ、ああ。ランか。相変わらず朝早えよぅ」
そうだよぅ。
『ホワイト殿、約束通り来たぞ』
俺の天啓に、ホワイトさんは頭をふらふらとさせながらもうんうんと頷いている。
「あ、ああ、そうだな。フルール出てこい」
奥からフルールさんも出てくる。
「こいつの準備は出来てるぜ」
ホワイトさんが親指を後ろに向けて指差す。フルールさんは不安そうに狼頭をキョロキョロさせている。
「え、え、はい。よろしくや……お、お願いします」
はい、よろしく。
じゃ、行きますか。
「おう、ラン、早速行くのかよぅ」
行くぜ。
『ああ、早い方が良い』
ホワイトさんが犬頭をぽりぽりと掻き、手を振っている。
俺が鍛冶屋を出ると、その後を追うように巨大なリュックを背負ったフルールさんが出てきた。ローブのような緩い服装だな。長旅する予定なのに、そんな格好で大丈夫か? まぁ、実際には長旅にならないんだけどさ。
「では行きましょう」
はーい、じゃ、行きますか。
―3―
二人でスイロウの里を出る。さてと、じゃ、パーティを組んで《転移》でサクッと帝都に戻りますか。
「はあ、これでやっと自由やわー」
フルールさん?
「いやー、ホワイトのおっさん、ホント、怖いわぁ。でも、これで自由。最高!」
フルールさんが飛び跳ねて全身で喜びを表現している。あ、はい。そういう性格だったワケね。えーっと、行きますよー。
「あー、ランさん、改めてよろしくな。魔獣姿なのになかなかやるって聞いてるからね、頼りにしてるわぁ」
あ、はい。
「こん天才鍛冶士のフルールが力を貸したげるからねぇ」
犬歯が見えるくらいのさわやかな狼頭の笑顔だ。臆病そうな感じに見えたのはホワイトさんに怯えていたのかなぁ。えーっと、じゃ、まずはパーティを組もう、か
「おー、まずはパーティ加入やね。旅するって感じでワクワクするわぁ」
【フルールさんがパーティに加入しました】
フルールさんがパーティに加入する。よし、これで《転移》が使えるね。よし、行くか。
『フルール殿、これから一気に帝都へと行く。驚かないように気をしっかりと』
「え、え、え? ど、どういう?」
――《転移》――
空へと舞い上がる。うん、凄い勢いで星へと吸い込まれそうなくらいに高所へと飛び上がるなぁ。初めての人にはキツいかな。
「な、な、な、なんコレ」
フルールさんのローブの下に見えている尻尾の毛が逆立っている。ああ、やはり驚くよな。
と、帝都はあっちだな。じゃ、行きますよー。
星となって自宅前に落下する。おっし、無事着地っと。
フルールさんは、そのままぺたんと座り込み奮えている。
「な、何、コレ」
《転移》スキルです。
『ここが大陸の帝都だ』
俺の天啓に、座り込んだフルールさんは意味が分からないといった風にキョロキョロと周囲を見回している。
さてと、我が家は――そこに見知った顔があった。
「おー、ランの旦那、お邪魔しているんだぜ」
おおう、キョウのおっちゃんじゃん。どったの? もう当分会えないのかなぁ、なんて思っていたのに意外とすぐに遊びに来たね。
「相変わらず、この嬢ちゃんの飯は不味いんだぜ」
何故かキョウのおっちゃんが14型の料理を食べている。で、どったの?
「報酬、報酬なんだぜ。旦那は忘れているかもしれないが、このキョウは忘れていないんだぜ。旦那は見事勅命のクエストを達成したんだぜ。帝国の英雄なんだぜ」
あ、はい、そうなんだ。英雄って言われてもぴんとこないなぁ。