5-6 料理と科学
―1―
――《転移》――
スイロウの里を出た所で転移を使い、我が家へと帰還する。
おや? 誰も居ないな? また14型が駆けてくるかと思ったんだが……ふむ。何処だろう?
「だから、そうじゃねえって」
奥から――我が家の方から親方の声が聞こえる。あれ? あそこに居るのは親方と14型だな。どうしたんだろう? とりあえず俺も行くか。
『どうしたのだ?』
14型がいつものように変な料理を作っている。うん、どったの?
「おう、チャンプか。この嬢ちゃんどうなってるんだ? お前、ちゃんと料理の仕方ってもんを教えたのか?」
ああ、独特のやり方ですよね――ちょっと普通では考えられない方法ですよね。
「だから、なんで一瞬で、って、おい、おかしいだろ!」
やはり、14型は、例の瞬間沸騰を使っているのか。アレ、素材が完全に死んじゃうからなぁ。
「先程からうるさいのです。要は同じようになれば良いと思うのですが、時間も短縮できて良いこと尽くめ! 何の問題があるというのです」
問題しかないよ!
「お前、料理の味ってわかるのかよ」
その言葉に14型が口に手を当て笑う。
「味? 私が分かるワケが無いのです」
そうだよなぁ。
「そうかよ。なら、ちょっと待ってな! おい、アレだ、アレ持ってこい!」
親方が叫んでいる。
「ああ、マスター、お帰りなさいませ。お昼も抜きのマスターのためにしっかりと料理をしておきましたよ」
あ、はい。見てました。さっき、一瞬で作ってましたよね。
「親方ー、アレじゃあ、わかんないですー」
叫びながらハウ少年がこちらへと駆けてくる。おー、ハウ少年が現場監督なのか。で、親方は、ここで14型の料理を見て油を売っていると……駄目じゃん。
「アレは、アレだ」
親方の言葉に、前髪ぱっつん丁稚のハウ少年は親方と14型、そして鍋を見比べる。
「あー、そういうことですか。少々お待ちを」
ハウ少年がどこからか大きな鍋を持ってくる。
「では、親方、皆の晩飯をお願いします」
「おうよ、任せときな!」
そして、親方が14型の方を向き、指差す。
「そこの嬢ちゃん、俺が料理ってもんを見せてやる。しっかりと理解しやがれ!」
そういって親方は料理を始めた。えーと、えーっと、何だ、この展開。いや、親方よ、俺の家、見て無くていいのか?
―2―
「非効率です。時間が掛かりすぎるだけなのです」
あー、そうだよな、機械の14型さんには分からない世界だよなぁ。
親方の料理は完成したようだ。周囲に美味しそうな良い匂いが漂っている。最近、匂いが、以前よりもはっきりと分かるようになったんだよなぁ。これって《変身》スキルを使ったからか? うーむ、謎だ。
「見ろ、これが料理だ!」
親方が自慢気に鍋料理を披露する。う、うーん、親方よ。親方の料理も、そんな力を入れて自慢出来るようなもんじゃ無いと思うんだけどね。
魚の内臓や鱗を取ったり、野菜を部位に分けて切り刻んだり、こまめにあくを取ったりしたくらいで、普通に長時間煮込んだだけだからね。下ごしらえをしただけじゃん。
で、要らない部位をまとめて団子にして油で揚げてるけど、それ美味しいの? ま、まぁ、捨てるのが勿体ないって文化から来ているのかなぁ。
「素材も似たような物、完成品も食材が水に浸かっているのは同じ、栄養は逆に壊れている、それが料理ですか?」
14型が悩んでいる。
「栄養だと? そんなの知るかよ。人はよ、美味しいモノ食やぁ元気になる。つまりはよ、壊れているんじゃねぇ、体に吸収されやすい形になったってことよ。分かったか!」
そういうもんなのか?
「おう、飯だ。飯!」
親方が叫ぶと、俺の家で作業をしていた人たちが集まってきた。あ、お仕事ご苦労様です。
さてと、俺もご飯にしよう。14型さん、お箸をお願いします。
14型はお箸を探し、手頃なのが無かったのか、そこらに落ちていた端材を手で斬り裂き箸を作った。えーっと、何でしょう、その技術。普段の戦闘でもそういう技を使ってくれませんかね。
14型から取り皿と箸をサイドアームで受け取り、親方の作った料理を食べてみる。
もしゃもしゃ。
うん、鍋は普通に美味しいな。口の中に魚のうまみが広がる。謎の野菜にも出汁が染みこんでいるし、うん、素材が生きているね。普通に、普通の塩味の鍋だ。で、団子はどうかな?
もしゃもしゃ。
う、うーん。だ、団子は美味しくは無いなぁ。何というか、お腹にたまるって感じだ。
もしゃもしゃ。
鍋を食べていると、アレだね、アレだ。今度、キャラ港に《転移》してジャイアントクラブを倒して、それも具材に使いたい感じだなぁ。
もしゃもしゃ。
14型の鍋が一向に減らない。建築ギルドの皆さんも最初の一口は食べるのだが、その後、すぐに無言で離れていった。いや、まぁ、気持ちは分かるよ。
「な、何故なのです……」
14型が呆然と言った感じで目の前の鍋を見ている。それを見て親方は得意気だ。うーん、何というか、親方って大人げないよね。
はあ、仕方ない。
俺は14型の作った鍋料理という名の水が浸透して加熱されただけの魚と野菜を食べていく。まぁ、せっかくの料理だからね、食材が勿体ないからね。
もしゃもしゃ。
もしゃもしゃ。
あー、無言で食べてしまう。いや、何というか、俺の姿が表情の分かるような、普通の姿だったなら、怖いくらいの真顔で食べていただろうなぁ。
もしゃもしゃ。
俺が14型の鍋料理を食べる度に14型の表情が明るくなっていく。
もしゃもしゃ。
よし、完食。
14型の表情は殴りたいくらいの笑顔だ。
「ふふん、見たのですか。マスターはしっかりと私の料理を食べたのです」
いや、お前な、別に美味しいから、お前のばかりを食べたワケじゃ無いんだぞ。勿体ないから、だ。
『14型、お前、親方に料理を習え』
俺の天啓に14型が驚いた顔をする。いや、驚くようなことか?
「な、何故なのです? 今も、今までもマスターは私の料理をしっかりと食べているじゃないですか。それに私のやり方の方が早く作れるのです」
いやまぁ、ね、食べて栄養になれば一緒かもしれないけどさ、俺もさ、出来るなら美味しい方がイイワケよ。
『味というモノについて、もっと学べ』
いやね、14型さん、ホント頼みます。
2021年5月5日修正
お腹になる → お腹にたまる