5-4 鍛冶ギルド
―1―
凶暴な姿の真紅さんです。サイズが大きくなって、ますます突撃槍のような姿になっています。握り部分にはスカートが着けられ、そこから蜘蛛足が伸びていた。叩く、突くに特化した感じかな。うーん、前みたいに小型化は出来ないようだ。これ、14型さんに持ち歩いて貰って戦闘時に持つって感じになりそうだよなぁ。
にしても、なんで急にこんなコトになったんだ? もしかしてアレか? コラスの持っていた魔石の中に真紅の魔石もあったよな。それが俺の魔石と混ざって1つの魔石になって、それを俺が取り込んだから――その影響か? うーん、でも考えつくのがそれくらいだよなぁ。ま、まぁ、考えても仕方ないか。
ところで、これから真紅妃って呼ばないと駄目なのかな。呼びにくいから前と同じように真紅では駄目なのかなぁ。
真紅妃の握り部分にある蜘蛛足がわしゃわしゃと動く。えーっと、駄目ですか、そうですか。ま、まぁ、真紅妃さんの意志を尊重して、呼びにくいけど真紅妃って呼ぶことにしましょうか。
と、そうだ、せっかくだから《真紅妃召喚》のスキルも使ってみよう。いざって時に効果が分からなくて使えないなんてなると駄目だからね。効果を把握しておくのは重要だ。
――《真紅妃召喚》――
スキルを発動した瞬間、真紅妃が姿を変え、巨大な蜘蛛へと姿を変える。うお、こんな感じなんですね。てっきり夢の中の女性にでもなるのかと思ったけど、さすがにそれは無いか。アレは、つまり、イメージ映像ですって感じなんだな。
巨大な蜘蛛が、どうしたのって感じで、こちらを見て首をかしげている。えーっと、ごめんね、スキルを試してみたかっただけなんだ。ということで真紅妃さん、好きに遊んでいてください。俺の意志が分かったのか巨大な蜘蛛が頷き、動き始める。
真紅妃は墓を潰して遊んだり、風の魔法を足に纏わせて、そのまま滑って遊んだりをしている。楽しそうですね。何だろう、墓場が更地になりそうな勢いです。というか、あの墓場って俺の家の敷地扱いになるのかなぁ。違うなら、ちょっと問題になりそうだよね。
「うお、何だよ、こりゃあ!」
あ、親方おはようございます。
真紅妃さんも右手を挙げて親方に挨拶をしています。おおう、真紅妃は礼儀正しいなぁ。そのまま真紅妃が足をガシガシと叩き付けて歓迎の意志を表明する。うんうん。って、威嚇行動じゃないかッ! 真紅妃ストップ、ストップ、親方は敵じゃないよ。
「おう、おう、チャンプのテイムした魔獣か? いや、でも、魔獣が魔獣をテイム?」
いや、そこ悩む所じゃないよね。
しばらくすると時間が来たのか真紅妃は元の槍の姿に戻った。召喚って、こんな感じかぁ。一定時間、真紅妃が巨大蜘蛛になって一緒に戦ってくれるって感じなのね。でもさ、その間、真紅妃が使えないのは不便だなぁ。やはり、代わりの武器が必要か。ということで真銀の槍の作成が急がれるのです。
―2―
「チャンプ、ネズミの魔獣はどうなったよ」
それよ、それ。親方、このインゴットを見てくれ。これをどう思う?
『親方、この魔鋼から地下室への階段を閉じるドアを作れないだろうか?』
親方が俺の持っている魔鋼を見る。
「いや、金属の扉とか、鍛冶ギルドの領分だろうよ」
あ、そうなんすか。で、どうすればいいんですかね。
「東にある鍛冶ギルドなら可能だろうよ。チャンプは、確か、東に行けるんだよな」
おうさ、てっことは東側に行く必要があるのか。
となると今日の予定は鍛冶ギルドで扉の作成依頼って感じかなぁ。
一応、帝都の地図はスカイに貰っているし、うん行ける行ける。じゃ、行ってきますか。と、その間、また魔獣が出たら困るよな。よしッ!
『14型、頼む』
「ま、ま、マスター、本気で言っているのですか? まさか、私に残れというのですか。それは余りにも非効率だと思うのです」
ということで14型さんお願いします。何か喋っている14型は無視することにする。じゃ、俺は東側にある鍛冶ギルドに向かいますか。
真紅妃を片手に貧民窟を抜け、真紅妃で威嚇してクソ餓鬼を追い払ったり、真紅妃をサイドアーム・ナラカに持ち直したり、そんなこんなで西と東を分ける門の前に到着です。
「あ、ああ、チャンプか。通れ、通れ」
あ、はい。って、俺ってば、結構、雑な扱いされてますね。ま、まぁ、2級市民だから、仕方ないのかな。
さあ、結構歩いたから、いい時間になって、お腹が空いてきたぞ。鍛冶ギルドへ行く前に、何処かで食事をとりたいなぁ。いやいや、寄り道せずに行こう。ま、まずは鍛冶ギルドだ。
広い道を歩き、横へと逸れ、若干迷いながらも鍛冶ギルドへ。石造りの少し大きな建物が見えてくる。煙突のようなモノが何本も伸びているな。あのくっついている四角い塔は何だろう? 良くわかんないね。ま、考えても仕方ないか。よし、入りますか。
鍛冶ギルドへ入ると、カウンターに居た女性がこちらへと駆けてきた。どったの?
「あなたは話の分かる魔獣、ちまたでチャンプと呼ばれている魔獣で間違いありませんね」
そっすよー。俺は悪い魔獣じゃ無いよ、でもチャンプ呼びだけは簡便な。
『そうだが』
「そんな魔獣のあなたが当ギルドに何の用でしょう」
そうそう、それよ。
『この魔鋼から扉を作って貰いたくて来たのだが』
俺の言葉にお姉さんがため息を吐く。
「これは、あなたが魔獣の外見をしているから言う訳では無いのですが、その依頼を受けることは出来ません」
へ? 何でよ。
「どなたかの紹介状をお持ちか、あなたがそれに相応しい家柄なら受けることも可能ですが、魔獣のあなたがそれをお持ちでは無いでしょう」
へ? マジかよ。何ここ、家柄とかで差別するの? むぅむぅ、依頼を受けてくれないのか。こ、これは困ったなぁ。どうしよう。うーん、こうなったら、そうだ! ホワイトさんトコで作ってくれないかな。ちょっと後で行って相談してみようかな。持ち運びは魔法のウェストポーチXLを使えばいいからね。
『そうだな。分かった』
はぁ、仕方ない。帰るか。歩いて帰るのも距離的にキツいし、建物を出たら《転移》で一旦、我が家へ帰りますか。
建物を出る。じゃ、行きますか。
――《転移》――