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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
5  名も無き王の墳墓攻略
305/999

5-3   戦慄の真紅

―1―


 夢を見ていた。いや、これ、夢か?


 目の前には赤く染められた着物姿の女性。長い黒髪に赤い瞳。額に小さな眼のような赤い宝石が6つ光っている。えーっと、誰でしょう? 着物を余り着崩していると、あのー、胸が見えちゃいそうですよ。

 目の前の女性が唇に指をあて這わす。口の端からちらりと鋭い牙が覗く。えーっと、どちらさまで?


 着物の女性の横には、どうやっているのか空中に座り、足をバタバタさせている少女が居た。こちらは緑の着物か。浴衣ぽいというか夏祭りにでも居そうな感じの着物だね。ただ、髪は金髪か。金の髪に金の瞳。あれ? えーっと、こちらのお嬢さん、何処かで見たことがあるような、何処だったかなぁ。何だろう、何かの面影が……。


 足をぶらぶらさせている金髪少女はこちらをニヤニヤと嫌な笑い方をしながら見ている。金髪で着物って違和感が結構凄いね。

 頰杖をついたり、ごろごろしたり、こちらの少女は落ち着きがない。


 目の前の女性がゆっくりとこちらへと歩いてくる。


 そのまま大きく口を開け、いや、口が裂け、巨大な牙が伸びる。そして背中から巨大な足が生えてくる。


 そして女性は巨大な蜘蛛へと姿を変えた。


 巨大な蜘蛛が大きな叫び声を上げる。何だ、何だ?


 そして、そのまま赤黒く変色した槍のような前足をこちらへと叩き付けてくる。視界に灯る赤い線。な? 敵? 何だ、何が起こっている?

 俺は槍のような前足の叩き付けを右へと回避する。はは、成長した俺の敏捷補正を舐めるなよ。って、何だ、このシチュエーション。この蜘蛛は何だ? 敵?

 そ、そうだ、武器だ、武器。真紅は何処だ?


 周囲を見回すが、何も無い。この空間には――地面しかないような、この空間に武器となるようなモノは無かった。身につけているモノも無い。俺、素っ裸じゃん。芋虫姿のままじゃん。えーっと、この状況で目の前の蜘蛛と戦うのか?


 と、なると魔法か! せっかく最大MPが増えたんだもんな。魔法でガンガン戦おう。




―2―


――[アイスランス]――


 3本の氷の枝が巨大蜘蛛へと伸びる。蜘蛛は鋼鉄の前足でそれらを斬り裂き、削っていく。削りきれないと思ったのか、後方へ大きく跳躍し、逃れる。そして、そのまま数十個の風の刃を生み出し、こちらへと飛ばしてくる。


――[ウォーターミラー]――


 氷の枝を斬り裂き砕き、こちらへと飛んで来た風の刃を反射させる。はっはっはー、俺に魔法は効かんよ! MPに余裕があるから消費の大きなウォーターミラーも、後10回くらいは使えるんだぜ!

 といっても、ここ、魔素が無いようだから、MPの回復は出来なさそう。つまり連発は難しそうってコトだな。って、そう言えば、なんで、魔素が無いのに魔法が発動しているんだ? うーん、これが夢だから何だろうか。不思議空間だなぁ。


 さあ、どうしよう。武器が、武器が欲しいよなぁ。魔法はMPの関係で上手く使わないとジリ貧になってしまうし……。あ、そうだ。


 そう言えば格闘スキル持っていたよな。てことは、この短く小さなまん丸拳を武器として使えるんじゃないか?


 俺は巨大蜘蛛へと駆ける。蜘蛛が巨大な前足をこちらへと叩き付けてくる。俺はそれを右へと回避し、そのまますれ違い様に前足に触れる。


――《ウェポンブレイク》――


 よし、発動した。


 次々と叩き付けられる前足。右、左、右、俺は攻撃をスイスイと回避していく。真っ赤にそまる線から避けるように回避し、足に触れてウェポンブレイクを当てる。右、次は左かな? とそこで、更に右側が赤く染まる。フェイントか! 俺は少し体勢を崩しながらも回避する。危ない、危ない、フェイントを織り交ぜてくるとは……油断していたらやられていたね。でもさ、俺には危険感知のスキルがあるんだぜ。ホント、このスキル便利過ぎる。ま、まぁ、動作しないこともあるから過信は出来ないけどさ。


 右、左、右、左、右、右、フェイントを織り交ぜながらも叩き付けられる前足を回避しながらウェポンブレイクを着実に当てていく。


 そして、ついに前足にヒビが入った。巨大蜘蛛が悲鳴を上げ、のけぞる。よし、イケル! 本当はここで強力な一撃を叩き付けたいんだけどなぁ。仕方ない、地道にやるしかないか。


 巨大蜘蛛が後方へと大きく跳躍する。逃がすかよッ!


――[アクアポンド]――


 跳んだ蜘蛛の着地地点に水池を作る。上手く着地出来なかった巨大蜘蛛が水池にはまり、体勢崩す。チャーンス!


 巨大な蜘蛛が池の縁に足を掛け、ジタバタと体勢を立て直そうとしている。


――[アイスランス]――


 放たれた尖った氷の枝が巨大蜘蛛に刺さる。よし、これは行けるか?


 その瞬間、視界が真っ赤に染まった。な、視界いっぱいだと? 何処に逃げる、どういった攻撃だ?


 氷の槍が刺さった蜘蛛が大きな口を開く。何か、ヤバイ!


――《飛翔》――


 俺はとっさに空へと舞い上がる。蜘蛛の口から赤い光線が放たれる。蜘蛛が顔を上げ、空に浮かぶ俺へと赤い光線をなぎ払う。俺はそれを《飛翔》スキルで回避する。蜘蛛が池の縁に引っかかっている状態で良かったな。池の縁に居るから、余り自由に顔を動かせないようだもん。しかしまぁ、恐ろしい攻撃だな。これ、[ウォータミラー]で反射出来るかなぁ? 出来なかった時がやばそう。うーん、見るからに魔法ぽくないからなぁ、難しいかも。


 やがて赤い光線が止む。それに併せて蜘蛛も池から這い上がってしまったようだ。


 巨大蜘蛛が前足を地面に叩き付ける。だんだんと叩き付けると赤黒く染まった鋼鉄の蜘蛛足が赤い風に覆われた。クルクルと鋭い風が巨大な蜘蛛足を覆うように廻っている。な、なんだと。俺に触れさせないためか? まるで足にウィンドウェポンを掛けたかのようだな。




―3―


 巨大蜘蛛が風の刃を生み出し、それらを飛ばしながら、更に風に覆われた前足を叩き付けてくる。いやいや、同時使用とか卑怯だろ。


――[ウォーターミラー]――


 ウォータミラーを張るが、それを突き抜けて風の前足が迫る。覆われた風によって身を刻まれながらも回避する。しかし立ち位置が変わり、ウォーターミラーが意味を成さなくなってしまった。

 巨大蜘蛛が再度、風の刃を生み出し飛ばしてくる。前足をなんとか回避し、あっと思った時には風の刃で身を切り刻まれていた。いてて、くそ、来るって危険感知で分かっていても回避しきれない。


――《魔法糸》――


 後方へ魔法糸を飛ばし、距離をとる。


――[ヒールレイン]――


 癒やしの雨を降らせ、傷を癒やす。厄介な相手だな。癒やしの雨を降らしている俺の元へ風の刃が飛んでくる。ああ、もう!


――[アイスボール]――


 アイスボールを飛ばし、風の刃を撃ち落とす。回復くらいゆっくりさせてくれよ。にしてもMPがやばくなりそうだ。風の刃は[アイスボール]で撃ち落とした方が良さそうだ。


 と、そこで急に背後が真っ赤に染まった。え?


 目の前に巨大蜘蛛が居るのに、俺の背後にも巨大な蜘蛛が居た。え? 分身した? そして、そのまま噛みつかれる。鋭い牙が俺の体を貫く。がああぁぁぁッ! 死ぬ、死ぬ、このままでは死んでしまう。


 正面に居たはずの巨大蜘蛛がゆらりと揺れて消えていく。な、幻だと。


 俺の体を貫いた巨大な牙から何かの液体が漏れ出す。俺の体の中に何かが進入してくる感覚。消化液を注入されているッ? やばい、やばい。どうする、どうする? 武器は、何か武器は!


――[アイスウェポン]――


 俺のちっちゃく丸い拳が氷に覆われる。出来た、出来たぞ! 習得していて良かった格闘スキル。喰らえッ!


 俺は氷の拳を巨大な蜘蛛の牙に叩き付ける。


――《ウェポンブレイク》――


 ウェポンブレイクも発動させながら、何度も何度も叩き付ける。牙の強度に負け氷の拳が砕け散る。


――[アイスウェポン]――


 何度でもだッ! 俺が溶かされる前に砕いてやる。


 やがて牙にヒビが入る。


 俺は力任せに蜘蛛の牙をへし折る。


――[アイスランス]――


 俺は蜘蛛の咥内に氷の槍を生み出す。蜘蛛が大きく悲鳴をあげ、後ろへと大きくのけぞる。


――《飛翔》――


 俺は飛翔スキルを使い、蜘蛛の口から抜け出す。はぁはぁはぁ。内臓がぐちゃぐちゃになっている気がする。それでも俺が生きているのはSPが多いからか? それとも魔獣だからか?

 俺は体に刺さった鋭く長い鋼鉄の牙を引き抜き、そのまま抱えるように持つ。


――[ヒールレイン]――


 癒やしの雨を降らせる。はは、回復魔法があって良かったよ。俺が回復していることに気付いた蜘蛛が叫び声を上げてこちらへと迫る。


 迫る前足。俺は手に持った鋼鉄の牙を構える。


――《払い突き》――


 牙が蜘蛛の前足を打ち払う。そのまま一回転し、蜘蛛に牙を突き立てる。蜘蛛が悲鳴を上げ、後ろへ下がる。


 はぁはぁはぁ、強かったぜ。


 しかし、これで終わりだッ!!! 俺は手に持った牙ごと突っ込む。


――《スパイラルチャージ》――


 巨大蜘蛛の顔面に牙が突き刺さる。螺旋の軌道が蜘蛛の顔を削り貫いていく。


 そして巨大蜘蛛が動きを止めた。

『俺の勝ちだ!』


 目の前の蜘蛛がゆらりとゆれ消えていく。え? 幻?


 はっ、と気付いた時には俺の背後に赤い瞳の女性が立っていた。緑の着物の金髪少女がニヤニヤと笑いながら拍手をしている。なんだ、なんだ?


 そのまま黒髪赤眼の女性は俺の顔に手を添え、俺の額に自分の額をくっつけた。えーっと頭突きをされたのかな。



 そこで俺は目が覚めた。な、夢?


「マスター、うるさいのです。私がゆっくり眠れないのです」

 近くに立っているのは14型だよ……な? というかだね、俺は地下室を見張っといてって頼んだはずなんですけど、なんで寝ているんですかね。というか、君は眠らなくても大丈夫ですって言っていた覚えがあるんですけど、気のせいですかね。


 そして、俺は傍らに置いていた真紅を見る。真紅の姿が変わっていた。槍は更に鋭さを増し、凶暴な姿へと変じていた。俺はとっさに鑑定をする。


【戦慄の真紅妃】

【氷嵐の主に仕える真紅妃。固有スキル《真紅妃召喚》を使用出来る】


 えーっと、何でしょう、コレ。

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