5-2 クリエイト
―1―
にしてもこのネズミ何だったんだろう。この階段の下にはもっとうじゃうじゃいるのかなぁ。そう思うとちょっと躊躇しちゃうよね。
「深淵鼠なのです」
あ、14型さん解説ありがとうございます。って、ネズミはネズミなのね。深淵ねぇ。この地下世界ってのが深淵なのかな。えーっと、深淵というと、アレだ。深淵をのぞき込んで云々だよね。つまり深淵を見ているってコトだな。
ま、まぁ、進むか。
長い長い階段を降りていく。うーん、相変わらず長いなぁ。地下にある謎の世界にまで行くんだから、このくらいの長さは当然か。
階段を降り進めていくと周囲の壁が透明になった。お、地下世界が見えてきたな。にしても、ネズミがいないな。もっと、こう、階段の方にもうじゃうじゃ居るのかと思っていたから拍子抜けだね。
透明な壁の外を、周囲の風景を観察しながら階段を降りていく。うん、以前に見た時と何も変わっていないな。
そして巨大な門の前に出る。
門の前に台座があるのも一緒だね。
門は……閉じられているな。相変わらず押してもびくともしない。門に4つの玉が取り付けられているのも一緒だ。青い玉、緑の玉、黄色の玉、赤の玉。
周囲に魔獣の気配は感じられない。うーん、あのネズミの大量発生は何だったんだ? これ以上、ここに居ても何も得るものは無いか。よし、帰ろう。
と、そこで俺は気付いた。アレ? 地面に?
地面に何かを引き摺ったような跡がある? うっすらだけど何だコレ?
『14型、これが分かるか?』
14型がしゃがみ込み、地面に手を触れ、引き摺った後を調べる。14型さんのロボアイで何か分からないかな?
「もしかすると、この扉が開いたのかもしれないのです」
へ? どういうこと?
「ここまで言っても理解出来ない芋虫並みの知能しか無いマスターのために説明すると、地下世界に封じていたはずの何かが抜け出し、その際に漏れた魔素が地下室に住んでいたネズミを変質化――いえ、魔獣化させたと予想するのです」
何かが抜け出た? いやいや、封じられたってのも危険な香りだし、どういうことよ。そう言えば、ここって凄い魔素が濃いな。MPがすぐ回復出来そう。魔法の練習が捗りそうな場所だ! って、そういう場合じゃないか。うーん、前回、ここに来た時も、こんなにも魔素が濃かったか? それに、ここ、凄い色とりどりの魔素が見える。紫、青、緑、黄、橙、赤、黒、白、8つの色が見える。うん、全色あるんじゃないかなぁ。
いや、これは冗談抜きで魔法の練習場に向いているんじゃないか? こ、これを埋めるのは勿体ないなぁ。
『14型、何か良い方法は無いか?』
「マスター、それは魔獣を発生させない方法ですか? それともここを埋め立てないで済む為の方法ですか?」
分かってんじゃん。
14型が門を叩く。コンコンと良い音が鳴るね。うーむ、14型さんの馬鹿力でも破壊は出来ないか。
「これは、この金属が魔素の流出を防いでいるようです。マスター、マスターは、この金属を見たことがあると思うのですが、もう脳みそから旅立ってしまいましたか?」
一言多いなぁ。にしても、金属ねぇ。って、うん? あれ? コレ、『空舞う聖院』で戦った金属球と同じ材質じゃないか? と、ということは?
真紅で壊せるってコトだな!
俺は真紅を構える。が、何故か真紅が蜘蛛足をわしゃわしゃさせて嫌がる。どったの真紅さん。
「マスター、まさかとは思いますが、そちらの真紅様で門を削ろうなんて考えていませんよね、私のマスターがそこまで愚かだとは思わないのですが、考えていませんよね?」
えーっと、どういうことでしょう。
「門の厚み、質量を考えてください。門に数センチの傷を付けるだけで真紅様が折れて、傷付き倒れてしまうことでしょう」
えーっと、真紅さん、そうなんですか? 真紅が、そうだそうだと言わんばかりに蜘蛛足をわしゃわしゃと動かす。あ、そうなんだ。まだ、真紅でも無理かぁ。ということは力押しは駄目ってことか。
門が完全にこちらとあちらとを防いでいるってことかぁ。って、そうか。
『なるほど。『空舞う聖院』で手に入れた金属球で扉を作り、階段を塞げば良いのだな』
「さすがはマスター、ちゃんと気付いていたのですね。私が本当に理解しているか試すためにわざと馬鹿な振りをしていたんですね、ええ、そうですとも。私のマスターが愚かなはずがないのですから」
あ、はい。もうどうにでもなーれ。
せっかく魔素が豊富なんだし、ここで[クリエイトインゴット]の魔法を使ってみるか。これ多分、素材から金属の塊を作る魔法だよね。よし、さっそく作ってみよう!
魔法のウェストポーチXLから金属球の残骸を取り出す。まずは一個っと。
――[クリエイトインゴット]――
魔法を発動させると、どろりと金属球の残骸が溶け、再度、固形へと戻っていく。お、お、凄い。
そして、また溶けた。えーっと、あれー? 全然、塊にならないんだけど。
「マスター、作成に失敗したのでは?」
し、失敗とかあるのか?
――[クリエイトインゴット]――
溶けて不純物が混じった塊に、再度、魔法を掛ける。が、またも色々なモノが混ざりどろどろになって終わってしまう。ああ、もう。うきぃぃー。
ふむ。考え方を変えよう。練習させてもらっているんだって考えるんだ。そうだね、丁度魔素も豊富だしね、いい練習だね。
その後、俺は何度も[クリエイトインゴット]の魔法を唱え続けた。成功して薄汚い金属の塊になることもあった。が、それを使って再度[クリエイトインゴット]の魔法を発動させる。練習だからね。使えば使うだけ成功率が高くなっている気がするので、どんどん使い続ける。成功率が90%を超えるようになるくらいまで頑張るぜ。
何度も、何度も、だ!
そのうち、殆ど失敗しないようになった。よし、満足行くくらいに練習が出来たぞ。と、そうだ、このゴミクズも鑑定しておくかな。
【クズ魔鋼の塊】
【不純物が混ざり価値のなくなった魔鉱】
あー、この金属って魔鉱って言うのか。魔鉱を使って作った鋼なワケね。
魔法のウェストポーチXLから新しい金属球の残骸を取り出す。では、行きますか。成功してくれよ。
――[クリエイトインゴット]――
金属球がどろどろに溶け、また集まり固まっていく。そして四角い金属の塊が出来た。おっし、成功。なんつうか、魔法って便利だよね。異常だよね。
【高純度魔鋼】
【魔鉱を精製し作成された魔鋼の塊】
おー、凄いじゃん。何だか凄いのになったじゃん。じゃ、これで、後は、地下世界へ降りる階段の上に、この金属を使って作った扉を取り付けて貰えば完璧だな。さっそく親方に頼もう!
―2―
地上部まで戻ってきたが、親方の姿はなかった。俺は、もしやと思いステータスプレート(金)を確認する。うお、日が変わってるじゃん。魔法の練習で気付かなかったけど、もういい時間じゃないか。そりゃ、親方も帰っちゃうよな……。とほほ。
ま、まぁ、扉の件はまた明日ってことで。仕方ない、今日はもう寝ますか。
さすがに地下室で寝るのは怖かったので、地上で寝ることにする。骨組みだけしかない吹きさらしの我が家での就寝である。
あ、14型さん、地下室の見張り、お願いします。