5-1 帰還、そしてネズミ退治からの始まり
―1―
無事、帝都へ帰ってきました。
うん、ホント、大変だった。《転移》を使って、一発帰還が出来ないってことがこんなにも大変だったとは……。
ミカンと猫耳少女を軍船に、その代わりにファットの弟分を船に乗せファット団のアジトへ。そこからキャラ港の宿に戻り、ジョアンの馬車を受け取って南下を開始。
途中、魔族のソース君が暴れるも14型さんの必殺技で眠って貰い――本当に大変だった。
そんな感じなモノで、ソース君が帝都に着いた頃にはかなり衰弱していた。ギリギリセーフ、セーフだよ。後は帝都の方々が上手くやってくれるでしょう。
さあ、我が家です。我が家へと帰るのです。
「旦那、では、俺はこいつを連れて行くんだぜ」
はーい、キョウのおっちゃんに任せます。
『キョウ殿、自分の家はここにある。好きな時に遊びに来てくれ』
「ああ、旦那。旦那の力を借りに遊びに行くんだぜ」
ああ、好きな時に利用しに来るが良いぞ。
「もがもが」
ああ、足下のソース君ともお別れだな。おたっしゃでー。
「ら、ラン、僕も家に帰る。しばらく腕の治療に専念するつもりだ!」
あ、そうなんだ。
「……迷宮都市に行く時は必ず誘って欲しい」
いやいや、置いていったりしないって。俺は俺で真銀の槍の作成とか色々やることがあるからね。すぐには行けないからね。ゆっくり治療するんだぜ。
二人と別れ俺は自宅への帰路につく。
「ところでマスター、よろしかったのですか?」
え? 14型さん、どうしました?
「あの敵にマスターの家がここにあることを教えていたようなのですが」
敵ってソース君か……あ! いやいや、わざとだから。わざと教えるメリットなんて無いけど、わざとだから!
「ふむ。てっきりマスターは何も考えていない、芋虫の姿にお似合いな脳みそしか持っていないのかと思ったのですが勘違いだったようですね」
あ、はい。そーですね。
さ、帰ろう帰ろう。
―2―
「あ、芋虫来た」
「違う、チャンプ」
「帰ってきた」
おー、クソ餓鬼ども、まだ居たのか。散れ、散れ。俺は家に帰るんだ。
子どもたちが俺へと走ってくる。
――[ウォーターミラー]――
餓鬼どもの前に水の鏡を張る。
「何だこれ?」
「うつってる」
「すごい、きれい」
「ほんとだー」
よし、餓鬼どもがそちらに注目している間に、逃げるんだ!
――《飛翔》――
飛翔を使い飛んで逃げる。奴らは強敵だからな、これくらいは必要だ。
さあ、我が家だ。
って、え? あれ?
ちゃっかりと、いつの間にか俺の後ろにいた14型を見る。14型は腕を組んで頷いていた。いや、あれ?
家が、俺の家が、
俺の家の工事が全然進んでいない!
おかしいよね、絶対、おかしいよね。
もう結構、日数が経っていると思うんですけど、何でまだ骨組みなの? 帝都を出る前から殆ど進んでないように見えるんですけど、2週間――16日ほどで建つって話だったよね。もしかして親方、サボってる? サボってるのか? 闘技場に遊びに行っているとか、そういう話なのか? ゆるせんぞ、絶対にゆるせんぞ! いや待てよ、キャラ港に向かう途中で《転移》して戻ってきた時はもう少し進んでいたような……どどど、どういうことだ?
俺が家の前に近づくと向こうからも見知った人が歩いてきた。
「チャンプ待ってたぜ」
親方じゃん。俺を待ってた? どういうこと? いや、それよりも家の進捗状況が……。
「聞いてくれ。チャンプに確認をとらないと進めねえのよ」
どうしたの?
「例の地下室だけどよ、そこから見たこともない大きなネズミのような魔獣が現れてよ。かなり進んでいた作業が止まるわ、壊されるわで大変だぜ」
へ?
「魔獣は何とか撃退出来たんだがよ、危なくて仕事にならねぇ。それでチャンプに地下室を埋める許可が貰いてぇのよ」
へ? えー。ど、ど、ど、どういうこと? でもさ、俺が地下室から地下世界に降りた時は、そんな魔獣なんて居なかったぞ? それに一本道だったから、他から入り込む余地なんて無かったと思うし……うーん。
『分かった。もう一度、自分が降りて確認しよう』
俺の天啓に親方が頷く。
「ああ、チャンプがそうしてくれると助かるぜ」
はぁ、仕方ないなぁ。ある程度は完成しているであろう我が家に帰ってゆっくりって気分だったのに最悪だよ。ま、言っても仕方ない、14型さん、行きますか。
―3―
骨組みだけの家に入り、地下室へと降りていく。にしてもネズミ型の魔獣かぁ。ホーンドラットやミーティアラットみたいなのがいるんだろうか。
うーむ、何だか懐かしいな。
階段を降りた地下室は、すでに魔獣の巣窟となっていた。
辺り一面のネズミ。50センチサイズのネズミが地面が見えないくらいに蠢いていた。いや、コレ、ネズミか? 眼が退化し小さく潰れ、さらに首元にはエラがある。本当にコレ、ネズミか? いや、それよりもさ、何だこの数、ちょっと怖いんですけど。
「あ、後は任せたぜ!」
あ、親方が逃げた。いや、あんた鬼人族でしょ、こういう荒事、得意なんじゃないのかよ!
し、仕方ないなぁ。
――[アイスランス]――
三本の氷の枝が生え、ネズミ型魔獣たちを貫き成長していく。
「私も行きます」
14型が氷の枝の上を走り、駆け、ネズミの集団に突っ込み、殴り、蹴り、なぎ払っていく。あー、珍しく戦ってくれるんですね。
――[アイスランス]――
もう一度アイスランスを発動させ、ネズミを貫かせる。結構、減らせたかな? じゃ、真紅さん、行きますか。
俺は手に持った真紅を起動させる。折りたたまれた真紅が伸び、その姿を現す。さあ、行くぜ。
真紅を片手にネズミの集団に突っ込む。
――《百花繚乱》――
真紅がネズミを貫き、粉砕し、血と肉の花を咲かせていく。あー、酷いなコレ。
やがて動いているネズミはいなくなった。あー、もう、地下室が汚れまくったじゃん。仕方ない、こういう時の魔法だ。
――[クリーン]――
――[クリーン]――
――[クリーン]――
――[クリーン]――
クリーンの魔法を連続で使い、地下室を綺麗にしていく。うん、この魔法を習得していて良かったよ。
さてと、この更に下が発生源かな。