空舞う聖院攻略編エピローグ
―1―
一番乗り! 俺とジョアンが一番にネウシス号に到着する。次にファットとソースを持ち上げた14型が到着。相変わらず謎の移動速度だな。
そこからかなり遅れて猫耳少女を抱っこしたミカンが到着。そして聖院が水面にぶつかるかぶつからないかの瀬戸際にキョウのおっちゃんが到着。そう言えばキョウのおっちゃん、足が切断されていたもんな。くっつけてすぐに走らせるのは酷だったか。
『キョウ殿、早く!』
俺が天啓を飛ばす。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし、キョウのおっちゃんが伸ばした手に結びつけ、そのまま引っ張る。
「さあ、出発するぜー。しっかり掴まってるんだよ!」
いや、ファットさん、意気込んでくれるのは嬉しいんだけど、このままだとネウシス号、動かないからね。着水してからだからね。
ネウシス号の中へ乗り込み、衝撃に備える。
ネウシス号の中から外の様子を覗う。『空舞う聖院』が海へ、巨大な水しぶきを上げて沈んでいく。思っていたような衝撃は来ない。
ネウシス号が海に浮かぶ。そのまま海の上を走って行く。おー、さすがはネウシス号、素晴らしい性能だ。俺もこういう船、欲しいなぁ。
迷宮は再び、海の中へ……か。
これで、『空舞う聖院』も攻略だな。って、ちょっと待て、まだ探索が途中だった場所があったよな? 殆ど直線距離で進んだからさ、他の場所を探索できていないもんな。何日か掛けて全部廻りたかったのになぁ。はぁ……、しまったなぁ。
「とりあえず戻るぜ」
ファット様のお言葉に猫耳少女が頷く。そう言えば、海賊の皆さんも、軍の皆さんも戦っていたんだよな。どうなったんだろう?
――エピローグ――
さて、これからどうするか、何だよな。
『聞いて欲しい』
自分の天啓に皆がこちらを見る。皆と言っても14型は俺の後ろに訳知り顔で控えているし、羽猫は俺の頭の上で欠伸をしている。
『自分は迷宮都市に向かおうと思う』
とりあえず、今後の方針を話しておかないとな。
「その……、ラン殿……」
ミカンが申し訳なさそうに話し始める。
「私もラン殿と一緒に迷宮都市に行きたいのだが……、興味はあるのだ。だが、ここに残ってリーンの王としての地位が確かなモノになるまで補佐をしたいのだ」
むぅ。そっか、まぁ、途中で投げ出すのは駄目だよな。
「ミカンお姉ちゃん……」
猫耳少女がミカンを見上げる。そしてミカンが猫耳少女の頭をなでる。
「こちらが片付いたら、必ず後を追う」
おうよ、ミカン待ってるぜ。お前の侍の力、アテにしているからな!
「じゃ、俺様も妹分を影ながらフォローするかな」
ファットがニヤリと笑い、犬歯を見せている。おうよ、海賊を頑張りながら手伝ってやるんだぜ。で、この船、要らなくなったらくれませんかねー。
「旦那、旦那、ランの旦那」
はいはいはい、聞いているんだぜ。
「帝都までは一緒に来て欲しいんだぜ」
いや、俺の家は帝都にあるからね。転移を使って帝都と往復するつもりだよ。
「こいつを帝都まで連れて行かないとだめなんだぜ」
キョウのおっちゃんが、そう言って足下のソース君を指差す。そうだな、ソース君がいたか。って、コイツがいるから《転移》も使えないじゃないか! それに取り戻そうとして他の魔族でも来たら厄介だし、ホント、何てヤツだ! えーっと、俺のパーティに加入して貰えませんかねー。そうすれば《転移》を使って一発で帝都に戻れるんですけどねー。
ソース君がモガモガ言いながら俺を睨んでいる。はいはい、大人しくしていようね。
「ぼ、僕はランと一緒に迷宮都市に行くぞ!」
おー、ジョアンはついて来てくれるか。前衛がいるのは、ホント助かるからありがたいぜ。
「旦那、悪いけど、俺はついていけないんだぜ。さすがに帝都でやることがあるんだぜ」
え?
え?
キョウのおっちゃん、来ないのかよ。マジで? って、まぁ、キョウのおっちゃんって帝都の隠密みたいな感じだもんなぁ。キョウのおっちゃんの目的である『世界の壁』の防壁の復活も目処がついたんだもんな。
そっかー。
ま、仕方ないか。
それにさ、これで二度と会えなくなるワケじゃないしさ、うん。
『キョウ殿、自分の家は帝都にある。いつでも会いに来て欲しい』
だよー。
「いやいや、今すぐじゃないんだぜ? 旦那にも護衛として帝都まで付き合って貰うんだぜ」
あー、そう言えばそうだったな。
にしても本当に終わったって感じがするなぁ。一区切りついたって感じだ。
帝都に、大陸に渡ってからここまで長かったよなぁ。うん、長かった。えーっと、誰か一人忘れている気がするけど、うん、問題無いな!
「軍船が見えてきたぜ」
ファットが船内に軍船を拡大して映し出す。
「妹分のリーンと、えーっと、その猫侍を軍船に降ろして、俺様たちはすぐにキャラ港に戻るでいいよな?」
「え!」
猫耳少女が驚いた声を上げる。
「ファットの兄貴さんは、来ないの?」
「何言ってやがる。俺様は自由な海賊よ!」
猫耳少女が悲しそうな顔をする。
「ま、まぁ、こいつらを送ったら遊びにくらいは行ってやるぜ。影ながらフォローするって言ったしな!」
「うん!」
おうおう、さすがはファットの兄貴だな。
軍船が見えてくる。おー、結構、ボロボロになってるけど、ちゃんと浮いているな。近くに海賊達の船も見える。みんな無事だったか。
「あー、イーグルたちに掴まったら面倒そうよ。急いで行くぜ!」
ファットが叫ぶ。
はいはい、そうだな。
さ、帝都へ、懐かしの我が家へ帰るんだぜ!