4-56 枯木竜吟
―1―
転送装置が作動し、ジョアンが現れる。それに続いて14型も現れる。あー、お帰り。いや、お帰りって言うのは変か。
「ラン、終わったんだな!」
ジョアンが痛む腕を押さえながら、こちらへと走ってくる。おう、終わったんだぜ。
現れた14型さんは、そのまま気絶しているファットの方へと歩いて行く。そして、その猫髭を掴み、台座の前へと引っ張って行く。ちょ、猫髭取れちゃう、猫髭取れちゃうよ。
「あいてて、俺様を引っ張るのは誰よ……、ひ、ヒィっ」
ファットが目を覚まし、14型を見て悲鳴をあげる。おいおい、俺たちがいない間に下で何があったんだ? もしかして14型から逃げるために、こちらへ上がってきたのか?
「そこの小さいのも早くこちらへ来るのです」
ん? 14型さん、どうしたの?
「まだ燃料が残っている内に早くするのです。あなたたち能無しがぐずぐずして手遅れになったらどうするのです」
ううん? ど、どうしたんだ?
ファットが飛び起き、猫耳少女も台座の前へ進む。そして、ファットが台座に触れると周囲の風景が映し出された。あ、そう言えば、さっきの戦いの時は消えていたな。コラスが自慢気に表示させていたのに――何だろう、省電力モードみたいな感じになっていたんだろうか?
そして、周囲の状況を見て理解した。
落ちてる、落ちてるじゃん! 魔石がなくなったから暴走は収まったけど、燃料がないから落ち始めているのか。お、おい、これ、どうするんだ?
俺の足下のソース君は何か言いたそうにもがもがしていた。あ、なんだろう、ニヤリって感じですっごい苛つく顔をしている。苛つくし、ちょっと、蹴っておこうかなー。
「私がサポートするので、二人で早く動かすのです。それと……」
そう言って14型が俺とキョウのおっちゃんを見る。
「私のマスターのために他の迷宮とのリンクも復活させなさい」
あー、そうか。そう言えば、その為にこの迷宮に来たんだったよな。でも、燃料がなくなっているみたいだけど大丈夫なのか?
『14型……』
俺が天啓を飛ばすと、14型が分かっていますという感じで頷いた。
「大丈夫なのです。このまま無視しても、この状態なら私たちは助かります。ただ、この先にある巨大な船の町にぶつかって、その船を沈めるくらいです」
いや、それ、大丈夫じゃないだろ! って、聞きたいのは、そうじゃなくて、いや、それも大事な情報だけどさ。
「ふむ。マスター、リンクの件でしたら、燃料がなくても大丈夫なのです。繋がっている限り、少しずつではありますが、周囲の魔素を変換して壁へと送ってくれるのです。そこに敵がいるのでわざと言わなかったのですが、考え無しのマスターがどうしても知りたそうだったので答えるのですが、そういうことなのです」
えーっと、ちょっと待て、お前、えーっと。いや、うん、あれだ! 分かっているなら言うんじゃないよ! あー、そうか、確かに、ここに魔族がいるもんな。魔族に情報を提供しちゃうことになるもんな。魔族を防ぐために『世界の壁』を起動させるのが目的だもんな。おま、配慮してくれたのはいいだろう、でも、結局、喋っちゃったら意味ないじゃん!
まぁ、14型さんだもんな、仕方ないか。
「で、それはどれくらいの時間がかかるんだぜ?」
キョウのおっちゃんが14型に尋ねる。そうだよね、気になるよね。
「……」
無反応な14型さん。えーっと……。
『14型?』
「ふむ。私の試算だと2年というところなのです」
14型さんがやれやれという感じで教えてくれる。2年、2年かぁ。ちょっと長いよね。その間、魔族が侵入し放題か。ま、でもさ、対策をしないよりはした方がいいよね。
ファットと猫耳少女が二人で台座を操作する。ふむ、二人で操作する必要があるのか? というか、何をやっているのか気になるよね。
―2―
二人と14型が操作している姿をぼーっと観察する。暇だなー。
頭の上の羽猫にちょっかいをかけて時間を潰す。はは、こやつめ。
しばらくすると14型がこちらへと歩いてきた。はい、何でしょう?
「マスター、リンクは完了しました。後はこの聖院から離れるだけなのです」
ふむ。そっかー。これでキョウのおっちゃんの依頼は完了っと。長かったなぁ。
「着水までに、来た時に乗っていた船へと避難することを推奨するのです」
ふむふむ。
「沈んでしまうと、この迷宮から脱出する方法が無くなってしまうのです」
ふむふむ、む? いや、それって駄目じゃん。ヤバイ状況じゃん。
「着水までは、後4時間と予想されるのです」
えーっと、おい、急がないとヤバイじゃん。て、転送装置みたいなのはないのか?
「私とマスターの移動速度なら充分に脱出可能かと思われるのですが」
あ、はいはい。続く言葉はわかるよ。猫耳少女やファット、ジョアンはアウトだよね。ミカンやキョウのおっちゃんは、まぁ、なんとか大丈夫だろうけどさ。
『14型』
14型さん、お願いします。
「マスターの頼みとあれば、仕方ないですね。本当は嫌なんですけど、頼られているのだから仕方ないですね。本当に仕方ないんですよ」
あ、はい。お願いします。
『キョウ殿、ミカン、この迷宮は海に沈む。それまでに脱出を!』
俺は全員に天啓を飛ばす。
14型がファットの首根っこを捕まえ持ち上げる。あのー、14型さん、もうちょっと威厳を保てる持ち方をしてあげてください。そして、魔族も持ち上げる。持ち上げる時にソース君が暴れていたが、14型がお腹に拳を入れると静かになった。えーっと殺してませんよね? と、14型は、この二人で手一杯って感じか。
ミカンが猫耳少女を抱える。うん、そっちはミカンに任せれば大丈夫か。と、後はジョアンか。あ、そうだ。ちょうど、MPも増えたんだし《浮遊》スキルで運ぼう。クソ餓鬼どもを浮かせたこともあるし、出来るよな。
『ジョアン、盾を地面に置くんだ』
俺の天啓にジョアンが不思議そうな顔をしながらも宝櫃の盾を地面に置く。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし、宝櫃の盾に結びつける。
『ジョアン、盾の上に乗り、落ちないようにしっかり持つんだ』
ジョアンが盾の上に乗る。
「ら、ラン、何をするつもりだ?」
よし、よし。
『では、自分は先に地上にて待っている。各自、遅れないように』
――《浮遊》――
浮遊を使いジョアンごと宝櫃の盾を浮かばせる。よし、所有者がジョアンの宝櫃の盾でも浮かせることが出来たぞ。パーティメンバーだから出来たのかな? この辺も要検証だよね。
――《飛翔》――
飛翔を使い、飛ぶ。高速で来た道を戻っていく。
「う、うわ、わあああああ!」
さあ、時間はないんだ、一気に迷宮の入り口まで戻るぞ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ」
と、曲がり角なんかでジョアンを壁にぶつけないようにだけは気をつけないとね!
曲がり角などでは《飛翔》スキルを止め、クールタイムの回復に努め、直線では《飛翔》スキルでかっ飛んでいく。《飛翔》スキルも使用時間に制限があるから仕方ないね。再使用時間が短いのだけが救いか。いやぁ、でも最大MPが多いってのはいいなぁ。魔法が使い放題だもん。
これさ、俺が魔人族のエンヴィーに自身の魔石を奪われなかったら、当時から出来たってことなんだよな。何という回り道。ま、でもさ、俺の魔石はより力をつけて戻ってきたんだから、もうアレコレ言うのは止めよう。
後は迷宮都市に向かって情報を集めてエンヴィーに思い知らせれば解決だな!