4-55 変身
―1―
【上位魔法の覚醒を促します】
【成功】
【未習得魔法から習得可能範囲の魔法を検索します】
【一部成功】
【[サモンアクア]の魔法が発現しました】
【[ウォーターリップル]の魔法が発現しました】
【[アクアウェポン]の魔法が発現しました】
【[ハイスピード]の魔法が発現しました】
【[ウィンドプロテクション]の魔法が発現しました】
【[クリエイトインゴット]の魔法が発現しました】
【[アイスランス]の魔法が発現しました】
魔法が次々と発現していく。
そして右目、視界に表示される青い縦長のメーター。何のメーターだ?
「な、何をしている」
何かが迫る感覚。俺は、まどろむ繭の中、とっさに手を伸ばす。手?
繭が斬り裂かれ、水の剣が迫る。それを手で掴み消滅させる。
――[エル・アイスランス]――
俺の手から無数の巨大な氷の柱が伸びる。まるで絡み合う樹木のように、枝のように、氷が伸びていく。
「く、何が」
魔族の男が何か必死に何かの魔法を使い氷の柱を防ぐ。が、防ぎきれず氷に囚われる。
俺はそれを確認して繭に手をかけ、外へと出る。そして自身の姿を見る。少し色は白いが腕、足……、ま、まさか、人の姿か? あ、そうだ。
――[ウォーターミラー]――
目の前に水の鏡を張る。これで姿が見えるな。
鏡の中には一人の少女が居た。いや、何だ、コレ。
140センチほどの身長、白すぎるくらいの肌、長く伸びた青い髪、可愛らしい人形のような顔、青の瞳と赤の瞳。いやいや、確かに昔も中性的な容姿だった覚えがあるけどさ、ここまで女の子みたいな容姿じゃなかったぞ。って、今、全裸じゃん。
うん、胸はないな。良かった、そこまで女の子じゃないぞ。で、下は……何も無いな。うん、ホント、何も無い。
と、背中に何か感触が。後ろを振り返り、背中を鏡に映す。背中に4つのこぶがあるな。って、コレ、芋虫状態の時に足だった部分か。
俺がこぶにちょっと気合いを入れると、そこから光の粉が噴出した。もしかして羽か?
って、さっきから、何だろう、表示されている青いメーターが減ってる気がする。
あ! そうだ。うん、いつまでも全裸ってのも、アレだ。
――《魔法糸》――
魔法糸を紡ぎ、簡易的な服を作り上げる。お、魔法糸の出力が上がっている気がする。
辺りに散らばっている装備品を拾って装備しておくか。フェザーブーツを履き、夢幻のスカーフを結び、夜のクロークを羽織り、女神の白竜輪を身につけ、
――《換装1》――
てぶくろに指を通す。てぶくろに指を通した瞬間、てぶくろの形状が変わる。レースの手袋って感じだな。ああ、こういう仕組みだったのか。
うん、さっきから青いメーターがどんどん減ってるな。
しかし、アレだな。この姿って、どーにも擬態って感じだな。人間ぽい外見だが、あくまで形だけを真似ているように見える。体の中にある内臓や骨が人のそれと違う感じがする。以前の芋虫の姿がそのまま埋まっていても驚かないぞ。
これはアレか、可愛らしい少女の外見で人をおびき寄せて食べてしまうような魔獣って感じがするな。そう思うと、この姿に進化したのも納得出来るか。
俺の姿をゆっくりと観察していた羽猫が俺の肩に飛び乗る。あー、あくまで俺の上に居座ろうとするのね。まぁ、頭の上よりはいいか。
俺は真紅を拾う。
叡智のモノクルは消えたのに、普通にシステムメッセージも線も見えている。何だろう、目の奥にモノクルがある感じだ。
しかし、これからは、この姿が俺の姿になるのか? うーん、女の子ぽい姿はかなり違和感があるなぁ。
さっきから、青いメーターが減っているんだが、これ、何のメーターだ?
と、そうだ。キョウのおっちゃんとミカンは大丈夫か? 二人とも大怪我だったもんな。
魔族の青年が氷から抜けだし、何かを叫びながらこちらへと駆けてくる。鬱陶しいなぁ、今は二人の状態の方が心配なんだって。
――[エル・アイスウォール]――
高くそびえ立つ氷の壁が魔族の青年を取り囲む。はい、その中で静かにしていてください。
「くそ、何だ、この魔法は! まるで我らが主のような力を」
――[エル・ヒールレイン]――
気絶していたミカンへと癒やしの雨を降らせる。癒やしの雨がミカンの傷を癒やしていく。よし、これでミカンは大丈夫だな。
次はキョウのおっちゃんか。
俺は斬られたキョウのおっちゃんの足と腕を拾い、キョウのおっちゃんの元へ。
「だ、旦那、旦那が女の子だったんだぜ」
いや、女の子じゃないんだぜ。
――[エル・ヒールレイン]――
癒やしの雨を降らせ、足と腕をくっつけていく。おー、出来るかなっと思ったけど、本当に出来るとは、やるじゃん、俺。
何だろう、魔法の使い方が内から沸いてくるというか、すらすらと自然に理解出来るな、何だろうコレ、コレが《変身》スキルの効果か?
「ふ、ふざけるな! え、えーい、この青様の副官である私の力を舐めるな!」
ほー、魔族の副官? なのか。
赤い右目で魔族の副官を見る。
【名前:ソース・クルトン・青】
【種族:人】
お、鑑定がパワーアップしているのか、魔族の情報も読めるようになってる。って、クルトンって、あのクルトン? ソースに食べ物のクルトン?
「ソースか」
ソースって名前に、思わず呟いてしまったな。って、え? 俺の声? ちょっと声が高すぎる気もするけど、確かに俺の声だな。この体って声帯があるのか? ひ、久しぶりに喋ったぞ。
「な、何故、私の名前を!」
いや、何故って鑑定で。そういえば魔族って鑑定を無効化するんだったか。だと、名前を読まれたのは初めての経験なのかもしれないね。
「くっ、不気味なヤツめ。さすがは星獣と言うことか!」
ソースが無数の、いや、数十個ほどの水球を生み出す。ふむ、[ウォーターボール]の魔法かな。その魔法、俺も習得しているんだよな。
そして、その水球たちをこちらへと飛ばしてくる。おー、俺の[ウォーターボール]と違って早い。
――[ウォーターミラー]――
前方に水の鏡を張る。水の鏡がソースの[ウォーターボール]を跳ね返す。魔法は無効なのだった、うむす。
「くっ!」
ソースが水の刃を生み出し、自身の水球を斬り、消滅させていく。おー、ちゃんと対応出来たのか。よし、ならば!
――[エル・ウォーターボール]――
俺は数千の水球を生み出す。うん、沢山作れたよ。ソース君の水球は無数といっても数十個ってところだからね。もっと沢山作れて俺は満足だよ。
数千の水球がマシンガンのようにソースへと降り注ぐ。ソースは水の刃を使って、水球を必死に斬っていく。しかし、その数に押され、次々と水球をその身に受けていく。
「はぁはぁはぁ、な、なんだ、その異常な魔法の力は」
お、耐えきったのか。もしかすると水属性に耐性があるのかな。
「っ!」
ソースから小さく透明な水の粒が放出される。ああ、俺を貫通したのってコレだったのか。右目の性能が上がったのか、しっかりと見えるな。
――[エル・ハイスピード]――
風の鎧が俺を覆い体が軽くなる。俺は一瞬で魔法を発動させ、飛んで来た水の粒を回避する。これなら《飛翔》スキルを使わなくても充分だな。
「無駄だ。大人しく抵抗を止めて投降しなさい」
お前を捕虜にするんだぜ。
「舐めるな! 魔を導く民が星獣などに屈するモノか!」
む。
「私の最大の魔法の力をもって!」
むむ。何やら奥義的なモノを使うつもりか。本来なら、ここで発動前に魔法を潰すべきなんだろうなぁ。でもさ、わざと受けて打ち破れば、心を折ることが出来そうだよね。よし、受けて立とうじゃないか。
ソースが巨大な水の剣を作成する。ほー、時間を掛けるだけあって喰らったらやばそうな感じだな。でもさ、魔法ってことは[ウォーターミラー]で跳ね返せそうだなぁ。いや、それだと、こちらの方が上だって印象づけることが出来ないか。よし、……どうしよう。
手に持っていた真紅がささやく。そして、それと共に真紅が黒く染まっていく。
――[エル・ウィンドウェポン]――
真紅に風の力が集まる。そして風の刃へと、その姿を変えていく。今なら分かる、なるほど、クルーエルキュクロープの魔石の力を完全に取り込んだのか。この力が付与魔法を可能としているんだな。
そしてソースの水の刃が完成する。それを大きく振りかぶり、こちらへと振り下ろす。上段から巨大な水の刃が迫る。迎え撃つぜ!
巨大な水の刃を風の刃で迎え撃つ。風の刃が水の刃を真っ二つにする。ソースの驚いた顔。俺はそのまま真紅をもう一振りし、ソースの両手を切り飛ばす。ソースの顔が苦痛に染まる。お前はキョウのおっちゃんの左腕と左足を斬ったもんな、お返しだよ。
――《魔法糸》――
そのまま、強力な魔法糸を飛ばしソースを拘束する。
「くっ、はなせ!」
と、更に。
――《魔法糸》――
魔法糸を紡ぎ、猿轡を作成する。ちょっと黙っていてくださいね。
――[ヒールレイン]――
一応、癒やしの雨を降らし傷を癒やしてあげる。いやね、こんな途中で、こんなことで死なれたら困るもんね。
ソースがもがもがと喋りながら暴れている。さてと、後はキョウのおっちゃんに任せるかな。帝都で尋問なり、拷問なりをして魔族の情報を頑張って手に入れて貰わないと駄目だもんね。
そこで青いメーターが全部なくなった。
その瞬間、俺の体は光に包まれ、元の芋虫の姿に戻っていた。え?
羽猫が俺の頭の上に移動する。え?
え?
ええ?
ちょっと待て。おかしいだろ。
発動する時は繭に包まれてそれっぽいのに戻る時は一瞬かよ。おかしいだろ。
装備していたモノも、そのままとかおかしいだろ。発動する時は装備が外れたよな? おかしいだろ。
そんなの絶対におかしいだろ。
しかも《変身》スキルが発動しなくなっている。クールタイム中なのか?
ま、魔法もさっきみたいな強化が出来ないぽいぞ。イメージが全然、頭に浮かんでこない。お、おい、どうなってるんだ。
人ぽい外見になったとか、ぬか喜びさせるなよ。なんだよ、コレ。希望が見えた分、今までよりも絶望感が半端ないんですけど。
ちゃ、着実に進化していったら、あんな感じになれるってコトなんでしょうか? う、うーむ、それなら前回、進化をキャンセルすべきじゃなかったなぁ。
「はは、旦那は旦那なんだぜ」
キョウのおっちゃんがよろよろと立ち上がりながらこちらへと歩いてくる。あ、はい。
「……」
俺は喋ろうとして、声が出ないことに気付く。はぁ、はかない夢だったか。
『キョウ殿、その魔族は拘束した。後は頼む』
キョウのおっちゃんが頷く。
「おう、任されたんだぜ」
キョウのおっちゃんに任せれば、このもがもが言っている魔族を帝都で上手く処理してくれるでしょう。
「う、うーん、はっ! た、戦いは?」
ミカンも目が覚めたみたいだ。
戦いが終わったことに気付いたのか隅っこで大人しくしていた猫耳少女がファットを置いてミカンの元へ駆け寄っていく。
「ミカンお姉ちゃん」
ミカンがそんな猫耳少女を受け止める。
あー、これで全部終わったぽいな。ファット様は、まだ気絶しているようだけどな。