4-53 空舞う聖院制御室
―1―
さあて、行きますか。
「旦那、一応、これを渡しておくんだぜ」
キョウのおっちゃんからポーションの小瓶を受け取る。
「貴重なMP回復ポーションなんだぜ。いざって時は使って欲しいんだぜ。でも、出来れば使って欲しくないんだぜ」
どっちなんだよ! ま、まぁ、貴重だから出来るだけ使って欲しくないってのは伝わったぜ!
俺、キョウのおっちゃん、ミカンが転送装置に乗る。さあ、いざ行こう、決戦の舞台へ。
って、今回も3人か。世界樹の時は俺とミカンにシロネさんで、世界の壁の時は俺とキョウのおっちゃんにジョアンで、今度は俺とキョウのおっちゃんにミカンか。
「にゃあ」
ああ、そう言えば羽猫と14型が居たか。まぁ、君らは俺のオプション扱いだからね、だからね! ま、今回も羽猫は参戦だな。またランクアップしてくれるかもしれないしね。
転送装置に乗ると周囲の景色が変わった。
ああ、制御室だな。そして、俺たちの目の前にはコラスとリーンが居た。
「おやおや、これは皆様遅いおつきですなぁ」
コラスはそう言って手に持ったリードを引っ張る。リードの先にはトゲだらけの首輪とリーンが。リーンの首が引っ張られ血が落ちる。
「あ、痛い……」
よく見ればすでに首輪は血で真っ赤になっている。お前、その子が死んだら困るんだろ、ちょっと扱いが酷くないか?
「にしても、コウ・コウはあっさりとやられてしまいましたなぁ」
えーっと、確か、見えない壁は解除したって言っていたよな。よし、ファット、信じるぜ。
「それにしても、そこの魔獣」
さーってと、前回は見えなかった魔晶核って線がコラスの体にも見えるな。
「まさか星獣様だったとは」
うん、お腹部分か。
「やはり私たちの前に立ちはだかると……」
――《飛翔》――
俺は真紅を構え高速で飛ぶ。敵の前口上なんて悠長に聞いてられるかよ! お前にも魔石核があるってのは見えているんだぜ。
そのまま真紅がコラスの魔石核を貫く。よし、見えない壁、ちゃんと消えているじゃん。
コラスは俺の動きがまったく見えてないようだった。自身の魔石核が貫かれたのが信じられなかったのか驚いた顔でこちらを見ている。
俺はね、前口上をべらべら述べるの待ったり、余裕余裕って舐めプして失敗したり、なんて馬鹿な真似はしないんだぜ、ふふーん。
そして真紅が魔石核を喰らう。貫かれたコラスがびくんと跳ねる。そのまま真紅を引き抜きコラスを投げ捨てる。
コラスさんよ、お前の敗因は俺を怒らせたことだぜー、なんてな。で、猫耳少女は大丈夫か?
猫耳少女の方を見ると、ミカンが猫耳少女の元へと走っていた。
ミカンが手に持った刀を一閃、首につけられた首輪を切り落とす。しかし、ミカンは何か気に入らなかったのか、刀を振り回して感触を確かめていた。お、おい、ちょっと待って、もしかして間違えて斬り過ぎちゃったとか、無いよな、無いよね?
「お姉ちゃん……」
猫耳少女がミカンに抱きつく。大丈夫だったのか。うん、良かったね、終わったね。
―2―
「はっはっはっはー。俺様登場よ」
何故か、ファット様も転送装置から現れる。いやいや、お前、何勝手に持ち場を離れてるんだよ、今、誰が操作してるんだよ。
ファットが笑いながらリーンの元へと歩いて行く。ホント、自由だなぁ。
「よぉ」
ファットがリーンに話しかける。しかし、猫耳少女はファットを知らないようだった。あれ? 知り合いかと思ったらそうじゃないのか?
「え、えーっと」
ファットがびしっと指を自分に向ける。
「海賊はよ、弟分、妹分を見捨てないんだぜ。俺様が助けに来たからにはもう大丈夫よ」
えーっと、それを実行したの俺なんですけど。確かにファット様のネウシス号にはお世話になったけどさ、戦ったの俺なんですけどー。
「え!」
「お前はよ、ちっちゃかったから覚えてないか? お前の両親と一緒に俺様の船に乗せてやった時によ、俺様の弟分の真似をしてファットの兄貴ー、兄貴ーって俺様の後をついてきてたんだがなー」
あー、そんなことがあったのか。
「も、もしかして、もしかして! ファットの兄貴さんですか」
猫耳少女の言葉。
「おうさ、俺様よ」
それをファット様が何故か超得意気に答える。
「言ったろ、海賊は身内を大事にするってよ。大切な妹分だ、だから俺様自ら助けに来たんだよ」
なるほどな。そういう繋がりだったのか。
しかしまぁ、これでめでたし、めでたしだな。
……。
と、その時だった。
コラスの死体の方から、無数のしなる鞭のようなモノが走る。迫る赤い線。俺はとっさに真紅を構え、鞭を跳ね返す。
猫耳少女に気を取られていたミカンはそのまま弾き飛ばされ、とっさに猫耳少女をかばったファットは猫耳少女と一緒に弾き飛ばされる。
ミカンは空中で一回転し、受け身を取って着地する。ファットと猫耳少女は壁へと弾き飛ばされ、そのまま壁に当たり、地面に転がる。お、おい、ファット大丈夫か?
「クククク、ヒヒヒヒ、クヒクヒヒ」
コラスの死体から笑い声が聞こえる。
コラスの死体から無数の触手が伸び、その体を持ち上げる。い、生きていたのか? いや、でも魔石核を壊したよな? って、そう言えば、何で魔石核を壊したのに、体が崩れていないんだ?
「何て、何て、恐ろしい魔獣なんでしょうなぁ。人の話は最後まで聞くモノですよ」
確かに死んでいたコラスが甦り、喋り始める。
「いやはや、一瞬とは言え、死ぬかと思いましたな」
コラスの周囲の魔素が減っている? まさか吸収しているのか?
「うんうん、それにしても、どうやったのか魔石核の位置が分かるようですな。さすがは星獣様というわけですか」
ふぅ、ま、アレで終わりってワケにはいかないか。ここからが本番ってコトだな。
俺はファットの方を見る。ファットはどうも気絶しているようだ。かばわれた猫耳少女は無事なようだな。が、これから戦いになるし、そのまま端っこでファットのことを見ていて欲しいな。
というかさ、ファットさんよ、お前がのんきにこの制御室に来なければ、もうちょっと戦い方もあったんだけどなぁ。こう、見えない壁でコラスを閉じ込めるとか、色々な! って、今更愚痴っても仕方ないか。
「魔石核があるのが分かるなら、今の私の状態もわかりますかな?」
そう言ったコラスの体には7つの魔石核という線が見えていた。ああ、一個壊したから、7個ってコトか。うん、いや、ちょっと待て、何だ? 何が起きている?
7個の魔石核の下に、新しい線が出来る。コラスが喋っている間に8個目の魔石核が作成されていた。
「ほう、やはり見えるようですな。私の体には8個の魔石核が埋め込んであるのですよ。しかも、全て同時に壊さない限り、再生するのですよ。その意味が分かりますかな」
なるほどな。それで再生しているのか。
「他の魔石核を休憩させている間を狙って攻撃を受けたのでびっくりしましたが、今ではこの通りですよ」
もしかして、1個しか見えなかったのは、他の魔石核を眠らせていたからなのかな。うーん、その辺はよく分からないな。
「無限に再生するこの力、恐怖が分かりましたかな」
あっそ。自慢気に無限再生出来るぜ的なコトを言っているけどさ、俺には周囲の魔素を吸収して再生していたのが見えているからな。つまりだ、周囲の魔素が無くなるまで、再生が追いつかなくなるまで壊し続ければ勝ちってコトだよな。俺もガンガン魔素を吸収してやるつもりだし、ま、お前はそうやって勘違いして無限再生出来ると思ってな!
無駄だと思われるくらいにガンガン攻撃して再生出来なくしてやるよッ!