4-51 空舞う聖院動力室
―1―
ファットの案内で動力室へ。ここも扉ぽいモノで塞がれているな。
「ここを開けたら動力室よ」
いやぁ、ファットさん、よく動力室だって分かったね。動力って存在が分かるのか? うーん、翻訳機能の関係でそれっぽいことを言っているのが動力室って単語に変換されているのかな。
で、ファット様が扉を開けてくれるワケですね。でもね、俺はね、凄く嫌な予感がするんですよ。何だろうなー、こういう時ってさ、うん、開けたら分かるよね。
と、そこで後ろから小さなうめき声が聞こえた。見るとジョアンが利き腕を抱えて片膝をついていた。おいおい、本当に大丈夫?
――[ヒールレイン]――
俺はジョアンへと癒やしの雨を降らす。しかし、あまり効果が無いようだ。
「旦那、あの蜥蜴人が使っていた無異装備の力だと思うんだぜ」
むう。それって大丈夫か?
「ら、ラン、ありがとう。良くなったから」
本当かよ? 無理はするなよ。
「じゃ、開けるぜ」
ファットが扉に触れると、光る線が走り三方向へと分かれて扉が開いていく。そして広い動力室の奥に、俺が予想していたモノが居た。ああ、当然居るよな、そうだよなー。
巨大な砂時計のような装置を守るように、ぷかぷかと浮かぶ巨大な金属の球体と、それを護衛するように2つの球体が浮いていた。
「うお、何やら危険なのがいるじゃんよ、俺様は後ろを守っているぜ」
ああ、ファット様は後ろに居てください。危険ですからね。
俺はファットを守るように前に出る。って、ここまで狙ったかのように敵が居る場所に誘導されるとさ、ファットも実はコウみたいに裏切るんじゃない? って思っちゃうよなぁ。ま、さすがにそれは無いだろうけどさ。うん、考えすぎだ。単純にファットが考え無しなだけだろうよ。
巨大な金属の球体がこちらに気付いたのか激しく回転を始める。何だ、何だ? しかし回転はすぐに止まった。そして金属の球体の中央に線が走り、開いていく。まるで瞳のように、目が開かれていく。
巨大な目が開く。そして、その瞬間、俺の視界に赤い線が走る。俺はすぐさま自分の手に持った真紅を起動せさ、元のサイズに戻す。じゃきーんとな。
そのまま赤い線から守るように真紅を盾にする。
巨大な目から熱線が放出され、それを真紅が受け止める。そして、そのまま真紅が熱線を逸らしていく。やがて熱線の放出が止み、巨大球体の瞳が閉じていく。いやあ、とっさに真紅で受け止めたけど何とかなって良かった、良かった。
真紅がいきなり何てことをするんだとでも言わんばかりに握り部分の蜘蛛足をわしゃわしゃと動かした。いやいや、真紅さん、君なら出来ると思ったからだってばさ、頼りにしてますよー。凄いぞ、真紅。さすがだ、真紅。
俺が心の中で褒めたのが伝わったのか、わさわさと動いていた蜘蛛足の動きが止まった。ちょ、ちょろいぜ、真紅さんよ。
わさわさ。
いや、何でも無いぜ。
―2―
『14型』
俺は背後に控えた14型からコンポジットボウと硬木の矢を受け取る。まずは小さな球体を狙うか。
――《チャージアロー》――
硬木の矢に光が集まっていく。
「その間の時間稼ぎは私が行うとしよう」
ミカンが駆けていく。えーっとミカンさん、大丈夫? もう使える陣は屠竜陣しか無かったような……。
小さな球体の1つがミカンへと飛んでいく。おー、アレの攻撃方法って体当たりなのか。ミカンが小さな球体の攻撃を難なく躱し、すり抜け様に刀で斬り付ける。しかし、刀が球体に弾かれる。ミカンが刀を振り、後退する。あ、ミカンさん、舌打ちしました?
と、ここで硬木の矢に光が最大まで集まる。よし、放つぜ。
先程、ミカンを狙った小さな球体とは別の、もう一つの球体に狙いを定めて光り輝く硬木の矢を放つ。こういうのは本体よりも周囲の雑魚から削っていくのが基本だからね。
狙っていた球体とは別の体当たり球体が高速で移動し、光の矢を受ける。あー、そっちが攻撃兼防御なのか。
硬木の矢が小さな球体を貫通する。球体は浮力を失い、コロンと地面に転がる。あ、楽勝ですね。
と、そこでまたも巨大な瞳が動きだす。その瞳が少しずつ開かれていく。今度はミカンを狙っているようだ。むう、仕方ないなぁ。
俺はミカンをかばうように駆け出す。それと共に視界に赤い線が灯っていく。はいはい、危険ってことね。では、真紅さんお願いします。
俺は真紅を翳し、先程と同じように巨大な瞳から放たれる熱線を受け止め、逸らしていく。意外と何とかなりそうだな、って、おい。
もう一体の小さな球体が地面に転がっている攻撃球体に近寄り、体から針のようなモノを伸ばして何かの作業をしていた。ま、まさか修理しているのか? 不味い! 俺はこの熱線を受け止めているから、動けないし……。
『ミカン!』
俺の天啓を受け、ミカンが走る。そして修理している球体へと刀を振り下ろす。しかし、刀は弾かれてしまう。数度打ち付けた所で、ミカンは攻撃を止め刀を鞘へと戻す。
――《月光》――
ミカンがスキルを発動させる。刀が鞘へと仕舞われるカチンという音だけが響く。しかし、球体は何事も無かったように修理を続けている。それを見たミカンが一瞬口を開け驚くが、すぐに顔を引き締める。ミカンの刀って、結構いいモノだったよな、それでも通じないのかよ。どうする、どうする?
キョウのおっちゃんは次の行動に備えて、状況を見守っている。まぁ、攻撃能力の高いミカンで通じないんだから、キョウのおっちゃんが行っても、どうしようもないもんな。
修理が終わったのか攻撃球体が再び浮かび上がる。それを追うように修理球体も針を仕舞い、浮かび上がった。
熱線が止み、巨大球体が瞳を閉じる。うーん、振り出しか。
―3―
多分、チャージしていない、普通の硬木の矢だと弾かれてしまうんだろうなぁ。《チャージアロー》って防御無効というか、何でも貫通しちゃうよ的な力があるように見える。こういう硬い敵に凄い有効だもん。さあ、どうする、どうする?
「ら、ラン、任せて!」
後ろからジョアンが声をかけてくる。って、大丈夫なのかよ。
「小僧、無理するんじゃないんだぜ」
キョウのおっちゃんの言葉にジョアンが首を振り、そして俺を見る。行けるんだよな?
ジョアンが頷く。
よし、頼むぜ!
――《集中》――
失敗しないように集中するぜ。
『14型』
俺は14型に天啓を飛ばし潮の矢を受け取る。少しでも威力が上がるように属性矢を使おう。
――《チャージアロー》――
潮の矢に光が集まっていく。属性矢を使い捨てるのは勿体ないけど、仕方ない。
「ここは私が!」
ミカンが飛び回る小さな球体の相手をする。刀ではなく、鞘を持ち、鞘で球体を叩き付けている。えーっと、それは有りなんですかね。まぁ、刀では斬れないし、刃こぼれでもしたら大変だもんな。
そして光り輝く潮の矢を放つ。先程と同じように攻撃球体が光の矢を受ける。潮の矢に貫かれた攻撃球体がコロンと地面に落ちる。属性矢を使ったからか先程よりも壊れているように見えるな。
先程同じように修理球体が攻撃球体の元へ動き、修理を始める。そして、それを守るように巨大球体の瞳が開かれていく。そして巨大球体から熱線が放たれる。
「ぼ、僕がっ!」
ジョアンが前に出る。そして宝櫃の盾を利き腕で支えるように構える。
熱線が宝櫃の盾に当たり、その威力にじりじりとジョアンが後退していく。む、さすがに万全の状態では無いジョアンだと支えきれないか?
「気にするな、ラン行って!」
ジョアンが叫ぶ。そうだよな、このチャンス、逃す訳にいかないよなッ!
――《飛翔》――
俺は真紅と共に修理球体の元へと飛ぶ。喰らえッ!
――《スパイラルチャージ》――
真紅が赤の螺旋を纏い、修理球体を削っていく。硬い、硬い。真紅の力を持ってしてもちょっとずつ穴を開けていくのがやっとな硬さだ。くそ、早く壊さないとジョアンが。
「旦那、俺の存在を忘れたら駄目なんだぜ」
俺はジョアンの方を見る。キョウのおっちゃんが宝櫃の盾を構えるジョアンを支えていた。
「それなら俺様も手伝うってよ」
ファットも横からジョアンを支える。
三人で力を合わせて熱線を受け止めていた。ああ、任せたぜ!
やがて真紅が修理球体を貫いた。そのままの勢いで半分治っていた攻撃球体も貫く。こちらは壊れて剥き出しになっていた部分があった為、簡単に貫通させることができた。
修理球体と攻撃球体が動く気配はない。あ、修理球体も《チャージアロー》で壊せば良かったのか? い、いや、溜めている時間がだね、う、うん、そうだよね。
よ、よし、残るは巨大な瞳だけだな!
そこからは簡単な作業だった。ミカンが瞳の方向を誘導し、その間、真紅で削る。完全に瞳が開かれたら真紅で熱線を受け止める。非常に硬く、時間だけは掛かったが危険も無く壊すことが出来た。うん、真紅さんが丈夫で良かったよ。これも日頃から魔石を沢山食べさせていたお陰かな。
よし、これで勝利だ。あ、この硬い球体も回収しておこう。貴重な素材になりそうでワクワクするね。
11月11日追加
巨大な砂時計のような装置を守るように、ぷかぷかと浮かぶ巨大な金属の球体と、それを護衛するように2つの球体が浮いていた。