4-50 空舞う聖院動力区画
―1―
金属球体人形も倒したからね、この階の探索を開始しますかね。
周囲を見回す。羽猫のライトの明かりで照らされた室内は結構広く、天井も高かった。うーん、遠くには小屋のような小さな建物も見えるな。明かりがギリギリ届くくらいだから、近寄ってみないとよく分からないな。ここ、ホント、何だろう。建物の横にはガラス? に覆われた何かも見えるな。よし、近くに寄って見てみよう。
と、その前に目の前の金属球体を回収しておこうかな。謎金属で作られているようだからね、持って帰れば何かの素材になるかもしれない。こういう時の為の魔法のウェストポーチXL! これで素材丸ごと持って帰れるのだ! 狩人のスキルで入れるコトが出来る数も拡張してあるからね、本当に便利に使えます。といっても、もうすぐ一杯なんですけどね……。
じゃ、とりあえずガラスと小屋のところに行ってみますか。
ここからもキョウのおっちゃんが先行して安全を確認してくれる。でもさ、ここって、なんだか、のほほんとしたところだよね。それにさ、俺には線が見えるから、キョウのおっちゃんに頑張って貰う必要も無いような気がするんだよなぁ。
建物に近づいたところで建物の壁に防御機構という線が見えた? 機構? 機構って何だ? 遠視を使ってよく見てみる。
『動くな!』
俺は慌ててキョウのおっちゃんに天啓を飛ばす。
何だあれ、建物の壁に小さな球体と、そこから銃みたいな形のモノがくっついているんですけど。アレか、自動で動くようなタレットか?
『14型』
俺は後方に控えていた14型に天啓を授け、コンポジットボウと硬木の矢を受け取る。
――《チャージアロー》――
光を最大まで溜め、放つ。硬木の矢がタレットを貫通し破壊する。よし、対象の沈黙を確認だぜ。じゃ、安全になったので建物に近寄りますか。
建物の横に作られていたのはガラスで作られた小さな箱だった。箱の中には土も見えるし、枯れた草のようなモノも見える。これはアレだ、えーっとぷらんたん? 違う、なんだろう?
「魔素による植物進化の実験プランターのように見えるのです」
おー、それか。14型さん、ナイスな回答だぜ。って、植物進化? えーっと、今、フラグになるようなことを言いましたか? コレはアレか、巨大化した植物が襲ってくるフラグか?
「しかし、失敗したように思われるのです」
あ、そうなんですか。枯れてますもんね。じゃ、大丈夫ですね。
じゃ、ちょっくら建物の中を見てみますか。ということでファット様お願いします!
「だ、旦那、寄り道をしている場合じゃないんだぜ」
キョウのおっちゃんが、小さな建物に取り付けられた扉の前に立っている俺へとそんなことを言う。いや、ちょっとだけだから、中を覗くだけだから。何か戦いで役に立つ有用そうなモノが見つかるかもしれないでしょ?
―2―
ファットに扉を開けて貰い建物の中へ。しかし建物の中には何も無かった。何かが置かれていたであろう痕跡はあるのだが、肝心のモノが何も無い。
「どうやら、漁られた後みたいなんだぜ」
だねー。でもさ、となるとさっきの真銀の斧があった部屋は何だったんだってことになるんだよな。それにこの建物に取り付けられていたタレットとかもさ。
うーん、真銀の斧があった部屋は危険過ぎて攻略した者が誰もいなかった。ここのタレットは『空舞う聖院』が起動したから動き出した。って感じかなぁ。でも、それだと『空舞う聖院』が沈黙している間も罠だけは動いていたってコトになるよな。このタレットは罠扱いじゃないのかってコトになるし……うーん、わからん。ま、考えても仕方ないか。
「ほらほら、旦那、何も無かったんだから先に進むんだぜ」
はーい。了解です。
「お、先に進むのかよ。なら、こっちだぜ」
ファット様が案内をしてくれるようだ。ふむ、ファットがネウシス号を手に入れた迷宮ってここで間違いないみたいだし、案内はファットに任せるか。
ファットの案内に従って進んでいく。うーん、小さな建物とガラスで覆われたプランターがそこかしこに見えるな。何だか、迷宮って感じがしない。何処かの地下実験施設に迷い込んだ気分だ。
ファットが足を止める。
「ここよ」
そこにあったのは先程から見ているのと同じ小さな建物だが、扉はすでに開いていた。そして中には降りる階段が見えていた。まーた階段ですか。
階段を降りていくと下の方から明かりが漏れて来た。ほう、この次の階には電気的なモノが通っているのかな。やっと明かりだよ、これで羽猫で道を照らす必要がなくなったな。
階段を降りた先は見覚えのある通路だった。あれ、もしかして、ここって海底洞窟から抜けた先と同じ場所か?
「こっちよ」
ファット様が案内してくれる。えーっと行き先、分かってますか? このまま格納庫とかに行ったら怒っちゃうんだぜ。
「おうよ、俺様に任せとけよ」
ホントに? 不安だなぁ。
ファットについていき階段を降りる。って、アレ? 前回の時に階段を降りた覚えが無いんですが、えーっと本当に大丈夫なんでしょうか?
「おうよ、俺様に任せとけよ」
ホントに? 不安だなぁ。って不安がってる場合か。ちょっとファットに聞いてみよう。
『ファット殿、何処を目指しているのだろうか?』
俺の天啓にファットが大声で笑う。何故笑う。
「向かってるのはこの迷宮の動力室よ、分かってる、分かってるよ」
いやいや、いつ動力室を目指したよ。分かってない、分かってないよ。俺らが目指してるのはコラスが居るであろう制御室よ。あちゃー、ファットを信じた俺が馬鹿だったか?
「ファットさんよ、何で動力室を目指しているんだぜ?」
お、キョウのおっちゃん、そこを聞いちゃいますか。
「動力室なら、この迷宮の動きを止められると思ってよ」
えーっと、それって可能なの? 俺は思わず14型の方を見てしまった。いや、こういう時には答えてくれるかなー、なんて期待してないんだからね。
「動力室で動きを止められる訳が無いと思うのですが、壊して暴走でもさせようというのですか? これだから考える脳みそを過去に忘れてきたような……」
あ、はい。14型さん、一言多いです。それに暴走しちゃったら、世界の壁の防御機構を復活させるっていうキョウのおっちゃんの目的からは外れちゃうからね。これは無しか。
仕方ない、道を戻るか。
「いや、マスター待ってください」
うん、14型どったの?
「その考え無しの力なら、もしかすると動力室から制御を奪えるかもしれないのです」
え? いや、でも14型さんよ、14型さんはこの迷宮のことを知っているの? 確たる自信があって言っていることなの? 憶測で言ってないですか? ま、まぁ、それでも制御が奪えたら儲けものか。
よし、行ってみよう。
11月10日修正
電気的な者が → 電気的なモノが