4-49 空舞う聖院居住区画
―1―
うーん、やはり魔素が薄いなぁ。MPの回復にちょっと時間がかかりそう。これさ、この状況でさっきと同じくらいの数が現れたら詰むね。詰むね!
しばらく進むと下へと降りる階段が見えてきた。意外とあっさりだったな。ふぅ、フラグにならなくて良かったぜ。
階段を降りた先も同じような造りの通路だった。まーた同じか。何というか、手抜きというか余り迷宮として考えて作られていない感じがするなぁ。
通路を進んでいくと左右に扉のような切れ目が入っいてることに気付いた。
『ファット殿、左右のこれは扉じゃないだろうか?』
俺の天啓にファットが身を乗り出してくる。
「おう、扉に見えるな、多分、扉よ」
そ、そうだな。ということで開けて貰えませんかねー。こう、宝箱とかあるかもしれないじゃないですか。
「おいおい、旦那、旦那、ランの旦那、やろうとしていることは分かるんだぜ。けど、それは止めた方がいいと思うんだぜ」
えー、どうしてよ、キョウのおっちゃん、どうしてよ。
「中で何が待ち構えているか分からないんだぜ。それに今は急ぐべき時だと思うんだぜ」
むぅ、確かにそうか。仕方ない、今回は諦めて進むか。
「おうよ、開けたぜ」
俺たちのやりとりを聞いていなかったのか、ファット様が扉を開けてくださいました。いやいや、ファットさんよ、キョウのおっちゃんの話聞いてました? 聞いてましたよね!
キョウのおっちゃんが頭に手を当てている。いや、その気持ち分かるよ。俺も14型の行動を見ていると同じ気分になるもん。
そして、ファットはそのままずかずかと部屋の中に入る。ちょ、罠とかあったらどうするのよ。
「お、部屋の中に何だか豪華な斧があるな」
ファットさん、自由ですなぁ。斧かぁ、槍や盾なら嬉しいんだけどな。または短剣とかさ。
ファットの後を追い、俺とキョウのおっちゃんも部屋の中に入る。少し広いワンルームの個室って感じの部屋だな。と、そこで俺は地面から線が延びているのに気付いた。
『キョウ殿、動くな!』
俺は慌てて天啓を飛ばす。俺の天啓に、キョウのおっちゃんが慌てて足を止める。
「おいおい、どうしたよ」
俺の天啓の意味が分からなかったのか、ファットが部屋の奥から斧を片手に、こちらへと歩いてくる。いや、だから、歩くなって!
足下、罠だらけじゃないか!
足下を見ると無数の罠が、線が延びているのが見える。いやいや、どんだけ危険な部屋なんだよ。これ正解ルートを歩かないと奥に行けない感じじゃないか!
『足下が罠だらけだ』
俺は改めて天啓を飛ばす。
「へぇー、そうなのかよ。それは危険だな」
ファットが俺の天啓を気にせずにこちらへと歩いてくる。途中、斧の重さによろけながらも何故か罠が見えているかのように、罠が無い道だけを歩いてくる。いやいや、ファットさん、まさか、罠が見えてる? いや、見えてないよね?
「ほらよ、チャンプ。お宝よ。で、罠なんて無かったようだけどよ」
おま、ちょ、本気で言っている?
『14型』
俺は14型を呼び硬木の矢を一本受け取る。そして、そのまま罠の上に投げてみた。硬木の矢が罠の上に乗った瞬間、火柱が上がり、硬木の矢が燃え尽きた。
それを見たファットが口笛を吹く。おま、余裕だな! というか、猫頭のくせに、猫の口のくせに口笛を吹けるのか、器用なヤツめ! って、そうじゃなくてだな。
「おー、本当に罠があったのかよ。さすがは俺様、天才的な運の持ち主よ!」
あー、そっすね。
あ、しまった。硬木の矢を使わなくても、普通に《魔法糸》を使えば良かったのでは? う、うーむ。硬木の矢を一本、損してしまった。
ファットから斧を受け取る。とりあえず出し直したサイドアーム・ナラカで持ってみたけれど、かなり重量がある感じだ。うーん、俺の筋力だと自分の手で持つのは無理そう。と、鑑定してみるか。
【真銀の戦斧】
【真銀を贅沢に使って作られた戦斧】
って、ここに来て真銀製品が来た! え、マジで。本当ですか? これ溶かして槍に出来ないかな? ちょっと今からスイロウの里のホワイトさんとこに戻っちゃ駄目ですかね? 戦力増強は必要ですよね? ということで戻っちゃ駄目ですかね? き、来ちゃったよ、来ちゃったよ。真銀の鉱石の塊でも手に入らないかなーって思っていたけど、ここで武器が来ちゃうか。で、えーっと、これ、俺が貰っていいんですかね? ファットさん、貰っちゃっていいんですかね? もう返しませんよ?
「あー、どうせ俺様は使わないからよ、チャンプが持っているといいぜ」
ファットさん太っ腹! さすが海賊は違った。器が違う! こ、これは大事に魔法のウェストポーチXLに仕舞っておこう。いやぁ、ホワイトさんとこに行く楽しみが出来たなぁ。コレだけでもこの迷宮に来た甲斐があったぜ!
「じゃあよ、危険なようだから、扉は無視して先に進むかよ」
あ、他の部屋も開けません? コレみたいな宝がありそうじゃないですか。
「ああ、進むのが優先なんだぜ」
あ、駄目ですか。ま、まぁ、仕方ないか。今回は我慢します。
一本道の通路を進み、右に曲がり、また右に曲がり、さらに右に曲がると、また下に降りる階段が見えて来た。ふむ、この階はこれで終わりか。敵も現れなかったな。途中、扉のような線が何度か見えたけどさ、その扉の先に敵が待ち構えていたり、お宝があったりしたんだろうか。ま、機会があれば、今度探索するってことで。
階段を降り、次の階層へ。
―2―
次の階層に降りてすぐに敵が待ち構えていた。
盾を持った金属の球体人形が2体。体が複数の金属製の球体で出来ており、繋がっている部分が見えない。うーん、浮いている金属球体同士がくっついている感じか。これ、世界樹で見かけたウッドゴーレムに似ているな。ちょっと危険かも。
『ミカン』
俺はミカンに天啓を飛ばすと、ミカンが分かっているといった感じで頷いた。えーっと伝わった?
――《隼陣》――
ミカンを中心に光が広がる。俺もその光に包まれる。うん、体が凄く軽い。今の状態なら素で飛翔の時と同じくらい機敏に動けそうだ。おっし、行くぜッ!
超高速で動く芋虫な俺。俺の動きが金属球体人形を圧倒する。行ける、行けるッ!
俺とは反対、もう一方の金属球体人形へはミカンが走る。うん、そっちは任せた。速攻で片をつけよう!
――《百花繚乱》――
サイドアーム・アマラに持たせた真紅から連続の高速の突きが繰り出される。金属球体人形が俺の突きを盾で防ぐ。構うものか、押し通すぜ!
連続の突きが盾を凹ませ、砕き、貫く。金属球体人形が盾を捨て、後方へとスライド移動する。逃がすかよッ!
後方へ下がった金属球体人形を追う。追いかけた俺を叩き潰すように球体の腕が迫る。遅い、遅いぜッ! 右、左、球体の腕をくぐり抜け懐へ。喰らえエエッ!
――《スパイラルチャージ》――
赤い螺旋が金属球体の体を削っていく、そして見えた動力部らしい核部分を貫く。核を貫くと金属球体人形は動きを止めた。よし、まずは一体撃破!
俺はミカンの方を見る。ミカンは、もう一体の金属球体人形の攻撃を難なく躱し、手に持った刀で攻撃を繰り返していた。ミカンの手から刀が煌めく度に金属球体人形の体積が減っていく。あ、これは勝ったな。えーっと、俺はフォローに入らなくても大丈夫そうだね。
何度目かの攻撃によって金属球体人形の核が剥き出しになる。その瞬間、急に俺の体が重くなった。あー、陣の効果を切ったのか。
――《月光》――
ミカンがこちらへと振り返り、鞘に刀が収まったカチンという音が響く。
「終わりだ」
その瞬間、金属球体人形が斬り刻まれ、ただの金属の塊と化す。うん、相変わらず厨二入っている感じぽいけど格好いいぞ、ミカンちゃん。
しかし、ここで《隼陣》を使ってしまったのは早まったかなぁ。今日はもう使えないんだよな。
うーん、コラスと戦う前に、どんどん削られて、摩耗させられている気がする。