4-45 空舞う聖院外周
―1―
狙うなら、そう、狙うなら魔石核って表示されている線を狙うべきだよな!
連続で放たれる高速の突き。それら全てが金剛鞭によって防がれていく。は? 何でそんなに機敏に動けるんだ?
「おいおい、さっきから同じような場所を狙って……お前、まさか見えているのかヨ。本当に油断ならないヤツだヨ」
う、狙いすぎて単調になってしまったか。さあ、どうする、どうする?
「次はこっちの番ヨ!」
コウが叫び声を上げ、襲いかかってくる。迫る金剛鞭を真紅で受ける。しかし、受けた真紅が弾かれる。
――《魔法糸》――
魔法糸を後方へ飛ばし、距離を取る。が、後方へ飛んだ俺を追いかけるようにコウが迫る。し、しつこい。
再度、打ち付けて来た金剛鞭を真紅で受ける。受けた真紅がそのまま弾かれる。ああ、もうね、なんつう威力だよ。
真紅を弾かれたところへさらに攻撃が飛んでくる。迫る赤い縦線。今度は縦攻撃か。分かっていれば回避なんて余裕なんだよ! 右に避けた俺の後を金剛鞭が通り過ぎる。そこを狙ったかのようにコウの体に巻き付いていた羽衣が襲いかかってくる。ちっ、面倒な。どうする、どうする?
俺はとっさにサイドアーム・ナラカで羽衣を掴む。よし、普通に掴めたな。羽衣が無ければ、もう少し戦い易いはずだ。
しかし、コウが羽衣のもう一端を掴み、思いっきり引っ張った。それに合わせてサイドアーム・ナラカが解除される。
「その何か見えない力が奥の手かヨ」
うーむ。本当にどうしよう。最悪、限界突破を使うって方法はあるけどさ、そうすると、この後、俺は何も出来なくなってしまうからなぁ。それにあんな痛い思いは二度としたくないッ!
その時だった、俺自身の手で握っていた真紅が、真紅の握り部分にある蜘蛛足がわさわさと動く。うん? どったの?
うーん、そうだな、よし、作戦決定。
「どうしたヨ、星獣様、大人しく殺されるつもりになったかヨ」
ミカンはちょっと危険な状態だな。ジョアンも蹴り飛ばされて、すぐには動けそうに無い。14型は遠く離れた所で待機しているだけ、あ、隣にファットの姿も見えるな、本当に戦いは参加しないつもりかよ……。まぁ、頭の上の羽猫はもとより戦力外だし、となると頼りになるのはキョウのおっちゃんだけか。
『キョウ殿、手投げダガーは何本ほど残っているだろうか?』
キョウのおっちゃんに限定して天啓を授ける。こういう天啓のさ、相手にバレないよう作戦の相談が出来るのは便利だよね。
キョウのおっちゃんが足で地面を5回ほど、とんとんと叩く。お、残り5本ってことか。
『それを少しだけ間隔を空けて、ヤツに飛ばして貰えないだろうか?』
キョウのおっちゃんが頷く。よし、コレが成功すれば、いや、俺の思い通りなら――なんとかなるのか?
―2―
キョウのおっちゃんからダガーが放たれる。
「狙いは読めてるヨ。その星獣様と連携して攻撃かヨ!」
金剛鞭でダガーを撃ち落とされないようにコウの下から真紅で攻撃する。予想通り、真紅が金剛鞭で打ち払われる。キョウのおっちゃんが放ったダガーはコウの羽衣によって弾き返される。
「ちっ、鬱陶しいヨ!」
コウが空いている方の手で懐から何個か魔石を取りだし、そのまま飲み込む。また食いやがったよ。
キョウのおっちゃんから次々とダガーが放たれる。だが、2本目、3本目と羽衣で防がれる。そして4本目はコウ自身が体を反らせて回避する。4本目か。間に合って良かったぜ。よしッ!
――《飛翔》――
飛翔スキルを使い後方、大きく離れた14型の元まで飛ぶ。そしてコンポジットボウを受け取る。
そしてすぐに硬木の矢を番え放つ。放たれた矢をコウが横に飛び回避する。
「来る方向は分かってるヨ! 盾役が居ない状態で遠距離攻撃かヨ。間合いを詰めたら終わりだナ!」
コウがこちらへと駆けてくる。
もう一度、硬木の矢を放つ。やはりコウは羽衣を使わずに回避する。よし、今なら行けるッ!
そこへ、コウの進路を防ぐように、ボロボロのジョアンが立ち塞がる。
「ぼ、僕が……守るっ!」
が、金剛鞭の一撃で宝櫃の盾ごと吹き飛ばされる。時間稼ぎかたじけない。ジョアンの稼いでくれた貴重な時間で――これで終わりだッ!
――《飛翔》――
コンポジットボウを14型の方へ投げ捨て、コウへと飛ぶ。その際に真紅をサイドアーム・アマラに持たせる。後は任せたッ!
「体当たりかヨ! 魔石で強化された今の俺には見えてるヨ!」
突っ込む俺の前に金剛鞭が迫る。頭上に赤い点が灯っている。俺はそれを受け止めるように自身の小さな手を掲げる。頭の羽猫が潰れたら大変だからな!
――《換装1》――
俺の小さな手にてぶくろが装備される。てぶくろと金剛鞭がぶつかる。
「ナ! 何だヨ、それは何だヨ! 何で打ち砕けないヨ!」
そうだよな。無異装備は壊れないって言ったのはコウ、お前だよな。これも無異装備なんだぜ!
『上から来るぞ』
俺はコウへと天啓を授ける。俺の天啓にコウがびくりと体を震わせ上を向く。そうだよな、初めて脳内に声が響いたら、普通は驚くよな。なれていても不意打ちだと驚くもんな。
「な、何が……ヨ」
そして、コウの胸には、魔石核を貫くように真紅が生えていた。
「がっ。お前の行動は、考えは、方向は読んでいたのに、何で、だヨ」
ああ、やっぱり思考が、いや、攻撃する方向なのかな、が読めていたのか。今回、俺は攻撃していないからな。全て真紅に任せたからさ。さすがに真紅の行動までは読めなかったろ?
羽衣が動いてたら、また結果は違ったんだろうな。が、その羽衣、連続で動けないんだよな? だから、まずは羽衣の動きを封じる。そして思考を読んでるぽいので思考の外にある真紅自身に攻撃して貰う。その為に距離を取り、慣性で真紅が動けるように飛んだんだぜ? ちゃんとサイドアームに持たせてね! 真紅自体は蜘蛛足を動かすくらいだからね、微調整しか出来ないからな。そして、その動きを見えないように不意打ちで天啓を授ける。うん、完璧な作戦じゃないか。
俺の、俺たちの勝ちだッ!
2021年5月10日修正
羽衣で防がる → 羽衣で防がれる