4-44 空舞う聖院外周
―1―
金剛鞭で吹っ飛ばされ、さらに地面へと叩きつけられたミカン、痛みを堪えながらも盾を構えているジョアン――ま、まずは回復だよな。
――[ヒールレイン]――
とりあえず癒やしの雨をミカンの上に降り注がせる。ジョアン、すまないが耐えてくれ。ジョアンの前にはコウが居るし、今は、ミカンの方が危険度が高いからな。
ミカンが腰に差していた刀を杖代わりに立ち上がり、そのまま折れた長巻きを投げ捨てる。よし、大丈夫そうだな。
「治癒魔法かヨ。ホント、星獣様ってヤツは厄介な奴らだヨ」
コウが喋りながらも金剛鞭をジョアンの宝櫃の盾へと叩き付ける。コウが金剛鞭を振るう度にジョアンの悲鳴が上がる。くそ、容赦が無い。
立ち上がったミカンが再度、コウの元へと駆ける。コウがジョアンを蹴り飛ばし、ミカンへと金剛鞭を振るう。
――《白羽取り》――
ミカンがコウの金剛鞭を素手で挟み受け止める。うお、そんなスキルのがあるのか。
コウが上から力を込めて、そのまま金剛鞭を押し込もうとする。それをミカンが両手で挟んだまま押し返そうとする。うん、ミカンちゃんの怪力なら大丈夫だろう。よし、ここが攻撃のチャンスだッ!
俺はコウの元へと駆け出す。飛翔は防がれたからね、仕方ないね。俺が攻撃するからミカンは、そのままで頼むぜ。
――《集中》――
今度は集中してコウの動きを見切ってやるぜ。
コウの横に回り込み真紅で突きを放つ。
コウが体を捻り、自身の尻尾でミカンの足を打つ。ミカンが体勢を崩し、コウの体に巻き付いていた羽衣が解き放たれ、こちらへと伸び真紅を絡め取る。は、へ?
「お前らの行動は読めているんだヨ!」
な、真紅が絡め取られて押し込むことが出来ない。ちっ、何だよ、その便利な布きれ。
そこへ銀の光が俺の横を抜けていく。キョウのおっちゃんが投げたダガーかッ!
ダガーを羽衣のもう片方が弾き返す。だから、何なんだ、その便利な装備。金剛鞭より、そっちの方がよっぽど無異装備に見えるぜ。装備に頼るとか卑怯じゃね、卑怯じゃね。
「吹き飛べヨ」
その言葉と共にコウの体から爆発が起こる。な、何だと。爆発によって俺とミカンが吹き飛ばされる。俺の体が跳ね、地面に叩き付けられる。いててて、爆発するとか、どういう原理だよ!
吹き飛ばされたミカンは傷付き立ち上がれないようだ。む、直撃を喰らったのか?
「たくヨ、お前ら星獣様って奴らは本当に丈夫だナ。本当に卑怯な奴らヨ。普通の人ではあり得ない魔獣特有の膨大なSPにMPを持ち、さらに人と同じようにスキルを使える――それがどれだけ異常なコトか分かるかヨ!」
いや、し、知らないよ。俺だって好きでこの体になった訳じゃないし、気付いたらこうなっていただけだし。
吹き飛ばされた俺の元へコウが駆けてくる。ち、早いな。超知覚が無かったら目で追い切れなかったもしれない。
視界の上部に赤い点が灯ると共にコウの金剛鞭が迫る。
――《魔法糸》――
とっさに魔法糸を飛ばす。しかし、それを読んでいたかのようにコウが回避する。視界上部の赤い点が左に変わる。俺はその隙に体勢を立て直し、そこへあわせるように真紅を振るう。
――《払い突き》――
――《ウェポンブレイク》――
《払い突き》と《ウェポンブレイク》を同時発動させる。打ち払いながら、その自慢の武器を壊してやるぜ!
「この金剛鞭が破壊出来るなんて甘いことを考えているんじゃないかナ? 無異装備を破壊出来るワケが無いだろうがヨ!」
真紅と金剛鞭がぶつかり合う。そのまま真紅を滑らせ、金剛鞭を受け流す。そして一回転、突きを放つ。しかし、突きを放った先にはすでにコウは居なくなっていた。そして左に鈍い衝撃と共に俺の体が吹き飛ばされる。が、は。ま、マジかよ。
つ、つえぇぇ。何なんだよ、何なんだ、その力は。まるでこちらの行動を、心を読んでるみたいに行動しやがりやがって。
「お前からは意志を、行動の方向を感じるヨ。それはただの魔獣には無い物だヨ。しかし、だヨ、お前は……星獣様かと思いきや、意外と手応えが無いナ。いや、それとも俺が強くなったのかナ」
コウが舌をちろちろと出しながら笑っている。
「俺が闘技場で戦った、あのクソ狼は、アイツは、俺の心を折るほどに強かった、強かったヨ。俺はその時、初めて次元の違う存在ってヤツを知ったヨ」
コウが、喋りながらゆっくりこちらへと歩いてくる。クソ狼って、フェンリルのコトか。アイツ、そんなに強いのか?
「俺は逃げて、逃げて、それでも逃げ切れなくて、ヤツを倒すための力が欲しくて、それだけでここまで来たヨ。そしてヤツと同じ星獣様が、今、俺の目の前に転がっているヨ」
コウは狂ったように笑っている。転がっているってな、芋虫は元から地面を這うモノですから、普段の姿の方が異常なんですよー。
俺は転がった状態のまま、ちらりとステータスプレート(金)を見てみる。うわ、SPが210まで減ってるよ。あの爆発って意外と破壊力があったのね。
「さてと、寝たふりをしている星獣様にトドメをさすかナ」
コウが俺の前に立つ。あ、バレてましたか。というかだね、コウさんよ、自分語りをし出したら――それは負けフラグだぜ?
――《魔法糸》――
俺の飛ばした魔法糸をコウが余裕で躱す。そこを狙ったかのようにキョウのおっちゃんが放ったダガーが迫る。さすが、分かってるぜ、おっちゃん。
「無駄だヨ」
ダガーが来るのを分かっていたかのようにコウが持った金剛鞭を振り、弾き飛ばす。いや、ホント、心でも読んでいるかのような対応の仕方だな。あれ? でもさ、今回は金剛鞭で弾き飛ばしたよな? 何で羽衣で撃ち落とさなかったんだろうか?
弾き飛ばされたダガーが俺の飛ばしていた魔法糸に当たり、そのまま跳ね返る。跳ね返ったダガーはコウの胴鎧に当たってそのまま地面に落ちた。
よし、不意は打てなかったけど体勢を立て直す時間は稼げたか。いくぜ!
――《百花繚乱》――
真紅から穂先も見えないほどの高速の連続突きが放たれる。心を読まれるように回避されるなら、回避出来ないほどの高速突きを放てばいいじゃない作戦。
これならどうだ!