4-40 開戦準備
―1―
じゃ、ゆっくりと待ちますか。
いつまで待たないと駄目かも分からないし、日数がかかりそうだし、ふむ……。何だろう、ダンジョン攻略とか魔石集めとかしてたら駄目ですかねー。
大人しくしてないと駄目ですかねー。いやでもさ、これからコラスたちと戦闘になるじゃないですか、戦力強化って必要ですよね。つまり、俺のコレは必要な行動なワケなのです。
ということで何処か手近な小迷宮でも紹介してくれませんかね? あ、いっそ冒険者ギルドに行けば教えて貰えるのかな? 駄目かな、駄目かな?
「ラン殿、焦る気持ちは分かる。私も同じ気持ちだ。しかし、ここは大人しく待つしかない」
えー、ミカンちゃん、マジで? というかだね、ミカンよ、最近、口調がまた硬くなってない?
はぁ、仕方ない、自己鍛錬をしますか。よし、何処か丁度良い場所が無いか、ちょっと聞いてみよう。
『何処か訓練に使えそうな場所はあるだろうか?』
「星獣様、鍛錬でしたら屋上が空いていますよ」
召し使いさんが教えてくれる。なるほどな。船の上だもんね、土地も限られているから、建物の屋上が庭代わりになっているのか。
じゃ、屋上でスキルの熟練度を上げたり、魔法の熟練度を上げたりしますかね。よし、上がろう、すぐ上がろう。のしのし。
屋上に上がると、そこにはジョアンが居た。む、俺よりも先に上がっているとは……何処で抜かされた?
「ら、ランか」
うむ。ジョアン君もやることが無いから鍛錬かな。
屋上はそこそこの広さがあるようだ。謎の植物が植えられているし、ホント、庭って感じだね。元宰相の建物は結構大きいので、他の家の屋上も見えるが、こちらと同じように木が生えていたり、花壇があったりと色とりどりだ。ホント、屋上を庭にしているんだな。
じゃ、早速。
――《スパイラルチャージ》――
真紅が赤い唸りを上げて螺旋を描く。うんうん、いい感じ、いい感じ。
「ラン! ランも技を磨きに来たのか!」
そうだよ。
「な、なら一緒にやらないか」
ほほう、そうきたか。
じゃ、俺の攻撃を受け切れたらジョアンの勝ちな! いくぜ。
―2―
2日後、キョウのおっちゃんと元将軍が戻ってきた。何を相談していたのか知らないけどさ、そんなに時間掛けてて大丈夫なのかね?
「ランの旦那、戻ってきたんだぜ」
はいはい、で、どうなったのかね。
「この元将軍さんが、軍部は掌握したんだぜ」
へ? そんな簡単に掌握できるのかよ。いや、元だから、こそか。でも掌握してどうするんだ? 恐ろしいことになるのか?
「軍を再編成し、リガシアへ攻めることになる」
元将軍さまのお言葉。あ、そうなんですね。というか、攻めるのか。
「ランの旦那、俺らも一緒に行くんだぜ」
一緒に行くのか。ま、俺の手で倒したいし、魔石を取り戻したいからね。一緒に行けるのはチャンスか。
「じゃ、早速行くんだぜ」
へ? もう行くの?
「急ぐんだぜ」
あ、はい。
「いや、急いだ所で、まだ船の準備が出来ていないのだがな」
あ、そうなんですね。
それでも、すぐに出発するらしく皆が準備を始める。ま、俺の場合は準備といっても何もないからね。
「では行くんだぜ」
キョウのおっちゃんと元将軍に案内され、船着き場へ。
船着き場には屋根の無い小さな船が止まっていた。ああ、まずは、この小さな船で移動するのね。
小さな船に乗り込むと元将軍が船を操縦し始めた。あ、元将軍が自ら操縦するのか。お偉いさん自らとは、恐れ多いですな。
小さな船が動き海を進んでいく。さあ、何処に行くのかな?
―3―
船が進むと、それよりも大きな船が海上に集まっているのが見えてきた。おお、これが準備している船かな。ちょっと豪華な軍船に見えるよね。
「まだまだ集まってくる予定なんだぜ」
そうなのか。これは圧巻だな。
小さな船が進み、軍船の横に並ぶ。その時だった。
何処かで見た船が、凄い勢いでこちらへと進んでくる。お、おい、そのままだと軍船にぶつかるんだぜ。
何処かで見た船は急旋回し、軍船の横につける。そして、中から何処かで見た猫人族が現れた。
「ここで俺様の登場だよ!」
何やら陽気に笑っている。さらに船の中から他の猫人族たちも現れる。
陽気に笑っている猫人族の背後では海賊の歌が大合唱だ。もうね、この人たちは自由だなぁ。
『ファット!』
俺は天啓を飛ばす。
「おー、おー、そこに見えるのは見覚えのある芋虫魔獣の姿。チャンプじゃないかよ!」
おうおう、何でファットたちがここに来ているんだ?
「お前ら、これからアレと一戦やらかすんだよな? 俺様も混ぜろよ」
いやまぁ、ファットたちが来てくれたら心強いけどさ、何で来たんだ? ファットが来てくれる理由がわからない。だって、何のメリットもないじゃないか。
「あ、あの猫人族は……いや、まさか」
元将軍も驚いている。ファットは有名人なのかな?
「俺様は、ちょーっとばかし、あそこに野暮用があるのよ」
なるほどな。よく分からないが用事があるなら仕方ないな。
「ふむ。わかった、そこの猫人族の若者よ。一緒に来るがいい」
元将軍が叫ぶ。
「ふふん、そのつもりよ!」
ファットたちがかぎ爪のついたロープを軍船に飛ばし、そのまま乗り移る。うーん、器用に乗り移るなぁ。これも海賊流なのだろうか。
俺たちは用意された梯子を伝って、軍船に乗り移る。あ、乗ってきた小さな船に誰かが降りてる。この軍船に乗っている兵隊さんかな? 紐で小さな船と軍船を結びつけているようだけど、それでその船を運ぶのかな。
「さて、他の船が集まるまで船室で軍議としよう」
軍議か。えーっと、俺には縁が薄そうですが、俺も参加なんですかねー。
「ランの旦那も参加なんだぜ。これからの方針を説明するんだぜ」
はーい、了解です。