4-39 都市陥落
―1―
「お前はっ!」
ミカンが席を立つ。
「その言葉の意味、分かっているんだろうな!」
元将軍も食卓を強く叩き付ける。あー、もう静かに食事をしようよ。
「お前らこそ、今の状況を分かってないと思うんだぜ」
もしゃもしゃ。
「俺だって何も、殺すことが最善だとは言ってないんだぜ。それでも、そうしなければならない状況が近いと思うんだぜ」
もしゃもしゃ。うん、まぁ、それで全てが解決するもんなぁ。手っ取り早いと言えばそうか。それが出来たら、だけどね。
もしゃもしゃ。
もしゃも……ぐ、うん、さ、そろそろ俺の出番かな。
『いいかな?』
久々の天啓です。
「ら、ランが喋った!」
ジョアン君、そこは驚く所でしょうか?
「星獣様に何か考えがあるのでしょうか?」
そうそう、そうなんだよ。
『やつらも食事はすると思うのだが』
「でしょうね」
元宰相さんもそう思うよね。
『ならば、その食料を調達の為に『空舞う聖院』から降りてきた時を狙えばいいのではないだろうか?』
『空舞う聖院』に食料や水などの備蓄は無いと思うし、幾ら奴らが神様ごっこをしていてもお腹は空くだろうからね。そこを狙えばいいワケですよ。それに奴らは2人しかいないわけじゃん。どっちかが降りてくれば、それだけ手薄になる訳だしさ。て、よく考えたらやつら2人なんだよな。2人で反乱とか、神になるとか言っているんだよな? 無理じゃね? 絶対に手が足りないと思うんだよ。
「そう上手くいくでしょうか?」
行くと思うんだけどなぁ。やつらは、そこまで馬鹿だと思うんだぜ。
「ランの旦那の考えはいいと思うんだぜ」
だよね、だよね。
「まぁ、でもよ、動くあの迷宮を追っかける手段がないところが問題だと思うんだぜ」
あー、そうか。それは考えていなかったな。
―2―
元宰相さんや元将軍さん、それにキョウのおっちゃんを交えて、あーだ、こーだと議論を続けている。みんな難しく考えすぎなんだよな。
どうしようもなくなったら猫耳少女を殺すとか、そうじゃないよね。
『やることは簡単だ。少女を助ける、コラスとコウを倒す。それで全てが解決だろう?』
「いやいや、旦那、旦那、それが簡単にできたら苦労しないんだぜ」
ついでに俺の魔石も取り戻すって、な。混ざり合って一緒になってしまった、あの大きな魔石だけど、アレは元々俺のだからな! 俺の一部だからな!
「旦那様……」
議論を続けている元宰相の元へ召し使いの猫人族の女性が慌てて駆けてくる。うん? 何かあったのか?
「ああ、通してくれ」
元宰相の言葉を受け、猫人族の女性が小さく頷き部屋を出て行く。
そして、すぐに一人の兵士がやってきた。
「宰相殿に申し上げます!」
その言葉に元宰相が「今は宰相ではないのだが」と返していたが、兵士は、それを無視して語り始める。
「現宰相だったコラス・ツチーチが反乱。新王となったリーン様を幽閉している模様」
うん、それは知っている情報だね。というかだね、それで、どうするかを今、ここで相談しているワケで。
「リガシアが陥落しました」
その言葉に元将軍と元宰相が驚く。
「な……んだと」
リガシアって何処なんだぜ?
「コラスはリガシアを占拠し、物資を徴集しているようです」
「それで、今、領主は、リガシアはどうなっているのだ?」
元将軍が問いかける。
「は。領主はリガシアを捨て逃亡。現在の行方は分かりません」
逃亡って……アレか、領民を見捨てて逃げた感じなのか。にしても、ホーシアが帝国の領国で、そのホーシアにも領地があって、領主が居てって……凄い面倒くさいな。
「現在は、無人と思われる、恐ろしい攻撃性能を持った無数の空飛ぶ船によって、近寄ることも出来ない状況です」
「そ、そうか……」
空飛んでるってそれだけで有利だよなぁ。弓とか魔法とかで対処するしか無いか。バリスタみたいなのって無いのかな。
「お話中悪いんだぜ。リガシアってのが何処のことなのか一応聞いておきたいんだぜ?」
ほう? 物知りなキョウのおっちゃんも知らないのか? いや、それとも俺らにも分かるようにって説明を求めたのかな?
「あ、ああ。リガシアは、このホーシアの都市船の1つでして……」
元宰相が説明してくれる。ふむ、近くの都市の1つが陥落したってことか。都市1つを占拠するとか行動が早いな。
「コラスは次に、この首都ホーシアに攻め込んでくることを宣言しています」
あー、国の名前もホーシアだけど、首都、ここの名前もホーシアなのか。にしても、すぐにでも帝国に向かうのかと思ったら、ホーシアを落としてから行くんだね。まぁ、宰相をやっていたんだから、自国の状況は分かっているだろうし、攻めやすい所から落として物資を入手するってのは賢いやり方かもしれないなぁ。
「で、なぜ、君は、その情報を私のところに持ってきたのかね」
おー、そういえば『元』宰相だもんな、今は何の権力も無いもんな。
「現宰相のコラスが反乱した以上、国王不在の今、次に頼れる方はあなたしか居ないと思いました」
おー、もしかして、この元宰相さんって結構慕われていたのか? コラスはあんまり慕われているって感じじゃ無かったもんな。それを採用していた国王って凄い無能だったんじゃないか?
「そうか……」
元宰相が腕を組み考え込む。
「これであんたらにも身近な問題になったみたいなんだぜ。どうするんだぜ?」
おー、キョウのおっちゃん煽るねぇ。
「今の軍をまとめているのは、まだヒデシだったな?」
元将軍の言葉に兵士が頷く。ヒデシねぇ。新しい人物が出てきたけどさ、確かに元将軍がいるんだから、現将軍がいないとおかしいよな。
「私は、今からヒデシのところに行ってくる。お前は中の方を頼む」
将軍がそう言って席を立つ。慌てているな。
「やれやれ、このような形で王宮に戻ることになるとは」
元宰相さんも席を立つ。って、俺はどうするべきなんだ?
「元将軍さんよ、俺もついて行くんだぜ」
「わかった」
あー、キョウのおっちゃんは軍の方に向かうのか。じゃ、俺はここでのんびりと待っていようかな。だってさ、俺が口を出せることなんて、何もないじゃん。
「ぼ、僕も行くぞ!」
ジョアンも席を立つ。
「いや、小僧はここで待ってな、ランの旦那と待機なんだぜ」
「で、でも!」
キョウのおっちゃんがジョアンの言葉を手で止める。お、ジョアン君、ちょっと悔しそうだ。まぁ、ジョアンが行った所で、軍の会議では――しかも他国のだ――何の役にも立たないだろうからね。
「私もここに残るとしよう」
ミカンも残るようだ。
じゃ、キョウのおっちゃん、頑張ってください。俺はのんびりしています。
10月29日誤字修正
あたな → あなた