4-37 一時退却
―1―
俺たちはコウの後を大人しくついていく。
「こっちだヨ」
うーん、このまま後ろから攻撃したら何とかなるんじゃないか?
「シー、お前ら、少しは学習した方がいいヨ。俺に攻撃するなら、それなりの覚悟を持った方がいいと思うヨ」
む、気付かれた? も、もしかして、俺の危険感知みたいなスキルを持っているのか? いや、そうじゃないと説明がつかないよな。
「はいはい、こっちだヨ」
コウに連れられてついたのは、例の艦載機の置かれていた場所のようだった。全部、放出したのかと思ったら、一隻だけ残っているな。うん? この残っている船、デザインが少しおかしいな。まるで、まるでロケットみたいだな。
コウがつかつかと歩き、ロケット風の船の壁を叩く。すると、そこがハッチだったのか壁に線が入り、こちら側へと開き階段になる。
「うんうん、上出来、上出来ヨ。さあ、中へ入るんだヨ」
これ、ロケットだよね、ロケット弾だよね。ま、まさか撃ち出されるのか、吹っ飛んじゃうのか。
「じゃあヨ、再会を、再戦を楽しみにしているヨ」
コウが船の壁に手を当てシシシと笑っている。ああ、俺も楽しみだよ、その綺麗な爬虫類顔を吹っ飛ばしてやるよ。
ハッチが閉まった船の中は狭く、ミカン、キョウのおっちゃん、ジョアン、14型と俺を含めた5人が入ると体を動かす隙間が無いほどだった。いや、これどう考えても二人乗りとかそういう感じの船だよね、というか船じゃないよね。なんだろう、無人の物資運搬用とか、そんな感じじゃないか?
「なあ?」
頭の羽猫が鳴く。あー、はいはい、お前も居ましたね。ところでさ、お前っていつもにゃあにゃあとあざとく喋っているけど、本当は普通に喋れるんじゃないか? にゃあにゃあなんて字面通りに鳴く猫はいないよね?
「にゃあ?」
ま、気にしたら負けか。
で、皆さん、何で普通に乗り込んでますかねー。一人くらいはコウに襲いかかっても良かったと思うんだけどなぁ。って、それはすでにミカンがやったか。
「さて、旦那、これからどうするんだぜ」
と、キョウのおっちゃんよ、それを俺に聞くのか。
「リーンを助ける!」
ミカン的にはそうだよな。
「ぼ、僕は、僕の、聖騎士の名前に恥じない行動をするだけだ!」
うーん、ジョアンも助けるって方向かな。
「私はマスターが望むがままに従います。それがどれほど愚かで、短絡的で、無謀な考えであろうとも、なのです」
はいはい、14型、一言多いよ。
「にゃあ!」
お前は……どっちだ?
「もう一度聞くんだぜ、旦那はこれからどうするんだぜ?」
そうだな、俺は……。
と、そこで体に衝撃が走る。うお、射出されたのか。ぐふぉお、中身が出そうなほど、体に重力が、ひぎぃ。
衝撃はすぐに収まり、その後、何かに打ち付けられたような振動が船内に伝わる。海にでも落ちたのかな。
で、キョウのおっちゃんよ、俺の答えなんだが、ってキョウのおっちゃんが死んでるッ! 真っ青になって口から何かれろれろっとって、狭いんだから勘弁してくれー。
―2―
ハッチが自動的に開き、外の風が船内へとながれていく。ふぅ、生き返るぜ。ここは何処だろうか?
「マスター、ここは船の上に町を作っていた場所の近くと思われるのです。だいたい、南に2キロメートルほどで、その大型船が見えると思うのです」
ハッチから顔を出し、14型が指差した方向を見る。2キロ? 2キロで見えるなら肉眼で見えないとおかしく無いか? なーんも見えません。海しかないよ。
「お、俺も、み、見る、んだ、ぜ……」
キョウのおっちゃんも死にそうな声を出しながらハッチから顔を出す。余り、ゲロ臭い顔を近づけないでくれるかな。
「あー、ああ、逆方向なんだぜ。向こうにホーシアが見えるんだぜ」
なるほど、14型は北と南もわからないお馬鹿さんだったと。でも、位置がわかるのは便利そうだな。こういう所はロボぽいなぁ。
俺たちが海の上をぷかぷかと揺られていると、一隻の小さな船が近寄ってきた。何だろう?
「君たちの船は我が国へ不法侵入している」
小さな船に乗っていた兵隊の一人がこちらへと、そんなことを言ってきた。あ、そうですか。
「私は海上警備を行っているホーシア国の者だ。ここから先はホーシア国になる。正規の手続き以外での入国は認められない」
へー、そういうのもあるのか。
「俺は帝国から、この国に使者として来ている」
キョウのおっちゃんが偉そうにそんなことを言っている。ま、まあ、ホーシアより帝国の方が偉いもんね、
「私はリッチ元将軍の元で護衛をしているミカンという」
あれ? 元将軍の名前ってリッチだったか? うーん、どうだったかな。
「リッチ元将軍が私の身元は証明してくれるはずだ。取り次いで貰えないだろうか?」
こういう時こそ、ステータスプレートを見せて解決、みたいな展開にはならないのかなぁ。余り身分証明書としては役に立っていない気がする。
兵隊達が何やら集まって相談している。うーん、俺らの扱いに困っているのかな? いやあ、やっぱり、ファットのやり方って完全に密入国だったんだな。さすがは海賊だな! 次は正規の方法で入国しよう。
「わかった。とりあえず、そちらの猫人族のお嬢さんだけ来てもらっても良いかな」
兵隊の言葉に、ミカンがこちらを見る。はいはい、行って俺らの身元を証明してきてくださいな。
ミカンが小さな船に乗り移る。そして、そのまま小さな船はミカンを乗せて去って行く。
じゃ、俺らは待ちますか。キョウのおっちゃんのゲロの匂いが充満した船でなッ! ホント、キョウのおっちゃん、何してくれてるの。あー、こういう時こそクリーンの魔法が欲しい。そう言えば、覚えようと思って結局習得出来ていないよね。うむ、これはここで俺が奇跡的にクリーンを習得する流れか?
船の中を見ると14型とジョアンが海水を使って掃除をしていた。
……。
偉い! 14型やるじゃん。
10月30日以下を追加
あー、こういう時こそクリーンの魔法が欲しい。そう言えば、覚えようと思って結局習得出来ていないよね。うむ、これはここで俺が奇跡的にクリーンを習得する流れか?
2020年12月12日誤字修正
じゃあヨ、再開を、 → じゃあヨ、再会を