4-35 空舞う聖院制御室
―1―
魔石兵がこちらを殴りつけてくる。それをジョアンが宝櫃の盾で防ぎ跳ね返す。ミカンが駆け、ジョアンの横を抜ける。
――《一閃》――
長巻きが閃光と共に横へとなぎ払われる。そして、俺の前、もう一方から迫る拳。が、俺の横を銀の光が走り、迫っていた拳が逸れる。
見ればキョウのおっちゃんの放ったダガーが魔石兵の目に刺さっていた。さらに刺さったダガーが爆発する。
俺はその隙を見逃さず魔石兵へと駆ける。そのまま腹下へ潜り込み真紅で魔石を貫く。貫いた脈打つ魔石を真紅が喰らう。これで終わりだッ! と、最後の一人は?
ミカンの方を見るとすでに脈打つ魔石を打ち砕いていた後だった。刀を振り払い鞘へと閉まっている。やっぱり頼りになるなぁ。と、そう言えば、いつの間にか長巻きから刀に持ち替えているな。どういう感じで使い分けているんだろう。
さあて、残るは元宰相コラス、あんただけだぜ! こう、変身とか強化するとか、そういうのがあるなら待ってやるから、早くするんだな!
「な、言っただろうヨ。こいつら面白いってヨ」
コウさんがシシシと舌を出しながら笑っている。
「元宰相さんよ、後はお前だけなんだぜ」
そうなんだぜ!
「はぁ、コウ・コウよ、満足しましたかな」
元宰相が大きなため息を吐く。
「おう、おう、おうヨ。こいつら、なかなか楽しいヨ」
この人は楽しいが全てなのかなぁ。
「では、そろそろいいでしょう?」
お、本気を出すの? 何か奥の手を出してくるのかな?
「仕方ないナ。はいはい、ご注目ヨ。皆、動くんじゃないヨ」
ん? コウさんの言葉に皆が振り返る。
振り返った先では、コウさんが猫耳少女の首元に鉄鞭を押し当てていた。
「いや、すまないヨ。やっぱり、お前らと戦った方が面白そうだからヨ」
いやいや、もしやとは思っていたけどさ、マジで? 本当にそうなの?
「すまないですな、道を空けて貰えるかな?」
元宰相コラスがゆっくりとこちらへと歩いてくる。それを見たミカンが刀に手をかける。
「おーっと、動かないで欲しいヨ」
「痛い」
猫耳少女の首元の鉄鞭が閉まる。
「くっ」
ミカンが刀から手を離す。おいおい、マジで?
元宰相は俺たちの間をゆうゆうと通り抜け、コウと猫耳少女の元へ。
「これはこれは、新王さま、ご機嫌はいかがですかな」
「な、なんで、こんなことをするんですか!」
猫耳少女が叫ぶ。そうだよね。理由が分からないんだよな。
「そうなんだぜ! 王位が狙いなら、こんな事をしても手に入らないんだぜ!」
キョウのおっちゃんの言葉に元宰相が笑い始める。
「王位、王位ですか! 宰相になった時点で好き放題出来るのに、今更王位ですか!」
なら、目的って何よ。
「まぁ、今のままではわからんでしょうなぁ」
じらさずに教えて欲しいな。
「さあ、王よ、その台座に触れなさい!」
元宰相が猫耳少女を引っ張り、無理矢理台座に触れさせる。すると中央にあった金属の筒が開き中から透明なケースが現れる。
「ふむふむ、聞いていた通り、間違いなさそうですな」
うーん、良くないことが起こりそうだな。何処かに隙が無いかな。
「これが何か分かりますかな?」
元宰相が懐から無数の魔石を取り出す。赤や青など様々な色、大きな魔石、小さな魔石、大きさも様々だ。
って、アレ?
俺は元宰相が取り出した魔石の1つに目を奪われる。俺は……、俺は、アレを知っている。青く輝く、水晶のような魔石。アレは、アレはッ! 俺の、俺の魔石じゃないかッ! 何で、ここに。何で、ここにソレがあるんだッ!
俺の手に持った真紅が奮える。そうだ、それだけじゃないッ! あの透き通った真っ赤な、真っ赤な魔石ッ! 俺が奪われたレッドアイの魔石じゃないかッ!
返せ、返せよ! それは俺のだ!
動こうとした俺をミカンとキョウが押さえる。離せ、離せよ! 俺の、俺の魔石が目の前にあるんだぞ。
「旦那、堪えるんだぜ」
「ラン殿、向こうにはリーンが」
くそ、くそ、クソッ!
「おやおや、その魔獣はしつけがなっていないようですなぁ。人間の真似事をさせるのはいいですが、ちゃんとしつけないと駄目ですな」
うるせぇ、うるせぇよッ!
「さてさて、この魔石ですが、これをどうするかわかりますかな?」
元宰相が魔石を中央の透明なケースの中に入れていく。
「あーあ、コラスの旦那ヨ、そのレアぽいのも入れるのかヨ。勿体ないナ」
「その為に集めたのですからな」
透明なケースの中で魔石が溶け混ざり合っていく。そして1つの大きな魔石へと変貌する。俺の、俺の魔石が……。
「さて、これで燃料の補給は終わりましたな。では、やっと皆様にお見せできますな!」
コラスが台座に触れさせていた猫耳少女の手を持ち、台座の上を文字でも書くように無理矢理動かさせる。
「いやはや、これは不便ですな。手でも切り取った方が便利でしょうか」
その言葉に猫耳少女がいやいやと体を動かす。
「コラスの旦那ヨ、それで失敗したじゃないかヨ。持って帰ってきて貰った腕じゃあ、この迷宮には入れても起動しなかったじゃないかヨ」
コウの言葉にコラスが猫耳少女を押さえつけているのとは逆の手で髭を触る。
「ふむふむ、アレは混ざり物が多かったからかもしれませんよ。王の娘とは言っても下賎の血が混ざっていたのですからな」
その言葉に猫耳少女が震えた様子でコラスの顔を見る。
「まさか、お前達がリーンの母をッ! あの魔獣の襲撃はお前らがっ!」
ミカンが叫ぶ。
「いやいや、私たちじゃ無いですよ。私たちは受け取り、教えて貰っただけですからな」
「そうそう、俺らは悪くないヨ」
……。
……ありえねぇ。ありえねえよ。
「お前達はそこまでして何をするつもりだ!」
ミカンの叫びを無視して作業を続ける二人。
「さあ、目覚めなさい『空舞う聖院』!」
「これが答えだヨ」
その言葉と共に周囲の壁が消える。え? 何だ? 急に海のなかに? いや、違う、周りの壁全てに外の景色が映っているんだ。
「おいおい、これはどうしたことなんだぜ」
「し、沈む!」
「な!」
全方位スクリーンって感じか。
そのまま周囲の景色がどんどん下へと流れていく。ま、まさか、浮上しているのか? 海の中に沈んだ、この迷宮自体が動いている?