4-33 空舞う聖院制御室
―1―
「中央の台座に触れて欲しいヨ」
アレってさ、他の迷宮だと転送に使う台座だよね。でも、最近、違う使い方の似たようなモノを見た気がするんだよなぁ。この場所といい、えーっと、何処だったかな。あー、アレだ、ファットの船だ。ここ、ファットの船の中に似ているんだ。
「分かりました」
俺たちが見守るなか、猫耳少女が中央の台座へと歩いて行く。さーって、どうなるのかな。
「これが王になるための最後の儀式ヨ。俺が見届けるヨ」
へー、そうなんだ。コウさんってば詳しいね。
猫耳少女が台座に触れると、そこを中心として光があふれ出す。地面に黄色の光の線が走り、何かが甦る大きな音が響き渡る。
「おお、起動したんだぜ! これで壁が復活するんだぜ」
そうなの? だったらいいよね、これでキョウのおっちゃんのお役目も終了かなぁ。
「リーン、大丈夫なのか?」
ミカンが猫耳少女の元へと駆け寄る。えーっと、俺たちも駆け寄った方がいいのかな。みんなで胴上げとかするべきなのか。
で、この後、どうすればいいのかな? とりあえずホーシアに戻る?
その瞬間だった。室内に大きな拍手が響き渡る。
「いやいや、起動、ご苦労様です」
宰相たちが手を叩きながら現れる。出たな、来たな、予想通りの現れ方をしやがったな!
「ん、んっんー、余り歓迎されてないようですね」
もっと違った現れ方をしやがれ! 三下、三流、どさんぴん。
宰相の背後には6人の兵士。各々が手に剣と盾、重そうな金属鎧を身につけている。これは宰相が魔法使い系かな。てかね、この状況で現れるとか倒してくださいと言わんばかりだよなぁ。どれだけ連れてきた兵士に自信があるのか知らないけどさ、逆に負けるとか想像出来なかったんだろうか。はぁ、つらいわー、俺ってば、強くなりすぎてつらいわー。
「行け」
宰相の言葉と共に重装備の兵士達が地面を揺らしながら歩いてくる。それを迎え撃つようにミカンが走る。おうおう、にしても、地面が揺れるとか、どんだけ重いんだ。その重さで動けるのは凄いな、凄いけど無防備過ぎないかね。お、そうだ!
俺は14型からコンポジットボウを受け取る。そういえば腐食の矢を買っていたよな。こういう重武装系には効果大なんじゃないか。さあ、その自慢の鎧を腐食されて嘆くがよい。
俺は矢筒を漁る。しかし、買ったはずの腐食の矢が見つからない。あれ? 俺、確かに腐食の矢を3本買ったような気がするんだけど、何で無いんだ? 矢筒には腐食の矢の代わりに潮の矢が3本入っていた。あれ? あれ?
そ、そういえば、道中で潮の矢を使った気がする。お……かし……いよ……ね、だって、潮の矢は使い道が……無いから……要らない……って、その時に……。うががああ、買うのを間違えている! 腐食の矢を買ったつもりで潮の矢を買ってるじゃん。何やってるんだ、俺。いや、あの時は買い物を14型に任せた気がする。
俺は14型を見る。
「マスター、戦闘中によそ見は脳の足りない人間がやることです。マスターは足りていないのですか?」
くっ、くそぅ。ま、いいさ、いいさ。あー、そうだ! 金属鎧だから別に属性にこだわる必要は無いのか。腐食とかそういうことを考えなければ、どの属性でも大丈夫か。よし、せっかくだから、水天一碧の弓を使ってみるか! 初の属性弓解禁だぜ!
14型にコンポジットボウを渡し、水天一碧の弓を受け取る。その間にも戦闘は続いている。重鎧が、ミカンの長巻きによる一撃を跳ね返し、キョウのおっちゃんが投げた爆発物にも無傷で、こちらへと歩いてくる。かったいなぁ。
「な、斬れぬとは!」
長巻きを受け止められ、ミカンの体勢が崩れる。そこへ重鎧の剣が迫る。
「そんな攻撃!」
ジョアンが盾となり、剣を防ぐ。って、俺も急がないと。
水天一碧の弓に潮の矢を番える。お、そうだ、水属性の弓に水属性の矢、さらに水属性を付与したら凄いんじゃね? 水と風の属性だけど似たようなもんだろ。
――[アイスウェポン]――
その瞬間、弓が凍り、矢も凍る。な、な、な、矢を放てない! って、遊んでる場合か!
……。
14型さん、潮の長銛をお願いします。皆が一生懸命戦っている時に俺は何をやってるんだ。
サイドアーム・アマラに真紅を、サイドアーム・ナラカに潮の長銛を持たせて構える。
――《集中》――
集中した世界の中、ミカン、キョウのおっちゃん、ジョアン達の戦いが見える。攻撃が通じなくて苦戦しているようだ。
――《飛翔》――
そのまま空高く舞い上がる。うん、天井が高い部屋でよかったぜ!
――[アシッドウェポン]――
潮の長銛が黄色く染まる。からのッ!
――《スピアバースト》――
赤と黄、2つの槍が重鎧達の中心、地面に激突する。そこから迸る衝撃波。衝撃波によって重鎧達が吹き飛ぶ。って、ミカンやキョウのおっちゃんは大丈夫か? 迸る衝撃波をジョアンが皆の前に立ち、盾を構え防いでいた。お、さすが。
「ふん、ランが考えそうなことくらい分かる!」
あ、さいですか。
重鎧達は吹き飛び、ひっくり返っていた。自分では起き上がれないようだ。おー、これはこれは。と、宰相は何処だ?
見れば宰相は大きく後退し、衝撃波を躱していたようだ。む、意外と武闘系キャラなのか?
「なかなか面白い技ですね」
褒めに預かり光栄です。ふん、余裕ぶってるけどさ、残りはあんただけだよ。
「ふふ、何を寝ているのです、起きなさい!」
って、だから、自力で起き上がれないから寝転がってるんでしょうが。それとも、あんたが今から、一人一人起こしてあげるのかね? 何なら待ってあげても良いぞよ。
その瞬間だった。寝転がっていた重鎧達の鎧がミシミシと嫌な音を立て始めた。あ、コレ、ヤバイ。視界にも至る所に赤い点が灯る。
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
重鎧から守るように氷の壁を張る。
重鎧達のの鎧が弾け飛ぶ。鎧の破片が無数の散弾となって室内を埋め尽くす。あ、やべ、猫耳少女のコトを完全に忘れていた。やばい、やばい。
振り返るとコウさんが身を盾にして破片の散弾から猫耳少女をかばっていた。さすが、コウさん! って、今回は本当にポカミスばかりだなぁ。と、傷だらけのコウさんを回復しておかないと。
――[ヒールレイン]――
癒やしの雨がコウさんを中心に降り注ぐ。はぁ、これでMPすっからかんだよ。ちょっと浮遊するとか、それくらいならまだ使えるけどさ、厳しいなぁ。ここって魔素が少なすぎる。
「さてさて、ここからが本番ですよ」
へ、宰相無傷かよ。あの破片の雨あられを全部回避したのか? いや、マジで?
「さあ、行きなさい、私の実験兵たちよ」
宰相の言葉と共にそれらが起き上がる。かつては猫人族であったであろう原形のみが残った存在。剥き出しの筋繊維に気持ちだけ残った体毛。そして鎧を着ていた時には見えなかった胸に取り付けられ、脈打つ魔石から伸びている魔石核という線。この人たちは生きているのか? さっきのアンデッドと大差無い姿じゃないか。それになんだ、あの縫い付けられた魔石は――魔石自体が生きているみたいだ。って、アレって。俺は思わずコウさんの方を振り返る。