4-32 空舞う聖院中央区画
―1―
右の道を下っていくと周囲の雰囲気が変わってくる。岩壁の下に謎の金属壁が見えるようになってきた。え、もしかして、すでに『空舞う聖院』に入っているのか?
「もうすぐ入り口ヨ」
なるほどね。にしても、この辺って魔素が少ないなぁ。なかなかMPが回復しないんだよね。MPが完全に回復していない状態で八大迷宮に入るのはちょっと不安なんだよな。でもさ、こちらの都合でわざわざMPが最大まで回復するまで待ってなんて言うのも気が引けるしさ――いや、でも万全の状態で臨むのが正解な気もするし、うーん、悩むなぁ。言うべきかな、どうしようかな。
悩んでいる俺を置いてコウさんたちが進んでいく。あ、待ってくれよ。ま、まぁ、MPは移動している間に回復するよね、大丈夫だよね。
「芋虫魔獣、行くヨ。何を悩んでいるか分からないけど、ここからは魔獣が出ないヨ」
あ、そうですか。って、悩む必要なかったじゃん。何だよ、早く言ってくれよ。
周囲が金属の壁に変わっていく。海底洞窟と『空舞う聖院』がくっついている感じなのかな。でも、ここってさ、正規の入り口じゃないよね。『空舞う聖院』のどういった部分に繋がっているんだろうな。
金属の通路を歩いていると行き止まりになった。へ、行き止まりじゃん。どうなってるの?
「半分のお嬢ちゃん、頼むヨ」
コウさんの言葉にミカンが反応する。うお、まるで今にも斬りかかりそうな感じで睨んでるぞ。
「お姉ちゃん、間違ってないから大丈夫だよ」
猫耳少女がミカンの着物の袖引っ張って止める。うん? 半分の子って差別用語か何かなのかなぁ。ちょっと気にしとくかな。
猫耳少女がとてとてと歩き壁に触れる。その瞬間、壁に黄色の光が走り、壁が別れていく。うお、ここ、扉だったのか。なんというハイテクな開き方。コレを作った人ってさ、絶対、格好いいからってだけでデザインしているよね。
「開きました」
猫耳少女がこちらへ振り返る。えーっと、この少女が必要な理由って、コレなのかな。他の人だと開かないとか、そんな感じ?
ま、進みましょ。
扉をくぐる。扉を抜けたすぐ隣に他の迷宮でも見かけた台座があった。ただ、台座に書かれていたであろう紋章は削られていた。おー、迷宮の壁とかオブジェクトって凄く硬いのに傷を残すなんてやるじゃん。
そのまま金属の通路を進んでいく。あ、俺たちが通り抜けたからって扉が自動的に閉まるワケじゃないんだね――ってことは、この通路って初めて開かれたのかな? いや、でもコウさんや現宰相たちはすでに通過済みなんだよな。じゃないと、この先に魔獣が居ないって分からないワケだしさ。うーん、となるともう一人の候補者と彼らが奥まで行って、その後にわざわざ閉めながら戻っていったって感じなのか? うーん、わからないな。ま、考えても仕方ないし、進みますか。
薄暗い金属の通路を猫耳少女が進む。その度に通路へ明かりが戻っていく。おー、電気が通い始めている感じだね。
「こっちだヨ」
道もさ、コウさんが知っているから迷う心配もないし、楽勝じゃん。逆に、こうもストレートに進んでしまうと、他の道がどうなっているのか気になってきて、うーむ、うーむ。だってさ、この『空舞う聖院』って凄い分かれ道が多いんだよ。って、ことは別れた他の道の方には宝箱とかありそうじゃね? 正解ルートだから、本当に道を進むだけになっているからなぁ。罠もないし、こうも単調だと飽きちゃうなぁ。
と、そこでぐぅぅとお腹の音が聞こえた。えーっと、これは誰だろうね。誰だろうね!
俺はミカンを見る。ミカンは私ではない、って顔で首を横に振っている。えー、絶対に嘘だ。
「え、えーっとお姉ちゃん、ご飯にする?」
「わ、私ではないぞ!」
はいはい、ミカンは大食いキャラですからねー、仕方ないですねー。
「中央までまだ距離があるヨ。休憩するか?」
まだ距離があるのか。なら休憩もありかなぁ。
―2―
円陣を組むようにどかりと座る。そのまま各々が持ってきていた食べ物を取り出し食べ始める。
俺は14型の用意したパンぽいモノにお野菜とお肉を挟んだ食べ物をもしゃりといただく。
「何で、食べ物が勝手に浮いて、その芋虫魔獣の口の中に進んでいくんだヨ。あんたら、疑問に思わないのかヨ」
うお、そこ、突っ込まれますか。これはね、サイドアーム・ナラカっていう便利な、便利な俺の手の代わりになるスキルなんだぜ。
「ところで、ラン殿、その背後に控えている女性は誰なのだろうか?」
って、今更? ミカンちゃん、今更、そこが気になるの? えーっと、14型です、はい。
「一人では何も出来ないかわいそうなマスターに仕える身ですが、何か?」
いや、何かって、何よ。というか、相変わらず一言多いね。
「そ、そうなのか」
ミカンが14型の勢いにたじろいでいる。
「あれよ、旦那のことで何か気にしたら負けだと思うんだぜ」
えー、キョウのおっちゃん、そんなことを言っちゃうの?
「ランはランだ!」
ジョアン君、ご飯を食べながら喋らない! 行儀が悪いなぁ、もう。
「シシ、やっぱりお前ら面白いヨ」
コウさんが舌を出したり、引っ込めたりしながら笑っている。はいはい、そうですね。
「さ、和んだ所で出発なんだぜ。コウさんよ、まだ距離はあるんだろ?」
キョウのおっちゃんの言葉にコウさんが手をはたきながら頷く。いやあ、結構キツいね。それでも、ちゃんとついてきている猫耳少女は凄いな。何だろう、獣人だから体力が凄いとか、そんな感じなんだろうか。それとも、この世界の子どもは基本スペックが高いのかなぁ。スラムに居たがきんちょ達も恐ろしい強さだったしな、あり得るかもしれん。
その後、数時間ほど歩き続け、大きな門の前にたどり着いた。
「ここだヨ」
ふぅ、まだ距離があるっていうから、日を跨ぐかと思ったが、さすがにそこまでではなかったか。それでも充分、結構な距離だと思うけどね。
「ここも開けます」
猫耳少女が扉に触れると、大きな扉が3つに分かれて開いていく。おー、カッコイイ開き方をするな。
中は大きな広間になっていた。中央に円筒の筒、そして台座。アレ? これで終わり? 攻略済みってコトだからボスが居ないのはイイとしよう、でもさ、今までの八大迷宮みたいにスキルモノリスがあるわけじゃないのか? うーん、ここはまだ最深部じゃない気がするなぁ。
「ここが中央制御室ヨ」
へー、そうなんだ。って、何を制御するんだ?