4-31 巨人退治
―1―
海底洞窟を進んでいく。ちらちらとコウさんの方を見るが、特に怪しい動きはない。うーん、うーん、コレ、俺の思い過ごしだったのかな。もしそうなら疑って悪いことをしたなぁ。
俺はね、仲間の振りしてスパイをしているんじゃないかって思ったワケですよ。だから、無害な魔獣の振りをして喋らずに聞きたいことも我慢しているワケですよ。でもさ、さっきみたいな傷だらけになりながら戦っている姿を見ると、ね。それにさ、コウさんの実力も見えたしさ、もし裏切ってもみんなで戦えば勝てるよねって感じだもん。これは無さそうかなぁ。俺はね、『ふぁふぁふぁ、実は俺は敵だったのだ。知ってた。何だと? 無害な魔獣だと思ったら話を理解していたのかー、不意を突かれたー』的な展開を予想して行動していたんだけどなぁ。これじゃあ、俺、ただの道化じゃね?
「さっきからどうしたヨ」
コウさんが気さくに話しかけてくる。いやまぁ、無表情だから、本当に気さくかどうかはわからないけどね。
「次は左ヨ」
はーい。
左の道を進むとまたも魔獣が姿を現す。うーん、うーん、数が多いな。この海底洞窟って一度に攻略するような感じじゃないのかな。そろそろ俺のMPもキツいんですけど。このままだとMPの回復が追いつかなくなるよ。
えーっと、今度は、またドラゴンフライか。何ここ、ドラゴンフライの繁殖地か何かなの? 多すぎじゃない?
そのドラゴンフライを奥から伸びてきた手が掴み、そして、そのまま握りつぶす。へ? え? 別の魔獣か?
奥から、のしりのしりと角のはえた一つ目巨人が現れる。現れた巨人は握りつぶしたドラゴンフライを口元へ運び、そのまま咀嚼する。バリバリと虫が引きちぎられる音が海底洞窟にこだまする。地下に何で巨人が? しかも巨大な棍棒を持ってるぞ。
「ロドスキュクロープ……」
ミカンが呟く。あー、アレ、そういう名前なのか。いやでも、ミカンちゃん、よく知っていたね。キョウのおっちゃんが知っているなら分かるんだけどさ、ミカンが知っているのは意外だな。
「お姉ちゃん……、あれ、お爺ちゃんの言っていた……」
猫耳少女の言葉にミカンが頷く。
「ドラゴンフライを主食とするロドスキュクロープ、アレがこの海底洞窟で一番危険な魔獣だ。あの魔獣が生息しているから、こちらルートを使うのを躊躇っていたのだ」
あー、そういう関係なワケね。にしても、この世界の巨人って虫が好物なのかなぁ。
―2―
「私が陣を張ります」
――《隼陣》――
ミカンを中心に光が広がる。お、体が凄く軽い。久々の陣の効果に感動だね。えーっと、確か効果時間が短いけど敏捷補正が上がるんだよな。
トンボが主食な一つ目巨人が手に持った棍棒を激しく振り回しながら駆けてくる。お、意外と早い。しかも、俺狙いか? 虫が主食ぽいから狙われたのかな。うーん、視界に赤い線が走るほどじゃないのか、意外と余裕か?
俺自身も巨人へと駆ける。振り回してきた棍棒を避け、その懐へ入る。怖いぐらいに早い振り回しだけどさ、陣の効果がある今なら余裕で回避出来るぜ、喰らえ!
――《Wスパイラルチャージ》――
真紅と潮の長銛が螺旋を描く。巨人が棍棒を振り回した体勢から無理矢理後方へと飛び、俺の螺旋を回避する。な、その図体で、その動きは反則だろ。
驚いている俺の横を光が走り、巨人に刺さる。見ればキョウのおっちゃんがダガーを投げ放っていた。おお、ナイスな攻撃。でも、あんまり効いている感じじゃないね。
巨人が怒りの雄叫びを上げて、またも棍棒を振り回しながら駆けてくる。
「次は俺かヨ」
今度はコウさんへと巨人が向かっていく。
躱しきれないと思ったのか、コウさんが巨人の振り回しを鉄鞭で受け止める。が、そのまま大きく後ろへ弾かれる。
「いてて、凄い馬鹿力ヨ」
そのコウさんに、さらに巨人の2撃目が迫る。
「僕がいる!」
ジョアンが素早くコウさんの前に立ち、宝櫃の盾で棍棒を受け止める。お、ナイス!
「小僧、助かったヨ。そのまま受け止めてろヨ」
「だから、僕は小僧じゃ……」
コウさんが鉄鞭を、巨人の棍棒を持った手に叩き付ける。巨人が痛みに叫び声を上げ、棍棒を手放す。
コウさんがもう一撃加えるよりも早く、巨人が後方へ飛び回避する。しかし、その飛んだ後方にはすでにミカンが待ち構えている。陣が解除される感覚。
――《斬》――
ミカンが手に持った長巻きから強力な一撃が巨人に決まる。いや、これで終わりじゃないぜ!
――《飛翔》――
高速で海底洞窟の天井ギリギリまで飛び上がる。羽猫を天井にぶつけないように気をつけないとね。
――《飛翔撃》――
真紅と共に光り輝く三角錐となってロドスキュクロープへ。巨人がこちらに気付き、回避しようとするが足下のミカンが攻撃を加えて邪魔をする。喰らえッ!
光の三角錐が巨人の顎を貫き砕いていく。な、ギリギリで回避されたか?
が、巨人は頭を揺すぶられたのか、そのまま膝をつき、うつぶせに倒れ込む。
「任せて欲しいヨ」
その言葉と共にコウさんの体が赤く染まる。何だ? まるで湯気でも出そうな感じだぞ。
コウさんがゆっくりと歩き、倒れ込んだ巨人の頭の前に。そして手に持った鉄鞭を構える。鉄鞭に光が集まっていく。って、コウさんが倒したら俺の経験値が!
ミカンちゃんが倒れている巨人を斬り続けているけどさ、それよりも先にコウさんの攻撃で倒してしまいそうだ。
コウさんが、溜めに溜めた光り輝く鉄鞭を巨人の頭に叩き付ける。ぐしゃりと言う音ともに巨人の頭が潰れる。うわ、グロい。
「ロドスキュクロープをあっさり倒せたヨ。皆、強いネ」
コウさんがこちらへと振り返りそんなことを言う。これで……終わりか? そうなんだよな、何というか、楽勝過ぎないか? えーっと、このロドスキュクロープが、この海底洞窟では一番危険なんだよな? そうは思えない強さなんだけど、どういうことだ? ミカンが元将軍から警告されていたくらいに危険で、だから、この洞窟を通るルートを諦めていたくらいなんだよな? それがコレか?
ジョアンは自慢気だな。キョウのおっちゃんも安堵のため息を吐いているけどさ、ミカンだけは何か腑に落ちないのか首をかしげているな。いや、ミカンも弱すぎるって思うよね。うーん、ま、考えても仕方ないか。
さ、海底洞窟を進みますか。
「次は右ヨ」
あ、はい。って、左右左右って、次はBとかAになるんですかね。
11月16日誤字修正
租借 → 咀嚼