4-30 戦闘開始
―1―
な、何を言っているんだ? 俺が会話を理解してるか、だと! そんなの当たり前じゃないか! 俺を誰だと思っているんだ! ま、まぁ、天啓を授けることは出来ても喋ることは出来ないんだけどね。うん、この念話から続く天啓って今更ながらにチート級の便利さだよね。これが無かったら、どれだけ苦労したことやら……。
「ふん、だんまりかヨ」
いや、俺ってば人見知りするタイプだからね、サクサクと喋れないんだよ。
恐慌状態から回復したみんなと共に、そのまま海底洞窟を進んでいく。
俺はちらちらとコウさんを見る。いやね、ちょっと気になることがあってだね。
「ん、どうしたヨ」
いやね、コウさんの体から魔石核って線が延びているんですよ。昨日は無かったよね。何か隠している装備品なのかな。いやあ、聞きたいなぁ、聞きたいけど、聞いていいモノか悩むんだよな。
「コウさんよ、あんたはここに来たことがあるみたいだが、道順を知ってるのか教えて欲しいんだぜ」
おー、それよ、それ。
「ああ、道ネ。大丈夫、大丈夫任せてヨ」
おー、道を知っている人が居るのは心強いね。
と言うことでコウさんについて行けば安心、安全、大丈夫だね。
緩やかな下り坂のような道をしばらく歩いていると道が二手に分かれていた。
「こっちだヨ」
コウさんが迷い無く左の道を進んでいく。あ、ついて行きます。
「ちなみに右の道に進むとどうなっていたんだぜ」
あ、気になるよね。実は俺、不正解ルートをあえて進んでマップを埋めるのが好きなんだ。
「宝物庫ヨ」
ちょ、いやいや、そっち行きましょうよ。是非、行きましょうよ。
「気になるけど、急いでいる今なら仕方ないんだぜ」
むぅ、仕方ないか。いや、後で個人的に来て確認しておくかな。うん、それがいい。
―2―
しばらく進むとまた道が二手に分かれていた。そして、分岐路の前、天井からは魔獣と書かれた線が延びていた。魔獣か、よし、倒すか。
俺は14型からコンポジットボウを受け取り、硬木の矢を番える。
――《チャージアロー》――
初の硬木の矢によるチャージアローですな。硬木の矢でもちゃんと光が集まっていくんだな。
「旦那、どうしたんだぜ」
俺は最大限まで光が溜まったところで伸びている線の先へと放つ。矢が魔獣に当たり、天井から魔獣がぼとりと落ちてくる。
落ちてきたのは目玉に触手がついているような魔獣だな。うーん、幾らチャージアローとはいえ一撃か。そして相変わらず矢は折れてしまっているのか……。チャージアローを使うと使い捨てになってしまうのがなぁ。この弱さなら普通に射る感じでも大丈夫そうだ。
うーん、話しぶりからもっと危険な洞窟を想像していたんだけど、意外と楽勝じゃね? それとも俺が強すぎるのか?
「やるね、芋虫魔獣。次は右ヨ」
次は右か。
右の道を進んでしばらくすると、天井から触手が伸びてきた。さっきの魔獣か! さらに正面から長い牙を持った黒い毛皮の虎、さらにドラゴンフライの集団も現れる。えーっと、か、数が多いな。これはどうするべきだ?
長い牙を持った黒虎がこちらへと飛びかかってくる。
「僕が!」
それをすかさずジョアンが宝櫃の盾で防ぐ。よし、そっちは任せた。
危険なのは、こちらを混乱させてくるドラゴンフライの集団か。まずはそっちを殲滅だな。
上から伸びてきた触手はキョウのおっちゃんが手に持ったダガーで斬り払っている。よし、そっちはキョウのおっちゃんの分担で、俺とコウさん、ミカンでドラゴンフライを殲滅だな。
「参る!」
ミカンが動く。素早く駆け出し、ドラゴンフライを斬り刻んでいく。
「やるネ」
それを見ながら悠々と歩いて行くコウさん。二人が前衛を務めるなら俺はコンポジットボウでチマチマ頑張るかな。まずは数を減らすのが重要か。
コンポジットボウに魔法の真銀の矢を番える。
――[アシッドウェポン]――
さあ、酸の矢を喰らうがよい!
俺は魔法の真銀の矢を放つ。
魔法で金属性を付与された魔法の真銀の矢がドラゴンフライの複眼のついた頭部を貫通し、そのまま光となって消える。よし、まずは一匹。
――《旋風斬》――
ミカンが一陣の暴風となりドラゴンフライの集団を駆け抜ける。お、範囲攻撃。あー、でも倒し切れてないな。意外と威力が無いのだろうか?
生き残ったドラゴンフライが羽を震わせ嫌な音を響かせる。
「その音をやめるんだヨ」
コウさんが鉄鞭でドラゴンフライを叩き潰す。が、2匹目を叩き潰したところで片膝をつく。ああ、意外と混乱が効いているぽい。
と、そこで大きな爆発音が響く。見るとキョウのおっちゃんが何やら謎の爆発物を天井の触手付き目玉に投げつけていた。おー、そっちは大丈夫そうだね。
ジョアンも黒虎の攻撃を捌き、跳ね返している。よしよし、こっちに集中して大丈夫そうだ。
次の矢は潮の矢でいいか。これも潮の長銛と同じだろうから魔法が付与出来るんだよな?
――[アシッドウェポン]――
潮の矢に金属性を付与する。が、水属性が強すぎるのか水の青色と金の黄色が混ざったような感じになる。これ、大丈夫なのか? いや、とりあえず放ってみよう。
潮の矢を放つ。狙い違わずドラゴンフライの脳天に刺さる。が、脳天に矢が刺さっているというのにドラゴンフライは元気に飛んでいた。む、貫通しないのか、それに倒し切れてないぞ。
仕方なく、すぐに硬木の矢を番えて放つ。次の矢が刺さったところでドラゴンフライが空から落ちる。う、うーん、属性付与が効いてない? それとも潮の矢が弱すぎるのか? 仕方ない、硬木の矢を次々と放ちますか。
前線に立っているミカンとコウさんの二人は見た目にも分かるくらいに動きが鈍くなっており、何度かドラゴンフライの攻撃を食らってしまっていた。む、後でヒールレインを掛けますんで耐えてください、お願いします。
硬木の矢を16本消費したところで全てのドラゴンフライを倒しきる。後でちゃんと矢を回収しないとね。次はジョアンのところか。の、前に。
――[ヒールレイン]――
癒やしの雨がミカンとコウさんの上に降り注ぐ。
「シシ、これは凄いヨ」
この世界、回復魔法がレアぽいもんなぁ。闘技場でへなちょこ治癒術士が偉そうにしていたのも分かるってもんだね。
傷の癒えたミカンがジョアンの元へ駆け出す。お、さすがに素早い。
「任せて欲しい!」
ミカンの声にジョアンが横にずれる。それを追うように黒虎の噛みつきが迫る。
――《月光》――
ミカンと黒虎がすれ違う。刀が鞘に収まるカチンという音が響くと共にジョアンへと飛びかかっていた黒虎が逆方向に吹き飛ぶ。しかし、ダメージにならなかったのか黒虎が空中で回転し、綺麗に着地する。む、皮膚が硬いのか?
「いやあ、ちょうどイイ所に飛んで来たヨ。動くのだるかったからネ!」
黒虎が着地した場所に待ち構えていたコウさん。コウさんへと振り向こうとした黒虎に鉄鞭がしなって見えるほどの強烈な一撃が炸裂する。と、見ている場合か。このままだとコウさんに経験値とMSPを持って行かれてしまう。
コウさんが暴れる黒虎に引き裂かれながらも何度も鉄鞭を叩き付けている。
――《集中》――
ミスらないように集中して、と。
――《飛翔》――
高速で飛び黒虎への間合いを詰める。
乱暴に振り下ろされる前爪を回避し、懐へ。
――《百花繚乱》――
懐から打ち上げるように真紅で高速の突きを叩き込む。ミカンの刀を弾き、コウさんの鉄鞭でも傷をつけられなかった硬い外皮を真紅が削っていく。真紅の突きが黒い肉片による花弁を咲かせていく。一撃加えるごとに黒虎が浮き上がっていく。
「芋虫魔獣、ご苦労だヨ」
浮き上がった黒虎にコウさんの鉄鞭が振るわれる。浮いていた体が地面へと縫い付けられる。それがトドメとなったようだ、黒虎の動きが止まった。あー、経験値が!
ま、まぁ勝てたからいいか。それに、コウさんのボロボロ具合を見ていると横取りするのも気が引けるしね。ああ、もう一度、ヒールレインを使っておくか。
――[ヒールレイン]――
コウさんの上に癒やしの雨が降り注ぐ。
「ああ、生き返るようだヨ」
にしても相手の攻撃をお構いなしに戦うとか狂戦士みたいな人だなぁ。