4-29 海底洞窟
―1―
「今回も船で行くんだヨ。俺は水が苦手なんだけど仕方ないヨね」
仕方ないのだった。うーん、コウさんってば、種族的に水が苦手って言うけどさ、本当に蜥蜴人全員がそうなのか、気になるよね。
今回もコウさんの船で出発です。キョウのおっちゃんがもの凄く嫌そうな顔をしていたけど仕方ないよね、我慢、我慢なのですよ。
コウさんが船に備え付けられた筒のようなモノに魔石を入れる。あー、魔石代すいませんす。って、魔石だよ、魔石。まだストックは有るけどさ、真紅が食べちゃうからなぁ。レアぽい魔石はさすがに食べさせるのが勿体ない気がするし……かといってしょぼい魔石だと満足してくれなくなってきたし困ったモノです。握り部分の蜘蛛足がわさわさと催促し始めるのです。今回の攻略が一段落したら、どこか迷宮を探して魔石集めをするかなぁ。
「どうしたヨ。魔石が気になるのか?」
俺がじーっと見ていることに気付いたのか、コウさんがそんなことを言ってくる。
「魔石が欲しいなら、迷宮都市に向かうのが一番だヨ」
ほう、何やら楽しそうな名前だな。
「め、迷宮都市!」
お、何やらジョアンが食いついたぞ。
「俺の生まれ故郷ヨ」
へー、そうなんだ。
「お爺ちゃんから聞いたことがある! そこで力をつけたって!」
ふむふむ。なるほど、ジョアンは剣聖絡みだったから食いついたのか。
「帝都より遙か東にある迷宮都市リカイン……二つの八大迷宮を抱えた都市なんだぜ」
ほう、二つも、ね。それは是非向かいたいな。
「神国は自分とこの都市だと、帝国は自分の領土だと主張する独立都市ヨ」
うわあ、複雑な感じだ。でも、行ってみたい場所だな。よし、次の目的地は魔石を集めに迷宮都市に向かうって感じだな。よし、決定。
そんな会話を聞きながら、しばらく海を進むと大きな岩が見えてきた。
「アレが海底洞窟の入り口ヨ」
何だろう、岩が鬼の顔みたいに見えるね。鬼の口の中へ進む俺たちは、まるで自ら食われに進んでいるみたいだな。
―2―
暗い洞窟の中を船が進んでいく。
「ここからは歩きになるヨ」
コウさんが船を止める。誰か先人が作ったであろう金属の杭に、船からロープを伸ばし結びつける。
さあ、迷宮探索だ。って、ちょっと暗いな。よし羽猫よ、今こそお前の出番だ。
俺の頭の上でくつろいでいた羽猫をサイドアーム・ナラカでなでる。ライト、お願いします。
――《ライト》――
羽猫から明かりが灯り周囲を照らし始める。いやあ、助かるね。この子が居るならランタン要らないよなぁ。
「む。私の居ない間にそのような力を」
羽猫のスキルにミカンが驚いている。それを聞いて自慢気なオーラが頭の上から上ったのを感じた。羽猫よ、明かりを灯すくらいで奢っていては駄目なんだぞ。
岩で出来たゴツゴツとした迷宮を進んでいると、前方に『???』という線が見えた。あれ? 魔獣じゃないのか?
「ほう、芋虫魔獣も気付いたようだ。油断ならないヨ」
うん? どういうことだ?
ぺたんぺたんという足音が近づいてくる。
「ひっ」
ミカンの後ろに隠れていた猫耳少女が悲鳴を上げる。そのままミカンの服の袖を強く握ったまま震え始める。
「テラーアンデッドなんだぜ!」
キョウのおっちゃんが叫ぶ。それはまるで恐怖を振り払うかのように、自分に活を入れているかのような叫びだ。むむ?
ぺたん、ぺたん。
現れたのはボロボロの海賊服に身を包む猫人族だった存在。うひ、顔とか崩れてるじゃん、中身が見えてるじゃん。うわ、グロい。余り直視していると吐きそう。あー、でも虫とかが沸いてないのが幸いかな。
「周囲に恐怖を振りまくアンデッドなんだぜ! 早く倒さないと恐怖で震えて、うう」
あ、そうなんだ。
キョウのおっちゃんも脂汗をかき震え始めている。決して、船旅がキツかったからじゃないよね。
見ればジョアンも足が震え始めていた。そんな怖いのか? グロいとは思うけど、怖くはないよなぁ。あ、14型さんは普通ですね。とりあえず、影響を受けない俺が倒すか。もう、仕方ないなぁ。
その瞬間、コウさんから大きな雄叫びが上がる。うひぃ、うるさい。そして、そのまま鉄鞭を片手に駆け出す。ちょ、俺も戦うよ。
一匹目のテラーアンデッドを鉄鞭が吹き飛ばす。テラーアンデッドが砕け散り、腐敗した肉片が舞う。
さらにぺたんぺたんと現れるテラーアンデッドたち。俺も行くぜ!
14型から潮の長銛を受け取り、俺は駆ける。
こちらへ噛みついてこようとするテラーアンデッドを回避し、もう一匹が手に持った湾曲した剣を真紅で弾き飛ばし、そのまま!
――《Wスパイラルチャージ》――
左右に分かれた螺旋によってテラーアンデッドを抉り貫く。
「シシ、芋虫魔獣やるネ」
おうよ! って、コウさんは恐怖の影響を受けてないぽいな。そういう種族特性なのかな。
そのまま二人でテラーアンデッドを殲滅する。うーん、恐怖の状態異常が怖いだけで、あんまり強くないね。死体だからか、乱暴に武器を振り回したり、噛みついてきたりするだけだし、動きも余り速くないもんね。
「はー、予想通り、ゴミみたいな魔石しかないヨ」
コウさんがため息を吐いている。テラーアンデッドから取り出したであろう、見せて貰った魔石は本当に小さなモノだった。コレ、アレだ、ホーンドラットと同じくらいだ。うわぁ、そのクラスと同じような雑魚魔獣ってことか? まぁ、でもさ、強さと魔石はイコールじゃないからね。
さあ、テラーアンデッドも殲滅したし、奥に行きましょ。
「芋虫魔獣、あんた言葉を理解しているヨね。もしかして会話出来るんじゃないかヨ」
2020年12月12日誤字修正
はー、余所通り、ゴ → はー、予想通り、ゴ