4-28 出発進行
―1―
まずは休んで鋭気を養わないとね。
皆を見るとミカンだけが何だか苦しそうにしていた。どうしたの?
「すまぬ、何か食べるものを……」
あー、お腹が空いたのね。そう言えばお昼から何も食べてないもんね。
「ああ、そうだ。すまない、フランソワ料理長はまだ起きていたかな? ミカンたちのために何か作って貰えるように頼んできてくれ」
「畏まりました、旦那様」
猫人族の執事が丁寧なお辞儀をして退出する。うーん、俺らはここで待つ感じかな。
「何か食べるものが出来るまでここでくつろぐといいだろう」
ふむ。こういう時ってさ、部屋の中の調度品を見るのがマナーなんだったかな。あー、でもこっちの世界も同じとは限らないか。どどどど、どうしよう。
「座らせて貰うんだぜ」
キョウのおっちゃんが適当な椅子にドカッと座る。キョウのおっちゃん、こういう度胸はあるよなぁ。
「僕も座らせて貰う」
ジョアンも普通に座って待つ。
「俺はここでいいヨ」
コウさんは壁に寄りかかり腕を組んでいる。む、何故か俺の方を見ているな。何々、どうしたよ。俺がどうするか気になるの? 仕方ないなぁ。
俺は芋虫スタイルでぐでーっと横たわる。これが一番楽なのだ。いやぁ、いくら服を着ていると言っても芋虫だからね、このようにぐでーっと楽な格好をしても見咎められることがないのだ!
しばらく待っていると執事の人が戻ってきた。
「食事の準備が整いました」
よっしゃー、待ってました。待ちに待っただね。見ればミカンちゃんなんて目が大きく見開かれてるよ。この子、どんだけお腹が空いていたんだ。さあ、食事に向かいますか。
執事さんに食堂らしき部屋へと案内される。横長の大きなテーブルの上には作られたばかりの料理が並んでいた。何かな、何かな。
黒く硬そうなパンのような物、焼いた薄いチャーシューのようなお肉、気持ちばかりのお肉とお野菜が浮いているスープ――え? これだけ? 宰相さんとこの料理と大違いなんですけど。ここのお家は質素がモットーみたいな感じなんですかね。
「ふむ。本当は客人たちをもっとちゃんとした料理でもてなしたいのだが、すまないな」
ま、まぁ、ご馳走になる側ですから文句は有りません。食べられたら満足、満足ですよ。
「ま、旦那、魔獣による海路の封鎖で食糧難だって聞いているから仕方ないと思うんだぜ」
あ、そういえば、そんな情報があったなぁ。そ、そうか。それなら仕方ないよね。
ま、何にせよ、いただきます。
「そ、そこの魔獣も食べるのかね」
む、俺の事かな? もちろん食べますよ。駄目かな?
―2―
翌朝。俺たちが出発準備をしているとお爺ちゃんが話しかけてきた。
「海底洞窟の場所は分かっているのかね」
おー、それな。知らないんだな、これが。
「大丈夫ヨ。俺が知ってるヨ」
お、コウさん頼りになるねー。
「そ、そうか」
そうなのだ。
「すまないが、リーンを、孫娘を頼む」
おうさ、貴重な猫耳少女だもんね、傷一つつけないぜ!
「私からもお願いします」
執事さんからも頼まれちゃうか、頼まれちゃったかー、まぁ、大船に乗ったつもりで待っててくださいな。
「お爺ちゃん、行ってきます」
猫耳少女がちょこんとお辞儀をして挨拶をしている。ふむ、可愛らしいね。でもさ、この年齢の少女が王になるのか? いや、それって、この国、大丈夫なのか? う、うーん。
そんなやりとりを見ているとミカンがこちらへとやって来た。
「ラン殿、私をもう一度パーティに入れて貰えないだろうか?」
そしてミカンの口から出た言葉。むむ、どうしようっかなー、俺を見捨てて北に行っちゃったような娘だしなー、なんてね、ちゃんとパーティに入れてあげますよ。というか戦力アップのためにも是非入ってくださいな。
【ミカンさんがパーティに加入しました】
あ、リーンって猫耳少女もパーティに入れた方がいいのかな? どうなんでしょ。
「リーンは私が守る」
あ、そうなんだ。ミカンが守るからパーティに加入させる必要は無いってコトかな。でも、守るならジョアンの方が得意な気がするんだけどなぁ。まぁ、ミカンちゃんには陣を張って頑張って貰いますか。
「そうだ、リーン、皆に挨拶を」
お、おうおう、そういえば、昨日会ったけどバタバタしていて何も挨拶してないね。
「私はリーンって言います。こんかいは私のために……あ、ありがとうございます」
とてとて歩いてきた猫耳少女がミカンの後ろに隠れ、そこからちょこんと顔だけを覗かせて、そんなことを言う。えーっと、こんな人見知りするような感じで王様になれるのか? 不安だなぁ。
「ところで、そちらの蜥蜴人だけパーティに加入していないようだが?」
ミカンちゃん、そこに気付いちゃうかー。そうなんだよね。コウさんには、パーティに入って貰ってないんだよな。うん? いやでも、14型も入ってないよな。ま、まぁ、14型は居ない子扱いだからいいか。
「俺はコウだヨ。ふーん、パーティね、俺はいいヨ」
いいよのいいよは入らないって意味のいいよだよな。そっかー、まぁ、無理強いしても仕方ないし、このまま行きますか。
と、言うワケで、改めて出発進行!
行き先は海底洞窟。そして八大迷宮の『空舞う聖院』!