4-27 方針決定
―1―
元将軍宅を目指して駆けていく。不思議なことに追っ手が来る気配がない。うーん、諦めてくれたのかな。
そのまま元将軍宅へ。おうおう、さすがに将軍様だっただけあって豪華な屋敷じゃない。おっ金持ちー。
ミカンが屋敷の扉につけられたノッカーを叩くと中から執事の格好をした年配の猫人族が現れた。うお、執事服って、この世界にも存在しているんだ。久しぶりの驚きだよ。
「ミカン様、このような時間にどうされました? それに後ろの方達は?」
執事の言葉にミカンが頷き説明する。
「私たちの力になってくれる者達だ」
執事に案内され屋敷の中へ。俺は屋敷の中を見回す。ふむ、調度品が並べられていたり、敷物がしかれていたり、ホント、お金持ちって感じだな。
屋敷の中を歩いていると小さな塊が飛び込んできた。
「お姉ちゃん」
小さな塊はそのままミカンに抱きつく。ん? んん? いや、これはアレか。もしかしなくてもアレか! 猫耳じゃん。猫耳少女じゃん。いやね、ミカンちゃんは完全に猫じゃん。確かに髪は生えているし、服は着ているけど猫じゃん。それが、これは、ね、猫耳少女だと……ま、まさか実在したのか。この世界、どうなってやがる。
「おいおい、まさかこの子は……」
キョウのおっちゃんが何かを言おうとする。
「黙れ」
それをミカンが抱きついた少女に見えないように隠しながら刀を抜き、止める。ちょ、すぐに刃物を抜くとか止めようよ。ホント、どったの。余裕なさ過ぎじゃない?
「お、おう、悪かったんだぜ」
キョウのおっちゃんが冷や汗を流しながら謝ってる。キョウのおっちゃんの謝罪を聞いて、ミカンが刀をしまう。複雑な表情のキョウのおっちゃん――ふむ、何を言おうとしたんだろうな。
ジョアンも少女を見て複雑な顔をしている。うーん、この世界の人にしか分からない何かなのかな?
俺は14型も見てみる。何も考えていない顔で優雅に佇んでいるだけだった。
「にゃむぅ」
頭の上の羽猫は眠ってるみたいだ――まぁ、夜も遅いしね。うーむ。
そ、そうだ、コウさんはどうだ? コウさんを見ると無表情ながら興味深そうに舌を出したりしまったりしていた。むぅ。
執事さんに案内されて奥の部屋に。そこに居たのは年配の普人族の男性だった。む、ロマンスグレー的なお爺ちゃんだね。さすがは元将軍だけあってがっちりとしているな。
「大勢のお客様のようだな」
ほう、渋みの聞いた声だな。いつかは俺もこんな声が出したいぜ。
「ふむ、こちらに来るということは何かあったのだな」
そのままお爺ちゃんが喋り、部屋に入ってきた人間の顔を一人一人確認していく。そして一瞬だが、俺を見た瞬間驚いたような顔したが、そのまま何も言わず目線を逸らす。
「うむ。宰相に会ってきた。全ての黒幕はヤツだった」
ミカンの言葉にお爺ちゃんが眉間に手を当て考え込む。
「そうか……」
そうだったのだ。
―2―
うーん、こちらの勝利条件への筋道が見えてこないんだよなぁ。とりあえず、この猫耳少女を王様にするのが勝利だとは思うんだけど、どうやって王様にするの? どうやったら成れるの? ってのが分からない。敗北条件は猫耳少女を奪われることだよね。宰相を殺害したら勝ちって単純な話じゃないよね。俺なんかはさ、候補者が二人いるんだから仲良く王様になったら駄目なのか、って思うんだけどなあ。
「で、あんたらはどうするつもりなんだぜ」
そうよ、それよ。さすがはキョウのおっちゃん、俺の言いたいことを言ってくれるぜ。
「私は……」
猫耳少女が喋ろうとしたのをお爺ちゃんが手で止める。
「宰相が敵と分かった以上、急ぎ王位継承の儀を行う」
うん?
「お爺ちゃん!」
猫耳少女が驚き声を上げている。何だろう、俺ってば凄い蚊帳の外だよね。劇を見せられてる気分だよ。
「ミカン、力を貸して貰えるかな」
お爺ちゃんの言葉にミカンが頷く。えーっと、俺はどうすればいいのかなー。
「どういうことか教えて欲しいんだぜ」
そうだよ!
「王位を継承するには八大迷宮『空舞う聖院』の最深部に到達することが条件となるのだ」
ふむふむ。
「しかし、『空舞う聖院』は海底に沈んでいるため、そのままでは進入することが出来ない」
ふむ、そうそう、沈んでいるのにどうやって入るのかなーって思ったんだよね。
「『空舞う聖院』に入る方法は二つ」
ほう?
「一つは二つの月が重なった時、海が割れ『空舞う聖院』への道が開かれる。しかし、これにはまだまだ日数が掛かる」
海が割れるのか、ちょっと見てみたいな。
「二つ目は魔獣の多く住む海底洞窟を通り『空舞う聖院』に向かう方法なのだ」
ああ、そういうことか。
「分かったんだぜ。つまり、急ぎ儀を行うってことは海底洞窟を抜けるって話なんだぜ」
そうなんだぜ。
ミカンが鞘に入った刀を地面に叩き付ける。
「元々は月が重なるまで待つつもりだったのだ。私が宰相に会わなければ……」
えーっと、俺が宰相に会おうなんて言ったから、それが悪かったんですかね。
「いや、ミカンよ、敵が宰相と分かったのは幸いだ。もし不明なままだったなら、持ちこたえることは出来なかっただろうからな」
そうなの?
「国の権力を握っている相手では、私の、元将軍という肩書きが力を成さないのだから、リーンの居場所を知られる前で良かったのだよ」
うーん、そうなのかな。
で、これは行く流れだよね。ああ、流されちゃう。けど仕方ないか。元々、『空舞う聖院』には行くつもりだったんだ。行くための方法が手に入ったと思うべきか。
ミカンがこちらを、俺たちを見る。
「力を貸して欲しい」
俺はお爺ちゃんの方を見る。えーっと、俺たちみたいな流れ者に頼っちゃうの? 本当にいいの?
「あなた方の力は見ればわかる。ミカンも信頼しているように感じる。力を貸して貰えるなら嬉しい」
はぁ、仕方ないなぁ。
キョウのおっちゃんが俺の方を見る。いいよ、いいよ。渡りに船じゃん。キョウのおっちゃんは急いで『空舞う聖院』に向かいたいんでしょ。チャンスじゃん。
「分かったんだぜ」
俺も分かったんだぜ。
「僕もだ! こ、困った者の力になるのは聖騎士の務めだ!」
お、初めて聖騎士らしいこと言ったじゃん。
「面白いなら、それでいいヨ」
ぶれないなあ。
「マスターが望むなら、どんな愚鈍な選択でも仕方ないのです」
はいはい、一言多いね。
「ふぁぁ」
頭の上で欠伸をするの、止めて貰えませんかねぇ。
じゃ、行きますか、海底洞窟!
と、その前に夜も遅いですけど、ご飯をいただけませんかね。