4-25 対ミカン
―1―
えーっと、何でミカンさんが、ここに居るの? 何で、何で?
あるぇー、何でかなー。
何でここにいるのかなー。何でかなー。
何で?
「お前たち、何の目的があって……ん?」
ミカンさんが手に持っていた長巻きを振り払いこちらを見る。
「んんん?」
ミカンさんがこちらを見る。
「まさか……ラン殿か?」
そうだよ、俺だよ。本当に何でこんな場所で再会するんだ。俺は本当に大変だったんだぞ、帝都の闘技場で戦って、戦争に出て、世界の壁を攻略して……あーもう!
「そうか」
ミカンさんが長巻きを構え直す。
「ラン殿、あなたにどういった事情があるかは分からない、残念だ」
その言葉と共にこちらへ駆け出す。え? ちょ、どういうこと?
「ラン!」
ジョアンが叫び、前へ出ようとする。俺はとっさに手に持った真紅を横に伸ばし、ジョアンを止める。
「どうしたヨ」
こちらへコウさんも寄ってくる。
――[ヒールレイン]――
癒やしの雨をキョウのおっちゃんと倒れている猫人族の上に降らせる。まずは回復っと。キョウのおっちゃん、大丈夫だよね。
「何を!」
俺の魔法にミカンさんが足を止める。何をって、傷を治してるんだよ。
「くっ、参る」
考えても仕方ないと思ったのか、ミカンさんが再度、長巻きを構え駆けてくる。くっ、早い。もうね、話を聞けってば、この子は脳みそが筋肉で出来ているのか!
俺は真紅を構え、ミカンさんを迎え撃つ。斜めから迫る赤い線。いつの間にか目の前に来ていたミカンさんの長巻きが赤い線をなぞるように動く。
――《払い突き》――
ミカンさんの長巻きを払い――って、重っ、重い。とてもじゃないが打ち払えない。
『話を聞け!』
俺はミカンさんに限定して天啓を授ける。
「話すことなど無い!」
真紅と長巻きの鍔迫り合い。刀と槍で行うとかなんつう絵面だ。ああ、もう、話を聞け、この脳筋!
「ラン!」
「マスターから離れなさい!」
今にもこちらへと走ってきそうなジョアンと14型の二人を、俺の丸い小さな手を後方へ伸ばし止める。いいんだよ、サシでやろうぜ、って気分なんだよ。
ミカンさんが、長巻きに力を込め、そのまま俺の真紅を弾き、後方へ飛ぶ。む、距離を取ったか。
ミカンさんが長巻きを背中に戻し腰に下げた刀を持つ。まさか。
視界に無数の赤い線が走る。これは無理、回避とか無理だ。
――[アイスウォール]――
目の前に氷の壁を張る。氷の壁に無数の線が走り、そのまま砕け散る。砕け散った氷の破片を纏いながら、こちらへと刀の線が迫る。ああ、もうね、武器が足りない。こんなことなら14型から武器を受け取っておくんだった。
――《集中》――
集中しろ! さあ、どうするどうする。うーん、赤い線は消えてないな。超知覚のスキルで思考時間が延びているとは言え、余りゆっくりとは考えてられないし、むむむ。
――《飛翔》――
飛び、そのまま高速でミカンさんの元へ。迫る刃をギリギリで躱し、体当たりをかます。アブね、ミカンさんが反応しきれてなくて良かったよ。
「な!」
驚くミカンさんと共に地面を転がる。
「なめるな!」
が、そのまま蹴り飛ばされる。ちょ、痛いって!
ミカンさんが刀を片手に起き上がる。お、肩で息をしているな。にしても、転がった時によく長巻きが無事だったなぁ。
あー、もう何が何やら。何でミカンさんと戦っているんだ。というか、この子は何で人の話を聞こうとしないんだ。何でそんなに一杯一杯なんだ。ああ、とりあえず無力化して話を聞いて貰える状態にしないと駄目か。それに俺とミカンさんのことを知らない人が参戦して、取り返しのつかないことになる前に何とかしないと。
ミカンさんが刀を鞘に納め、構える。抜刀術か?
視界に赤い線が真横に伸びる。横斬りか。じゃ、こっちが先制で。
――《魔法糸》――
俺は魔法糸を飛ばしミカンさんの動きを封じようとする。
「甘い!」
俺の飛ばした魔法糸は剣筋が見えぬほどの抜刀によって斬り飛ばされる。あ、一瞬、赤い線が消えたけど、また灯った。うーん、時間稼ぎにしかならないか。いっそウェポンブレイクで刀を壊しちゃう? いや、そうなると恨まれそうだしなぁ。いよいよとなったら解禁するけどさ、今はまだその時じゃない!
ミカンさんが大きく体を捻り、体ごと抜刀する。まるで大きな旋風だ。俺の超知覚がゆっくりと迫る刀の軌跡を捉える。これは、俺の真紅とどっちが優れているか勝負だな!
――《スパイラルチャージ》――
赤い風の螺旋と旋風が衝突する。その刀を吹き飛ばしてやる!
真紅の勢いに負け、ミカンさんの刀が弾かれる。貰った!
「くっ! さすがです……がっ!」
ミカンさんが開いている方、鞘に置いてた手で真紅を握る。ちょ、それは無理だろ。
ミチミチと肉が削られるような音を立てながら回転していた真紅だったが、その力が弱まっていく。そして恐ろしい怪力によって完全に動きが止まる。何て馬鹿力だ。
「終わりです」
ミカンさんが真紅を掴んだまま刀を振りかぶる。いや、まだだぜ! もう飛翔は使えるはず。真紅すまない。
――《飛翔》――
俺は真紅を手放し、飛翔スキルによって空へ舞い上がる。からのッ!
「武器を捨てただと?」
武器? 武器がない? いいや、俺の足にあるじゃないか!
そのまま体当たりのようにフェザーブーツによる高速のキックを繰り出す。
「なっ!」
一瞬、反応が遅れたミカンは俺のキックをそのまま食らう。そして、俺とミカンは、その勢いのまま森の中へ。あー、今回もスキルにはならなかったか……。
――《魔法糸》――
俺はすぐに魔法糸を飛ばしミカンを拘束する。もうね、話を聞けっての!
『俺は敵じゃないッ!』
もう一度、ミカンに限定して天啓を授ける。もうね、何で戦うことになったのやら……。
「リーンを狙いに来たのではないのか?」
リーンって誰? もしかして候補者の女の子のことかな?
『自分たちは、ここに攫われた女の子の救出に来ただけだ』
俺の天啓にミカンが何かおかしいぞって感じの顔をする。うーん、こっちが先制攻撃をしてしまっていたからなぁ。アレがなければもうちょっと上手く話が進められたんだろうか。
「私たちは攫ってなどいない。何者かの襲撃を受けてリーンの祖父の別荘に退避していただけだ」
む? 何か話に食い違いがあるな。
『自分は宰相の依頼で来たのだが』
「宰相が……?」
そうだよ。
『誤解を解くためにも宰相と話してみないか?』
そうだよ、それがいいよね。
「む。わかった」
ミカンが頷く。これで何とかなったかな。はぁ……にしても疲れた。もうね、こっちはさ、ミカンとはぐれてしまったから心配しててさ、会ったら色々話そうと思っていたのに、話を聞いてくれない、襲いかかってくるって、俺としては凄いショックだよ。
「あ、あの……」
ミカンが小さく呟いている。どったの?
「ごめんなさい」
む。
「ランさ……んが、あの後どうなったか分からないけれど……会いに行けなかった。それに、今回も話を聞かなくてごめんなさ……う、すまなかった」
むむむ。
あー、もう。そうだよね、多分、そのリーンって子を守ろうとして必死で頭が回ってなかったんだよね。仕方ないなぁ、許すよ、許しますよ。次はちゃんと話を聞こうね。って、次にこんなことがあったら許さないんだからね。
2020年12月13日修正
驚くミカンさんをと → 驚くミカンさんと