4-22 お食事会
―1―
それじゃあ、戻りますか。あ、結局、お昼食べてないなぁ。うん、お腹空いた。あ、でもさ、晩ご飯が出るだろうから、それを期待して我慢しようかな、うん、そうしよう。
とぼとぼと歩いていると日が落ちてくる。あー、もう、そんな時間か。冒険者ギルドまで結構な距離があったもんなぁ。急いだ方がいいかな? いや、間に合うでしょ、うん、大丈夫、大丈夫。
にしても、本当に人がいないなぁ。せっかく綺麗で趣のある建物が多いのに寂しいよね。
艦橋近くまで来ると、歩いている俺の隣に、いつの間にかキョウのおっちゃんがいた。
「待ってたんだぜ」
待たせたんだぜ。
「ちょっと確認したんだが、どうにもよくない感じなんだぜ」
きな臭いのか。
「まずは、あの宰相の評判は最悪なんだぜ」
あー、無能ぽいもんね。
「物の流れが止まっているから、食糧難になっているみたいなんだぜ。しかも、宰相が王宮に貯めていた食料などの物資を解放しないから不満があがっているみたいなんだぜ」
ふむふむ。個人の物資なら解放する義務はないけどさ、国の物資なんでしょ、それだとちょっと反感を買っちゃうよね。
「やはり魔獣による海路の封鎖が国に打撃を与えているみたいなんだぜ」
物資の流れが止まるって、この海に囲まれた国だと死活問題ぽいもんなぁ。
「追い打ちをかけるように国王の死去、次の候補者の選定は難航……厳しい状況なんだぜ」
ちゃっちゃっと次の王様が決まって、舵を取って立て直さないとやばいんだろうなぁ。
「さらに宰相への不満を言った者を厳重に取り締まっているようだから、町に活気がなくなっているんだぜ」
うわ、それが通りに人が居ない理由か。候補者が一人しか居なかったら、もっと話は簡単だったんだろうなぁ。国がこんな状況なんだから、どっちかが折れたら良かったのにね。
「で、候補者の二人なんだが、どうにも兄と妹みたいなんだぜ」
え? そうなの? じゃあ、両方とも元将軍の孫ってことか。亡くなった王様にとっても孫だよね。
「亡くなった王様なんだが、まあ、アレだ、変わった趣味をしていたんだぜ」
変わった趣味?
「獣好きなんだぜ」
うお、そ、そうですか。
「普通は同族だろ? 変わってるんだぜ」
いや、まあ、愛があれば、はい。
「で、まぁ、娘が生まれた訳だが、国としては認める訳に行かない――相手は何処の馬の骨ともしれない地位の低い猫人族の娘だったらしいから、結局、公的には死産だったことになったらしいんだぜ」
そうなのか。
「ここまでなら俺も大体は知っていたんだぜ」
お、さすがは情報通のキョウのおっちゃん。
「そして、その生まれた娘と駆け落ちしたのが元将軍の子らしいんだぜ。その元将軍が、生まれた国王の娘を、殺すのは忍びないって感じで、匿って育てていたらしいから、二人は幼なじみってワケなんだぜ」
ほー、そう繋がってくるのね。
「二人はホーシアを離れ、生まれた娘と共に旅の商人をしていたらしいんだぜ」
ほう、国王の娘と将軍の息子が商人とか――とても高貴な血筋の商人さんですね。
「で、だ。その二人の長男は死産したと言われていたんだが、実は生きていたらしいんだぜ」
実は生きていたパターンか。
「国王には他に子がおらず、仕方なく血筋の二人を候補者としているみたいなんだぜ」
あれ? でも、それなら王の娘の方がいいんじゃないか? なんで孫の方になるんだ?
「孫の方は将軍家の血が入っているから、まだ許容出来るって話らしいんだぜ」
あー、親より子どもの方が地位が高くなっちゃうパターンか。両親としては複雑だろうなぁ。いや、というか、子どもが――兄妹が候補者として権力争いをするなんて親からしたら悲しいだろう。なんで、止めないんだ?
「両親はホーシアに戻ってきていないみたいなんだぜ」
そっかー。両親は国に戻して貰えなかったのかな? まぁ、でもこれで大体の状況は把握出来たかなぁ。さすがはキョウのおっちゃん、情報収集能力が高いんだぜ!
艦橋の前までキョウのおっちゃんと話しながら歩く。
「お、遅い! 待ってたんだぞ!」
柵の前にジョアンがふてくされた顔で座っていた。おうおう、ジョアンよ、どうした、どうした。
「な、何でも無い! さあ、入る!」
はいはい。何だろう、ジョアンも別行動を取っていたけどさ、何かアテが外れたのかな?
―2―
門の中に入るとコウさんが待っていた。
「シシシ、待っていたヨ」
噛みつかれそうな口からは相変わらず長い舌がチロチロと覗いている。
「こっちだヨ」
お、今回もコウさんが案内してくれるんだね。よろしく頼むんだぜ。
案内された部屋には、すでに豪華な料理が無数ならべられていた。
「好きなところに座るといいヨ」
え? いいの? こういうのってさ、座る場所のマナー的なモノがあるんじゃないの?
俺が見ている前でコウさんがドカっと椅子に座る。奥にはすでに宰相が座って食事をしていた。って、もう食べているのかよ! おかしくない? おかしくない?
「さ、食べようヨ」
コウさんも食事を始める。えーっと、何だろう、宮廷マナーみたいなのはないのかなー。
俺は隣のキョウのおっちゃんを見る。キョウのおっちゃんが呆れた顔をしている。あ、これ、やっぱり、余りよろしくない感じなんだな。ノーマナーですヨ。
キョウのおっちゃんが肩をすくめて席に着く。続いてジョアンも席に。えーっと、じゃあ、俺も。って、椅子に座るのきついんだよなぁ、どうしよう。
俺が困っていると、14型が、その怪力で椅子を壊し、座り易くしてくれた。あ、ありがとう。でもさ、他人のモノを勝手に壊すのは感心しないぜ。
さあて、食事、食事。
すでに食べ始めているコウさんと宰相を見ると、どうやら食べたいものを猫人族のメイドさんに取らせて、それを食べる方式のようだ。まぁ、テーブルの上にドカッと大量の料理が並んでいるからね、自分で取るのも大変だからね、席を立って動き回る訳にもいかないからね、仕方ないね。
えーっと、では14型さん、あそこにある、ソースの掛かった魚の切り身ぽいモノと何やら粒が沢山ついている唐揚げぽいモノを取って貰えますか?
「ええ、ええ、構いません。マスターのちっちゃい手では届かないでしょうから仕方ないです」
もうね、14型さんは一言多いんだから。
うんでは、俺も食事にしますかねー。もしゃもしゃと行くぜ!
……。
「どうですかな、中々の料理でしょう?」
もしゃもしゃ。
「我が国は神国の技術を取り入れてますからな。帝都よりも洗練された料理でしょう?」
もしゃもしゃ。
「これなどは、希少なゼベルをふんだんに使った料理なんですよ」
もしゃもしゃ。
「帝都は作物が育たない貧相な地と聞いてますからなぁ」
もしゃもしゃ。
「属国からの物資支援がなければ大変でしょう?」
もしゃもしゃ。
「ええ、分かっていますとも。我が国も協力は惜しみませんよ」
もしゃもしゃ。
「そこの魔獣も食事をするんですなぁ」
もしゃもしゃ。
「そういえば兵から、あんたの評判を聞いたんだぜ」
おいおい、キョウのおっちゃん、食事中に喋るのはマナー違反だぜ。
「ほう、何か言っておりましたかな?」
宰相さんよ、表情はにこやかな感じだが、目が笑ってないな。
「余り慕われてないようなんだぜ」
おー、キョウのおっちゃん、兵に恨みでもあるのか? そんなことを言ってしまっては後で兵隊の皆さんが叱責されるんじゃね?
「ええ、知っていますとも。私は、流れ者で成り上がりですから、どうしても上手くいかないのですよ」
その言葉にコウさんがシシシと笑っている。
「これでも仲良くなろうと色々としているんですがね」
上の立場の苦労ってヤツかな。
「夜勤の者には差し入れをしたり、しっかりと休暇を与えたり、どれも空回りですよ」
まぁ、相手が喜ぶことをしないと、それは仕方ないよね。
「こちらからは歩み寄りたいのですが、向こうが壁を作っているので苦労しているのですよ」
ふむ。
「それは同情するんだぜ」
「それでも、この国を良くするための苦労ですからね、苦労のうちに入らないですよ」
入るのか、入らないのか、どっちなんだよ!
うーん、宰相は空回りしているけど、意外と苦労しているぽい感じなのかなぁ。成り上がりって自分で言っているし、国としての動かし方が分からなくて上手くいってないだけなのかな。まぁ、これからに期待って感じかな。