4-20 のじゃー
―1―
さてさて買い物買い物。
「マスター、もういいと思われるのです」
何故かドヤ顔の14型。あ、はい。14型さん、すいません、話を切り上げろってコトですか?
「ふむ、一緒に買い物なのじゃー」
はいはい、そうだね。まずは矢が欲しいかなぁ。矢を物色する。
『店主、矢が欲しいのだが』
俺は店主に天啓を飛ばしてみる。
「おいおい、変わった魔獣かと思ったら、あんた喋れるのか?」
喋るというか、天啓を授けているんですけどね!
「あんた何処から来たんだい?」
何処? うーん、俺ってば何処から来たことになるんだろうか?
『ナハン大森林の世界樹から、だ』
俺の天啓に店主がうんうんと頷いている。
「ほー、そうかそうか。あっちの方にはあんたみたいな種族もいるんだなぁ」
いや、いないと思います。あー、でもここだと、種族扱いされるのか。俺みたいなのでもすぐに受け入れられるとか懐、広いなぁ。
「ここは交易が盛んだからな。色々な種族の人が来るのよ。だから、ナハンにあんたらみたいな種族が居るって聞いても驚かないのよ」
ほー。まあ、俺みたい種族はいませんけどね。
「そうなのか? おー、ランのような変わった魔獣がいるなら大森林にも行ってみたいのじゃー」
姫さまが興奮しておられる。どうしたのじゃー。ふんふん言ってるね。
「わらわは色々な種族、色々な存在と仲良くなりたいのじゃ」
へー、神国って排他的なんでしょ。そこで育った姫さまが、そんな考えだと苦労しそうだなぁ。っと、買い物、買い物。
店主が並んでいる矢を説明してくれる。
「これは潮の矢、水の属性を僅かにもった矢だよ。水の魔法を付与した矢には劣るけどよ、値段が手頃なのが売りよ。ただ、ここだと水属性の魔獣が多いから、お土産代わりに置いてるような代物よ」
あー、予想していたけど、やはり水属性の魔獣が多いのか。
「ちなみに値段は1本、10,240円(銀貨2枚)よ。在庫は6本ほどあるよ」
確かに属性矢よりは安いな。けどさ、水属性の魔獣が多い場所で使うかって言われると、うーん。これは要らないかなぁ。
「次に腐食の矢よ。金の属性を僅かに持ち腐食効果もある便利な矢だよ。こっちは1本、40,960円(小金貨1枚)よ。現在、在庫は3本しか無いけどよ」
ふむ。見た感じただの錆びた矢だよなぁ。これ、属性矢だったのか。これは買い、かな。3本全部買いだ! 14型さん、お願いします。
「最後が硬木の矢よ。この付近の海の中に生えている硬木から作られた矢よ。これは1本2,560円(銅貨4枚)よ。今の在庫は30本だな」
うお、鉄の矢より高いのか。ちょっと、触ってみてもいいですか?
持ってみるとずしりと重い。叩いてみるとカツンと硬い音が聞こえる。中がぎっしり詰まっている感じだなぁ。結構、飛距離が出そうな矢だね。よし、これも持てるだけ、全部買いで。14型さん、お金足りますかね?
『後は――槍のような獲物もあれば見たいのだが』
弓はコンポジットボウと今回も使えそうにない水天一碧の弓があるから充分だしね。獲物が真紅だけなのは、ねぇ。いや、真紅が悪いってワケじゃないよ、真紅は最高だよ。
「槍ねぇ。おお、そうだ、コレだよ。潮の長銛」
槍としても使えそうな長い銛だな。でもさ、潮ってことは水属性でしょ? やっぱり使えないんじゃないのか?
「一応、属性付与が出来るからよ、上書きすれば、まぁ」
な、なるほど。現状、俺は氷、風、金の属性付与が出来るから何とかなるかな。ちなみにお幾らで?
「81,920円(小金貨2枚)よ」
お、意外とお安い。価格的に見ても性能はホワイトさんのホワイトランスよりは下って感じか。汎用品ぽい造りだしなぁ。まぁ、現状、他に武器もないし、これも買いかな。ふむ、お金は足りるかな。
えーっと腐食の矢3本、硬木の矢28本、潮の長銛、全部で276,480円(小金貨6枚、銀貨6枚)か。痛い出費だなぁ。
14型がお金を渡し、商品を受け取る。それをのじゃー姫が興味深そうに見ていた。それらは、そのまま14型に持って貰おうかな。とりあえず真紅以外は14型さんから受け取る形式で。
と、うん? 俺は並んでいる商品の一つに目を留めた。
『これは?』
「お土産代わりに置いている貝殻のブローチだよ。同じ物が存在しないのがウリだね」
ほうほう。
『これも貰おうか』
「まいど」
さてと。
『これを』
俺は姫さまに購入した貝殻のブローチを渡す。
「なんなんのじゃー」
『友情の記念にプレゼントだよ』
のじゃー姫が貝殻のブローチを翳してクルクルと回りながら「おおうおうおう」と呟いている。
「わ、わらわも買うのじゃー」
姫さまも同じように貝殻のブローチを買う。そして、それを俺に。
「ランも持つのじゃ。プレゼント交換なのじゃー。交換ならいいのじゃー」
サイドアーム・ナラカでブローチを受け取る。はいはい、そうだね。
「ブローチが浮いているのじゃー。これもランの力か? 凄いのじゃー」
俺はそのまま受け取った貝殻のブローチを夜のクロークに結びつける。
「友情の記念なのじゃー。大切にするのじゃー」
そうだね。
―2―
ところで店主さん、冒険者ギルドの場所を知りませんか?
「ああ、冒険者ギルドか。それなら、隣の船よ」
へぇ、隣なのか。それって、今日の夜までに行って帰ってくることが出来ますかね。
「おうおう、隣くらいなら近いもんよ。夜までには戻ってくることも出来るだろうよ」
店主に冒険者ギルドの場所を確認し、店を出る。さあて、冒険者ギルドに出発だ。お、のじゃー姫もついてくるんだね。ならば、一緒に参ろうぞ!
店を出てしばらく歩いていると突然、のじゃー姫の足が止まった。
「しまったのじゃー」
ん? どうしたの?
「姫!」
「姫さんよー!」
前方から騎士姿の二人が走ってくる。
「見つかってしまったのじゃー」
ああ、そう言えば護衛を巻いたって言ってたもんな。
のじゃー姫が素早く俺の後ろに隠れる。
「な、魔獣?」
「おいおい、アレ、多分、姫さんご執心の魔獣だと思うぜ」
二人の騎士が普通にこちらへと近寄ってくる。あー、コレ、俺はどうすればいいんだ?
「さ、帰りますよ」
「姫さん、あんまり無茶なことはしないでくれよ」
二人の騎士が俺の後ろにいる姫さんを引っ張り出す。えーっと、俺はどうリアクションすれば。
「むぅ、引っ張らずともよい。自分で動けるのじゃー」
のじゃー姫が二人の騎士に引っ張られた場所をはたきながら俺の前に。そのまま、こちらへ向き直る。
「ランよ、今回は余り時間が取れなかったのじゃ。次はもっと色々と遊ぶのじゃー。では、またなのじゃー」
『ああ、またな』
俺は自身の小っこい手を振って応える。
「話のわかる魔獣で助かる」
「姫さん、もう次はないですからね」
二人の騎士と共にのじゃー姫は去って行った。うーむ、再会することって、あるのかな。ま、まぁ、俺の初の友人? だからな、出会いを大切にしないとね。
さあ、次は冒険者ギルドだな。そしてお楽しみなお食事会。その後は、眼帯猫人族の討伐か。忙しい日程だけど武器を確保できたのは幸いだったよね。
10月9日修正
潮の槍 → 潮の長銛
再開 → 再会