2-20 戦慄
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本日もクエストを受けて森の巨大蜘蛛退治にお出掛けです。
森を進んでいくと木々に蜘蛛の巣が増えてくる。進めば進むほど蜘蛛の巣のサイズが大きくなってくる。
視界にジャイアントスパイダーと表記された線が延びている。さあ、狩りの開始です。
魔法糸を当て、落ちてきた巨大蜘蛛をスパイラルチャージで貫く。はい、一匹目終了っと。魔石と巨大蜘蛛の糸を取り出す。流れ作業です、流れ作業。
にしても、こんなにも里に近くて、こんなにも楽勝で、こんなにも美味しい狩り場が何で放置なのでしょう。他の冒険者の姿は見えません。と、二匹目も発見。同じように流れ作業でジャイアントスパイダーを倒す。
美味しすぎる。明日もここで狩ろう。ある程度のレベルに上がるまではここでお金と経験値、MSPを稼ぐのが良さそうです。そうしたら『弓士』のクラスを得て世界樹攻略かな。
と、その時、蜘蛛の巣だらけの森の奥に『魔獣』という線が見えた。へ? ジャイアントスパイダーじゃないの? おかしい……。そうだ、こういう時こその鑑定ッ!
【名前:戦慄の女王】
【種族:レッドアイ(ジャイアントスパイダー亜種)】
へ? は、は、ははは。ま、まさかッ! 名前付きッ!
森の奥に八つの赤い火が灯る。相手を鑑定したことで気付かれてしまったのか、赤い火がこちらへと近づいてくる。
現れたのは超巨大な蜘蛛だった。フォレストジャイアントも大きかったが、それと比較しても劣らないくらいに大きい。今までジャイアントスパイダーと呼んでいた物が子蜘蛛にしか見えない。
鋼鉄で出来ているかのように黒光りする足が木々を削り、打ち倒しながらこちらへ近づいてくる。足一本が俺と同じくらいのサイズがありやがる。……無理だ。に、逃げるんだよー。
俺は駆け出す。それを追うようにレッドアイも速度を上げてくる。巨大なのに凄まじく速い。レッドアイは足を屈伸させ空に飛び上がる。そして俺の目の前に着地する。逃げられない……覚悟を決めるしか無い。
レッドアイはこちらを押さえつけようと鋼鉄の足を振り下ろしてくる。後ろに後退し、避ける。敏捷補正を上げた成果か身体が軽い。が、それを上回る速度で左右の足を交互に振り下ろしてくる。か、回避しきれない!
俺は手に持った鉄の槍で足を打ち払う。そのまま後ろに魔法糸を飛ばし距離を取ろうとする。魔法糸に引っ張られ後退する途中、魔法糸が切断される。レッドアイが複数の風の刃を生み出し、魔法糸を切断していた。更に残った刃がこちらの身体を削っていく。中途半端に後ろに引っ張られ後ろに転がっていく。
体勢を立て直す前に目の前に迫る鋼鉄の足。回避しきれない! 身体に鋼鉄の前足が刺さる。ぐおぉ、痛い、痛い。
レッドアイはそのままこちらを齧り付こうと巨大な牙を持った顔を近づけてくる。このまま喰われるわけにはいかない! 身体をねじり、レッドアイの足から逃れる。身体が裂け、身が千切れる。
俺はそのまま魔法糸を伸ばし、木の上に逃れようとする。魔法糸は、先程と同じようにレッドアイの生み出した風の刃に切断される。俺はそのまま地面に投げ出される。が、それでもある程度の距離を取ることには成功した。
自分の身体を見る。先程、削られたお腹の傷は消えていた。まだSPが残っているからか……? にしてもやばいぞ。倒す方法が浮かばない。どうする? 今までの必勝パターンの魔法糸は風の刃で無効化されるし……。
考えている間にレッドアイは目の前に迫っていた。高速で交互に繰り出される鋼鉄の前足。右、左、右、駄目だ、こちらの回避速度よりも相手の攻撃速度の方が速い。槍で前足を打ち払う。
【《払い突き》が開花しました】
――《払い突き》――
システムメッセージと共に槍が相手の足を打ち払い、一回転、素早い突きがレッドアイの顔面に突き刺さる。初ダメージッ!! レッドアイは懐に入られたのを嫌がったのか後ろに飛び退く。
ここに来てスキルが開花したのは嬉しいけど、これだけでは勝てる気がしない。……そうだッ!
俺は地面を見る。いけるッ!
レッドアイがゆっくりとこちらへと迫ってくる。もう少し、もう少し……良しッ!
――《浮遊》――
レッドアイの前足の下にある石を浮かび上がらせる。レッドアイが体勢を崩す。良し、上手くいったッ! そのままレッドアイまで駆け、
――《スパイラルチャージ》――
必殺の一撃を顔面にたたき込むッ!!
レッドアイの目の一つが潰れ、粘液が吹き出る。
そのまま、もう一撃加えようとした瞬間、左右から鋼鉄の足が挟み込むように迫ってくる。俺は槍を地面に突き立て、棒高跳びのように後ろに飛ぶ。ふぅ、危ない、危ない。欲張って押し潰されるところだった。
レッドアイは目を一個潰されたことで怒り狂っている。ちっ、まだまだ元気なようだ。
レッドアイが風の刃を浮かべ、こちらに飛ばしてくる。……くそ、ならばッ!
――[アイスボール]――
氷の塊を浮かべ、飛ばし、風の刃を打ち消していく。良し、なんとかなるッ! そのまま氷の塊をレッドアイにぶつけてみる。氷の塊は固い甲殻に弾かれる。ダメージを与えている感じは無いが、嫌がっているようだ。注意をそらすくらいには使えるか!?
風の刃で攻撃する無駄を悟ったのか、先程までと同じように前足を振り上げて攻撃してくる。くそ、まだ払い突きは使用出来ない。憶えたてだからか使用可能までの時間が長い。
右、左、右、身体を動かし回避する。が、やはり相手の攻撃速度の方が速い。このままでは……。ヤツの足をなんとかしないとッ!
追い詰められたからか、俺の中にあるイメージが浮かぶ。足を、そうだ、足をッ!
【[アクアポンド]の魔法が発現しました】
――[アクアポンド]――
システムメッセージと共に新しい魔法が発動。レッドアイの振り下ろした足下にちっちゃな水たまりが出来る。水たまりで池とは、此れ如何に。水たまりに足を取られ、レッドアイは体勢を崩す。よし、狙いどおりッ!!
俺は槍をヤツの体の下に差し入れ、てこの原理で持ち上げる。どっせい。
レッドアイがひっくり返る。
魔法糸を木に飛ばし、空中へ。
そのまま落下し、槍技を発動する。
――《スパイラルチャージ》――
槍がうなりを上げ、ヤツの柔らかいお腹を削る。そのまま、何度も何度も槍を突き刺す。レッドアイが体を揺らす。ヤツは腹部から糸を出し木の枝にくっつけ飛び上がり、体勢を立て直す。腹部にのっていた俺は吹き飛ばされる。はぁはぁはぁ、結構、ダメージを与えたはずだ。
レッドアイは先程と同じようにまた鋼鉄の前足を交互に振りかざして攻撃してくる。ワンパターンなんだよッ!
――《払い突き》――
足を打ち払い、ヤツの顔面に強烈な一撃ッ! もう一つの目を潰す。ヤツは金属音のような悲鳴を上げ、顔を振る。も、もう一撃だッ!
槍を突き刺すッ! ……が、槍がヤツの口によって噛み止められる。
そして、そのまま槍が噛み砕かれる。目の前で砕け散る槍。迫る巨大な牙。俺はレッドアイに噛みつかれる。巨大な牙が体を貫く。がああぁぁッ! 死ぬ、死ぬ、このままでは死んでしまう。
俺はショルダーバッグから鉄のナイフを取り出し、巨大な牙に突き立てる。鉄のナイフが弾かれる。構うものか、何度も何度も打ち付ける。体の中に何かが侵入してくる感覚。消化液を注入されてる!? 牙の強度に負け、鉄のナイフが砕け散る。それでも構わず何度も何度もナイフだったものを打ち付ける。やがて牙にヒビが入る。
俺は力任せにヤツの牙をへし折る。
――[アイスボール]――
俺はヤツの口内に氷の塊をぶつけ続ける。外は無理でも中なら効くだろうがッ! そのまま魔法糸を伸ばしヤツの口内から脱出する。はぁはぁはぁ。
くそ、武器が無い。いや、まだだ。俺はへし折ったヤツの牙に魔法糸をくっつけ取り寄せる。うん、手に持てる。武器として使える!
俺の攻撃から回復したレッドアイがまたも前足を交互に振りかざして攻撃してくる。もう、その攻撃は飽きたんだよッ!
手に持った牙で前足を打ち払う。打ち払う度にヤツの前足にヒビが入る。そして、ついにヤツの右足が砕け散った。
これで終わりだッ!!! 俺は手に持った牙ごと突っ込む。
――《スパイラルチャージ》――
ヤツの顔面に牙が突き刺さる。螺旋の軌道がヤツの顔を削っていく。
そして、ヤツは動きを止めた。
2月21日修正
腹部から糸を出し → ヤツは腹部から糸を出し
サブタイトル
名前 → 戦慄
3月19日修正
――<払い付き>―― → ――<払い突き>――
5月13日
誤字修正