4-18 宰相会談
―1―
蜥蜴人が戻ってくるのを門の外で待つ。おや、ジョアンがなんだかぼーっとしているな。大丈夫かね、体調不良かい? ここってさ、結構むしむしと暑いからね、気をつけないとね。
『ジョアン、どうした?』
ジョアンに天啓を飛ばしてみる。パーティメンバーの体調も把握して管理しないとね!
「な、なんでもない!」
ジョアンはほっぺをぺしんぺしんと叩いている。何々、なんで急に気合いを入れ始めたの?
しばらく待っていると蜥蜴人のコウさんが戻ってきた。
「宰相の旦那は、あんたらと会うってヨ」
当然だよね。ホーシアって帝国から見たら属国的な扱いなんでしょ? その上にある帝国の帝からの証を見せて無視なんて――そうなったらキョウのおっちゃんの立場がないよね。
「当然なんだぜ」
そうそう、キョウのおっちゃんもそう思うよね。
「はいはい、ついてきて欲しいヨ」
コウさんが舌をチロチロと覗かせながら歩いて行く。そのまま門を開け、こちらに呼びかける。
「こっちヨ」
はいはい、俺らも行きますか。
柵を越え、門の先、建物の中へ。建物の中には通路を挟むように鎧姿の人たちがいた。うお、兵士とか衛兵の姿が見えないと思ったら中にいるのかよ。びっくりしたなぁ、もう。
コウさんは兵士の並んでいる通路を悠々と進んでいく。何々、この人って門番じゃないの?
「で、あんたらは魔石を売りに来た……ってワケじゃないんだヨね」
何々、宰相は魔石の買い取りをしているのか?
「どういうことなんだぜ?」
「言葉通りヨ。宰相の旦那は今、魔石集めに夢中なのヨ」
へぇ、そうなんだ。
建物の中はそれほど長い通路にはなっておらず、すぐに艦橋の中を上がる階段が現れた。ほー、じゃあ、ここを上がっていきますか。
「ところで、あんたはさっきから静かだけど、喋れる魔獣だヨな?」
俺は右を見て、左を見て、コウさんを見る。うん、俺の事?
「あら、違ったか?」
違わないけどさ。でもさ、俺から話すことは特にないしなぁ。
「いやぁ、それにしてもあんたは、なかなか強そうな魔獣だヨ。中の魔石はさぞ……」
そこで14型がコウさんを強く睨む。うお、眼光で人が殺せそうだ。
「おお、怖い、怖いヨ」
―2―
艦橋を上がり、大きな部屋に。えーっとここって、アレだ、艦長室とか司令室って感じだよね。
その司令室の奥、大きく豪華な椅子に一人の男がふんぞり返っていた。アレって玉座じゃないか?
「その人たちが帝国の使いかね」
大層高そうな服に包まった小さなおっさんがチョビ髭をいじりながらそんなことを言っている。って、おいおい、まさか、このおっさんが今の宰相? どっちかというと道化師の方が向いているんじゃない?
チョビ髭がぴょんと席を立ち、こちらへ歩いてくる。そのまま、ジロジロとこちらを舐めるように見てくる。うへぇ、気持ち悪い。この人が前王のお気に入りだったの? 前宰相のお爺ちゃんの方が俺的には好感度高いなぁ。
「で、コウ・コウよ。何故、お前が案内をしている?」
ん?
「何やら俺の好きな、面白そうな匂いがしたからヨ」
コウさんが舌をチロチロと出している。
「コウ・コウよ、お前の仕事を思い出して欲しいものだ」
チョビ髭のおっさんがため息を吐いている。最近、ため息がブームだね。
「旦那も俺の得意技は知ってるはずヨ。なら俺が好きにやっても大丈夫だってのは分かるヨね」
「ああ、そうだな! だが、余り動きすぎるな」
「分かってる、分かってるヨ。じゃ、後は宰相の旦那に任せるヨ」
そう言って、コウさんは艦橋を降りていった。
「さっきの蜥蜴人は何者なんだぜ?」
そうだよね、てっきりただの門番か使いっ走りかと思ったけどさ、その割には態度が大きすぎるような……。
「あんたらには関係な……ああ、そうだな。アレはただの用心棒よ」
用心棒! ボディーガード的な存在なのか。まぁ、確かにボディーガードが要人を無視して門の前で門番の真似事をしていたら問題か。
「これを見て欲しいんだぜ」
そう言ってキョウのおっちゃんは先程も取りだしていた竜の紋章をチョビ髭のおっさんに見せる。
「ああ、なるほど。ゼンラ帝の」
「分かって貰えて嬉しいんだぜ」
これはアレだよ、印籠とか、そういう感じだよね。そう言えば、この竜の紋章って、何処かで見た覚えがあるんだよなぁ。どこだったかな。
「しかしですよ、幾らゼンラ帝のご威光とはいえ、このホーシアは他国ですからなぁ。話は聞きますが、あなた方の意向には添えないかもしれませんよ」
へ? いやでも、ここって帝国の領国って扱いなんでしょ?
「それは本気で言ってるのか……なんだぜ」
「いえいえ、私どもも今は帝国に逆らうつもりはありませんよ、ああ、そう今もありませんとも」
何だ、何だ? 結構、帝国って嫌われている感じなのか?
「まあいいんだぜ。俺たちの要望は一つ、『空舞う聖院』に入れるようにして欲しいってことなんだぜ」
そうだよ。それだけだよ。
「ふむ」
チョビ髭のおっさんが短い腕を組み考えるそぶりをする。考えるまでも無いことだと思うんだけどなぁ。
「あんたは『空舞う聖院』を起動することが出来る候補者の後見人と聞いているんだぜ」
「ええ、ええ、そうですとも。彼なら『空舞う聖院』を起動することが出来るでしょう」
だよね。
「なら!」
そこでチョビ髭のおっさんが自身のチョビ髭をなでる。
「それがですなぁ、今、彼は体調を崩しておりまして無理が出来ぬのですよ」
むむ。
「わかった。それならもう一人の候補者の方に行くんだぜ!」
キョウのおっちゃんが話を打ち切るように言葉を叩き付ける。
「いやぁ、それも難しいでしょうな」
ぬ?
「もう一人の候補者の少女ですが、今は賊に囚われておりましてな。私たちは先程のコウ・コウと共に救出する作戦を練っていたところなのですよ」
そうなの?
「あんたは、現状、この国のトップだと思うんだぜ。それが、そんな悠長でいいとは思えないんだぜ」
そうだよ。
「ふむふむ。私どもも頑張っているのですよ。ただ、賊の中に手練れが一人おりましてなぁ。眼帯を付けた猫人族の女なのですが、かなりの使い手で苦労しているのですよ」
猫人族ねぇ。そういえば、ここもキャラの港も猫人族は多かったけどさ、何だか立場は低いように見えたな。
「そいつをどうにかすれば……」
「おお、手伝っていただけますか!」
チョビ髭のおっさんがごまをするように手をこすっている。調子いいなぁ。
キョウのおっちゃんが俺を見る。はいはい、了承だよ。そうしないと話が進みそうにないしね。
「分かったんだぜ」
「おお、助かります。では、先程のコウ・コウも付けますので、よろしくお願いします。コウ・コウは、自慢になりますが、かなりの使い手です。必ず、あなた方の力になりますよ」
うーん、結構、流されて決まった感じがするなぁ。俺としてはゆっくり休みたいし、買い物に行きたいんだけどなぁ。
これは、今日、今からすぐに向かう感じなんでしょうか?