4-17 お姫さま
―1―
さーって、次は今の宰相さんのお家訪問ですね。
キョウのおっちゃんはどんどん進んでいく。えーっと、ここってさ、キョウのおっちゃんも初めての土地だよね。何で、そんな自信満々に進めるのだ? 道に迷いそうとか考えないの?
「うん、旦那どうしたんだぜ」
いやね、よく行き先が簡単にわかるな、と。
「ああ、目立つ目印があるから、そこを目指しているんだぜ」
そう言ってキョウのおっちゃんが指をさした先には大きな塔が……って、アレ、艦橋じゃないか? 戦艦とかにある巨大な艦橋だよね。え? 宰相の家に行くんじゃないの?
「ん? 行くのは王宮なんだぜ」
へ? アレが王宮なのか? いや、どう見ても艦橋だよね。
ま、行く場所が分かりやすいのはいいやね。
皆で艦橋を――いや、王宮か、を目指して歩いて行く。
途中、武器屋を見つける。お、矢が並んでるじゃん。帝都は矢の取り扱いが殆どなかったからなぁ。今、ちょうど矢を切らしているし買っておきたいなぁ。
海に囲まれた国だからか銛なんてモノも並んでいるな。お、変わった色の金属性の矢が並んでいる。何だろう、錆びた矢? って感じだね。
「旦那ー」
俺が武器屋にて並んでいる武器を物色していると前を進んでいたキョウのおっちゃんから声が掛かった。
「早くして欲しいんだぜ」
いや、その、そんなジロジロ見てなかったよ。どんなのがあるかなーって思っただけだよ。いや、というかだね、王宮に行くのはキョウのおっちゃんだけでいいんじゃね? 俺も行く必要ってあるのかなぁ。
ジョアンがじーっとこちらを見ている。な、何かね。ジョアンも武器や防具に興味があるよね。新しい地だと強い武器や防具が売ってそうだもんね。帝都が意外と期待外れだったからなぁ。いや、でもさ、東側を本格的に見ていないから、いい物あるかも。うーむ、今度、覗いてみよう。
―2―
しばらく歩いて王宮へ。さすがに幾ら巨大とは言っても、所詮船だからね、そんな時間は掛からないね。
王宮だからか、艦橋のような建物の前には大きな鉄の柵が作られている。そして、その前には一人の門番が居た。うん? あれ?
トカゲ?
鎧を着込んだ2本足で立っているトカゲがいるぞ。いや、どう見てもトカゲだよな? もしかしてリザードマンか? いや、でも何だろう、肌がゴツゴツとして岩みたいな感じだな。
「ちょっと待つてヨ」
リザードマン? がこちらに話しかけてくる。えーっと、おいらは無害な魔獣ですよ。
「あんたら、何者ヨ」
いやあ、ここってば、リザードマンもいる世界なんだなぁ。そうだ、折角だから鑑定しておこう。
【名前:コウ・コウ】
【種族:蜥蜴人】
おや、蜥蜴人族とかじゃないんだね。コウさんか、この王宮の門番さんなのかね。
「宰相に会いに来たんだぜ」
キョウのおっちゃんの言葉にコウさんが舌を出す。しゅーしゅーって感じだね。にしても爬虫類系だと表情が読めないなぁ。
「許可がいるヨ」
許可ねぇ。何処で貰えばいいんだろうね。6番レジへどうぞ、みたいな感じですか。
「帝都から来たんだぜ。取り次いで欲しいんだぜ」
コウさんは相変わらず舌を出したり、引っ込めたりしている。
「ほー、で、何かあるのかヨ」
何か、って何が?
キョウのおっちゃんが大きなため息を吐く。最近、ため息ばかり聞いてる気がするなぁ。
「わかったんだぜ」
キョウのおっちゃんが懐から何やら円盤のような物を取り出す。竜の描かれた紋章? かな。
「ゼンラ帝の使いを示す証なんだぜ。これを見せたからには通して貰うんだぜ」
うお、ちょっと、ちょっと、そんなモノを持っていたのか?
キョウのおっちゃんが見せた証を見て、コウさんが腕を組み首を傾ける。悩んでいるのかな?
「俺には、それが本物かわからねえヨ。ちょっと宰相の旦那に確認したいけどヨ、今はお客様が来ているから無理なんだヨ」
あれー? 結局、通して貰えないのかよ。
キョウのおっちゃんが腕を組み、腕の上の指を小刻みに叩いていた。キョウのおっちゃんの態度を見て、コウさんも頭を掻いている。
「まぁ、まぁ、待って欲しいねヨ」
まぁ、お客さんが来ているなら仕方ないよね。でもさ、ここって王宮なんだよね。王宮なのに宰相さんが我が物顔で住んでいるのか? うーむ。
しばらく待っていると柵の向こうに見える門が開き、何処かで見たことのある一団が現れた。
「話にならんのじゃー」
おいおい、アレ、神国のお姫さんだよな? そういえば、この国に来ているってファットも言っていたな……。
「お、見るのじゃ、見るのじゃ」
お、向こうもこちらに気付いたみたいだな。
「芋虫魔獣がおるのじゃ。闘技場以外にもおるのじゃなー。一匹くらいはわらわが貰っても……」
「姫」
お姫さまの言葉を周りの騎士が止める。
「なんなんのじゃー」
「ここでの用件は終わりです」
騎士の言葉にお姫さまは口を尖らせる。
「姫さん、姫さん、次よ、次」
お姫さまの一団が俺たちの横を通り過ぎていく。何だろう、忙しそうな一団だなぁ。お客様って、神国のお姫さまたちだったのか。何の用で来たんだろうね。帝国に来ていた理由もよく分からないしさ。まさか、闘技場見学じゃないよね? 親善大使って話だったけど、何をしていたんだろうなぁ。
「宰相の客は帰ったみたいなんだぜ」
キョウのおっちゃん、早いな。
「わかった、わかったヨ。宰相の旦那に確認とってくるヨ」
コウさんが舌をチロチロと覗かせながら門の先、建物の中に消える。
はぁ、これでやっと宰相に会えるワケね。俺としてはそろそろ買い物に行くとか迷宮を探索するとか、冒険者ギルドでクエストを貰うとかしたいなぁ。
キョウのおっちゃんに難しい話を全部任せたら駄目かな?
10月6日修正
「あんたら、何者ヨ」を改行しました。