4-16 王位継承
―1―
「この国の王が隠れられたのは知ってるかね」
うん、隠れた? どっかに逃げちゃったのか?
「おいおい、帝都では、ホーシアの王が亡くなったなんて聞いてないんだぜ」
え? 死んだってコト? 隠れたって、そんな意味だったの?
「そうか、やはり伝わっておらぬか」
そうだよ。
「体調が悪くて寝込んでいたってのは伝わっていたんだぜ」
ほー、そうなのか。
「そこで話が止まっておるのか」
止まっておるのだ。
「体調を崩された王は後継者候補を探し、二人の候補者が集まった。しかし、そこで魔獣によってホーシアが封鎖されたのよ」
ふむ。候補者が集まったって、子どもが居なかったのかな? それとも血筋で継承していく訳じゃないのかな、どうなんでしょ。
「子どもはどうなったんだぜ?」
キョウのおっちゃんの言葉にお爺ちゃんは首を横に振る。
「王に子どもはいない」
居なかったのか。うん? でもキョウのおっちゃんの聞き方がおかしいな? 後で確認してみようかな。
「で、後継者候補ってことか、予想外なんだぜ」
キョウのおっちゃんの思惑が外れたのかな。何か焦ってるぽかったもんなぁ、もしかして、王様の体調が悪いことを知っていたから焦っていたのかな。
「候補者の一人は、この国の将軍だった者の孫娘だ」
ふむ。将軍自身ではなく、孫娘なのか。子どもではなく、孫、しかも女の子――この国は女王とか『有り』な国なんだな。
「もう一人が、今の宰相が連れてきた男よ」
うん? ここで今の宰相が出てくるのか。
「今、宰相をしている男はな、王が体調を崩される前から、姑息な手段で取り入り我が物顔で権力を振るっていたのよ」
おうおう典型的な悪者って感じがしてきたぞ。
「そして王が隠れられると、わしを宰相の地位から引きずり下ろし、自身が成り代わったのよ」
あー、この人、権力争いに負けたのか。
「……んだぜ」
キョウのおっちゃんが腕を組み考え込んでいる。口の中で言葉を飲み込んでいるのか、字幕に全て表示されないな。
つまりまとめると、王様の生前に小ずるい男がやって来て王に取り入った。その頃から王が体調を崩し始める。子どものいない王様は後継者候補を集めた。後継者候補は将軍の孫娘と小ずるい男の連れてきた男の二人。そして王様が亡くなった。王様が無くなった後、小ずるい男は宰相の地位を奪い、今に至るって感じかなぁ。
で、それを知って俺はどうすればいいんだ?
―2―
「すまないが、今の宰相の居場所が分かるなら教えて欲しいんだぜ」
キョウのおっちゃんの言葉にお爺ちゃんが冷たいため息を吐く。
「ウドゥン帝国は、そちらにつく、と」
キョウのおっちゃんは首を横に振る。
「俺は会ってみるだけなんだぜ」
キョウのおっちゃんの目的が読めないなぁ。八大迷宮の『空舞う聖院』を攻略するって話じゃないの? 何か攻略するためには手続きがいるから、こんな話になっているのかなぁ。
「ふむ、わかったよ。場所はそこに居る、うちの者に聞くといい」
「わかったんだぜ」
キョウのおっちゃんはそう言うと、部屋の隅に控えていた猫人族の女性の元へ。そのまますぐに場所の確認の話に入ったようだ。うーん、俺ってば蚊帳の外。まぁ、キョロキョロと部屋の中を見回しているジョアンも、俺の後ろで全く動かない14型も蚊帳の外なんだけどさ。
『ちょっとよろしいか?』
とりあえずお爺ちゃんに天啓を飛ばしてみる。
「ほっ、ほうほう。これはこれは」
うん、どったの?
「てっきり、威圧のために魔獣を連れてきたのかと思えば、星獣様でしたか」
そうなのだ、星獣様なのだ。って、この人には星獣様が通じるんだね。
「して、星獣様は、この老いぼれに何の用かね?」
おうさ。
『何故、将軍の孫娘が候補者なのだ? 将軍自身や将軍の子では駄目なのか?』
俺の天啓にお爺ちゃんがニヤリと笑う。む。
「ほうほう。気になりますかな」
なりますとも。
「まず、将軍、いや元将軍ですな――には継承権がないのですよ」
そうなのか。
「そして、将軍の子は、将軍が勘当した身、今更、家には戻れませぬ」
ふむふむ。
「それに将軍の子も王にはなれませぬ。候補者には血筋が大事なのですよ」
ううん? どういうこと? 元将軍の子の嫁が王家の人だったってこと?
「この国にある『空舞う聖院』が攻略済みだということはご存じかな?」
いえ、知りません。今初めて知りました。って、攻略済みだったのかよ! お、俺が全ての迷宮を攻略する野望が……そうか、そうか。
「王は、その攻略者の血筋なのですよ」
ふむふむ。
「王の血に連なる者だけが『空舞う聖院』を起動することが出来る。そして、それこそが王たる資格なのですよ」
ふむふむ……む? 起動する?
「候補者の二人は両方とも、起動することが出来ましたでな、だから、候補者なのですよ」
ふむぅ。結局、王は血筋で選ばれるってコトなのね。
『大体分かった。かたじけない』
俺の天啓にお爺ちゃんが微笑む。
「いえいえ、お力になれたのなら幸いです」
何だろう、俺に対して随分と柔らかい対応な気がする。
「しかし、この歳になって、また星獣様に会えるとは……嬉しいものです」
む? また? 他の星獣様っていうと、俺の頭の上に居る羽猫の親、神獣のファーさんか、それとも闘技場で戦った狼、フェンリルか。それとも俺の知らない星獣か。
「旦那、場所はわかったんだぜ。すぐに行くんだぜ」
えー、もう出発するの? ここで一泊させて貰うとか、ゆっくりしてもいい気がするんだけどなぁ。
「では、俺たちは行くんだぜ。元宰相殿、お邪魔したんだぜ」
そう言うとキョウのおっちゃんはずかずかと歩いて行く。ちょっと待ってくださいな。
『では、自分も行くとしよう。宰相殿、お話かたじけない、それでは!』
俺はお爺ちゃんに天啓を飛ばし、キョウのおっちゃんの後を追う。
さーって、次は今の宰相の家か。
10月5日誤字修正
四角 → 資格