4-13 その先は
―1―
「乗りな!」
俺のMPが切れそうなのを狙ったかのようにネウシス号が俺の前に。浮遊を切り、そのまま甲板へと転がる。ごろごろ。濡れた甲板に……、って?
あれ?
さっきまでの雨が止んでいる。もしかして、さっきのキングクラーケンが雨雲を起こしていたのか? 空を見る。
キングクラーケンが居た場所を中心に雨雲が霧散し、暖かな光が降り注いでくる。おお、晴れてきたね。それにいつの間にか渦も消えているな。アレだけいたスケルトンメイジや海の魔獣も綺麗さっぱり消えている。ふむ、ファットの言うとおりキングクラーケンが原因で合っていたのか。
甲板には突き刺さった真紅とジョアンが出迎えてくれていた。さらにハッチが開き、ファットとバンダナを巻いた猫人族がぞろぞろと現れる。
「ラン!」
ジョアンが盾を掲げて喜んでいる。おうさ。
「チャンプ、やったじゃんよ! って、おい」
ファットが声をかけてくる。って、うん?
「光ってるでやんす」
光ってる? 羽猫か?
「おい、チャンプ、何で光ってるよ」
え? 俺?
俺は自分の身体を見る。俺の体がぺかぺかと光り輝いていた。何だ、コレ?
あ、そう言えば、頭の上に居座っているこの子が、小っこい羽猫だったときにさ、ランクアップ前は光っていたよな? もしかして?
俺はすぐさまステータスプレート(銀)を見る。
【ランクアップです】
ランクアップ? レベルアップじゃないのか?
俺は不安に思いながらもステータスプレート(銀)を触る。
【エリートクロウラー】
【ヘルクロウラー】
うお、これは選べってコトか。2種類の進化先があるって感じなのか? にしてもヘルクロウラーねぇ、帝都の店で聞いた魔獣だよね。ホント、上位種って感じなのか。と、もう一つはエリートか。蜂や蟻の時もエリート系が居たよね。あれの芋虫版って感じなのか。ってことは芋虫の女王とかいるのか? いやあ、そこは蝶になってて欲しいなぁ。
うーん、にしてもエリートとヘルか……。今の俺がディアクロウラーっていう劣化種とはいえ特別な種族なのに、普通の魔獣の系統に進化するのか。何というか、色違いが進化すると色違いじゃなくなった的ながっかり感があるなぁ。
よし、決めた!
進化キャンセルだ。Bボタン連打だよッ! 俺は、このレアっぽいディアクロウラーを続けるぜ! で、キャンセルってどうやるんですかね?
―2―
しばらく待っていると二つの選択肢が消えた。そして、新しく表示されたのは……、
【レベルアップです】
という表示だった。ふむ、10レベルで進化って感じだったのかな。ま、もう終わってしまったコトだけどね。さ、ボーナスポイントを振り分けるか。
【ボーナスポイント8】
筋力補正:9 (2)
体力補正:6 (2)
敏捷補正:62(4)+8
器用補正:10(8)
精神補正:5 (0)
今回も普通に8か。10の区切りだと増えるかなぁ、なんてちょっと期待したんだけどね。
筋力補正:9 (2)
体力補正:6 (2)
敏捷補正:70(4)+8
器用補正:10(8)
精神補正:5 (0)
かな。ついに敏捷が70に。修正値込みなら82ですよ、82。なんというか、ここまで来ると余り素早くなった気がしないんだけどね。まぁ、補正って書かれているから、その言葉通り補正するだけで実際は根本的に素早くなっているワケじゃないのかな? それでも99までは頑張るけどね。
さてとレベルアップの振り分けも終わったし、帰ろうぜ。
「ランの光が収まった」
あ、ホントだ。ランクアップを止めたからかな。
「お前らも、船の中に戻りな。俺様たちのアジトに戻るんだよ!」
「あいあいさー」
ファットの叫びに他の猫人族が応える。さ、戻りますか。
俺は甲板に刺さっている真紅を回収し……うん? 真紅が刺さっていた場所が修復していく。この船って自己再生能力も持っているのか。形といい、機動性といい、凄い船だな。
バンダナの猫人族の一人が甲板で何やら作業をして、ハッチの中へと消える。お、甲板の上に落ちた烏賊の巨大な足をしっかりと船体に結びつけているな。戦利品だもんね。
さあ、凱旋だ。
―3―
ネウシス号の中ではキョウのおっちゃんが白目を剥いて転がっていた。あ、泡を吹いて死んでる。
「余りにもうるさかったので静かにして貰ったのです」
14型がそんなことを言っている。ちょ、お前、酷いなぁ。あー、でも乗り物酔いで苦しいままよりも気絶していた方が楽かも。そうだよ。
気絶したキョウのおっちゃんの元へジョアンが駆け寄る。意外と仲が良いのかな? ま、一緒に世界の壁を攻略した仲だしね。
ジョアンがキョウのおっちゃんを揺すっている。ちょ、ちょ、それはトドメになりかねないぞ。いやまぁ、心配しての行動なのは分かるが、勘弁してあげて。
穏やかな海をネウシス号が進んでいく。
そういえばさ、この船ってファットが一人で動かしているみたいだけどさ、どうやっているんだろう。
「なんだよ、チャンプ、俺様の船が気になるのかよ」
おうさ、気になるともさ!
「このネウシス号は、俺様しか操作出来ないのよ」
へー、そうなんだ。
俺はファットの元へ近寄り、操作方法を確認してみる。あの台座って世界樹や世界の壁にあったのと似ているよね。ちょっと触らせてくれよー。もしかしたら、俺も操作出来るかもしれないからさー。
「おいおい、止めろってばよ」
いいじゃん、減るもんじゃないしさー。
「だから、俺様しか操作出来ないんだよ」
うーん、そこまで言うなら仕方ないね。余り無理に頼んで機嫌を損ねちゃうのも良くないからね。
やがて見知った浜辺が見えてくる。アレ? 洞窟の方に行くんじゃないのか?
「一度、ここで宴会よ!」
ファットが叫ぶ。
その叫びに合わせて周囲の猫人族たちが飛び跳ねる。
宴会かぁ。