4-12 芋虫蹴り
―1―
ネウシス号が渦を滑っていく。ま、まぁ、MPを回復させる時間を確保できたと思えばいいか。飛翔って結構消費MPが多いからなぁ。効果時間が短いから何とかなっているけどさ、油断したら一瞬でガス欠ですよ。
ああ、もっとMPがあればガンガン飛翔も使えて――そうだよ! スケルトンメイジの魔法もさ、そうなればウォーターミラーでバリバリ反射出来るのにさ。むうむうむう。ま、無い物ねだりをしても仕方ないか。
再配置されたのか、板きれに乗ったスケルトンメイジから火の玉が飛んでくる。またかよ! うざすぎるぜ!
鉄の矢を番え放つ。放つ、放つ、はな……って矢がない! うひー、鉄の矢を使い切ったか。また買いに行かないと――お金の消費がマッハですな!
銛を飛ばしていた猫人族の一人が火の玉に当たり、吹っ飛ばされる。そのまま渦巻く海の中へ。お、おい、大丈夫か?
海に落ちた猫人族が渦の中から顔を出す。そのまま繋がれたロープを伝い、こちらへ。うお、意外とアクティブ――いや、生きててくれて良かったって思うべきだな。
一人落ちて弾幕が薄くなったからか、それとも俺の攻撃が止まってしまったからか、飛んでくる火の玉の数が、どんどん増える。避けきれなくなったのか、他の猫人族も次々と魔法の火の玉を受け、吹き飛んでいく。俺は、ジョアンが前に立って盾を構え防いでくれているため、今のところ被弾はない。
飛ばされた猫人族も、何人かは、空中で回転し、綺麗に海へ着地していた。そのままウォータースキーのようにロープを持って滑る。無事で良かったと言うべきだな。
「お前ら無事か? 一旦、中に入れ!」
甲板に響くファットの叫び。
「おいらたちは一旦、船の中に戻るっすー」
ロープを伝い、甲板に戻ってきた猫人族たちがファットの言葉に従って船の中へと消えていく。うーん、全員が船の中に戻って大丈夫なのか? 今も次々と火の玉が飛んできている状態だし、やばくね?
『ファット聞こえるか? 自分はこのままスケルトンメイジを倒し続ける』
俺は天啓を飛ばす。そうだよね、しゃーない、俺は残ってスケルトンメイジを倒しときますか。って、矢が、矢が! 魔法の真銀の矢しか残ってないな。魔法で打ち落とせないかなぁ。
「チャンプー、この銛を使うでやんすー」
一人の猫人族から銛を託される。というか、この銛、沢山あるよね。何で、こんなにも沢山の銛があるんだ?
「ファットの兄貴は、この魔獣を倒すために準備してたんですよー」
「そうそう」
「チャンプたちが来なくても、俺たちだけで打倒する予定だったのだ」
あ、そうだったんだ。となると俺たちがファットのところへ行くのがもう少し遅かったら、入れ違いになって出会えなかった可能性もあるのか。
猫人族が全員、船の中へ。甲板に残ったのは俺とジョアンだけか。
―2―
銛をコンポジットボウに番え、放つ。
――[アイスウォール]――
氷の壁を張り火の玉を防ぐ。
――[アイスウォール]――
もう1枚張っとこ。銛を飛ばし、防ぐ。
「右だ!」
ファットの言葉を受けてハッチの縁に掴まる。
ネウシス号が大きく旋回する。うひぃ、体が流れる。
何度も、何度も、銛を飛ばしスケルトンメイジを吹き飛ばし、飛んでくる黒い塊を回避し、何度も繰り返し、やっとキングクラーケンの眼前に。
すぐに迫る3本の触手。それを見たジョアンが、ちらりとこちらを見、そして頷く。
「回避するぜ!」
甲板に響くファットの声。いや、ちょっと待った!
『待ってくれ。このまま突っ込んで欲しい』
天啓だから、届いているよね。
……。
一瞬の沈黙の後にファットからの返事があった。
「考えがあるんだな? 信じるぜ?」
ファットの声が甲板に響く。ああ、頼むぜ。
「行くぜー!」
ネウシス号がキングクラーケンの構えた触手へと突っ込む。そして振り下ろされる3本の触手。
『ジョアン、行けるな!』
俺の天啓にジョアンが頷く。
ジョアンが宝櫃の盾から剣を引き抜き、光を溜める。迫る触手。生まれた光の刃が触手を斬り払う。弾け飛ぶ、2本の触手。断ち切れなかった1本の触手が蠢く。1本、残ったか! それでもナイスだぜ!
最後の触手が迫る。1本くらいは俺が飛ばす!
来るッ!
――《ウェポンブレイク》――
真紅と触手が接触する。その瞬間、触手がのたうつ。
――[ウィンドウェポン]――
真紅を包み込むように風が渦巻く。喰らえッ!
――《百花繚乱》――
風を纏った高速の突きがのたうつ触手を貫いていく。触手が花の花弁となって散っていく。そのまま触手を削りきり、切断する。大きな触手が甲板へと落ちる。よっしゃ、切断成功ッ!
これで全ての触手はなくなったぜ。
―3―
ネウシス号が渦の中心、災禍の王の前に。感動の再会だな!
「出番でやんす」
「最後のありったけ!」
「そうそう」
船の中から銛を持った猫人族がぞろぞろと。そう、出番だな!
そこを狙うように黒い塊が飛んでくる。あー、触手がなくなってもコレがあったか!
「僕が!」
ジョアンが宝櫃の盾を構える。任せたぜ!
――《集中》――
ここで集中だ。真紅をサイドアーム・アマラに持ち直し、コンポジットボウを持つ。
コンポジットボウに魔法の真銀の矢を番える。
――《ウィンドウェポン》――
魔法の真銀の矢に風が渦巻いていく。
迫る黒い塊をジョアンが宝櫃の盾で押しとどめる。頑張れ、ジョアン。
宝櫃の盾が黒い塊を弾き逸らす。しかし、その勢いに負けジョアンも後ろへ飛ばされる。ジョアン、よくやったぜ。後は任せてくれ!
猫人族が次々と銛を放つ。キングクラーケンの体に次々と針が生まれていく。そして、これが俺のッ!
コンポジットボウから風を纏った魔法の真銀の矢が放たれる。いっけぇぇー!
魔法の真銀の矢がキングクラーケンの体を貫く。そして光となって消える。貫かれた体から皮を剥くように魔石が露わとなる。魔石か! デカいな。ああ、惜しいな、欲しいなぁ、けどッ!
チャンスは此処しかないッ! 俺は素早く真紅を使って体に結びつけていたロープを切る。そしてッ!
――《飛翔》――
真紅をサイドアーム・アマラに持たせたまま空へと舞い上がる。ああ、雨が体に痛いぜ!
そして、そこからのッ!
視界に赤い点が灯る。なッ!
目の前に迫る黒い塊。
俺はとっさに体を捻り、黒い塊を回避する。しかし、避けきれなかったのかサイドアーム・アマラを掠める。その衝撃に耐えきれなかったサイドアーム・アマラが消滅する。持たせていた真紅が落下する。な、なんだと!
俺は落ちていく真紅を見る。そんな、俺を窘めるように真紅から『心配するな』と聞こえた気がした。今は敵のことだけを考えろってことか! そうは言うが、俺の相棒なんだ、心配するなって方が無理だよ!
俺の見守っている中、真紅が落下する軌道を変え、ネウシス号の甲板に刺さる。ああ、良かった。
そこへ、再度、赤い点が灯る。次々と灯る赤い点。
このまま飛翔で回避するッ!
そして……、って、アレ。攻撃する手段がない! どうする、どうする?
その瞬間、俺の足が震えた気がした。足、うん? 足?
フェザーブーツ? これは、アレか! アレだな! この飛翔の勢いのまま貫けと、そういうことだな!
飛翔スキルを使い、高く、高く、さらに高く舞い上がる。
俺はキングクラーケンの魔石に狙いを定め、飛翔スキルの発動を切る。行くぞー!
高所からの落下の力を使った体当たりに近い芋虫キックを食らえぇぇッ!
俺のキックが魔石に当たり、そのまま打ち砕く。魔石を貫通し、キングクラーケンの体を抜ける。そのまま海面へ。
――《浮遊》――
俺は浮遊スキルを使い海面すれすれに浮かぶ。と、と、と、危ない、危ない。
【《格闘》スキルが発生しました。格闘の使用頻度が熟練度として反映します】
あー、格闘の基礎が発生したのか。でも、スキルは覚えられなかったか。格闘ぽいことをやっていれば、そのうち、技も覚えるのかなぁ。って、俺のこの体型で格闘なんてやる機会ないだろ……。
浮かんでいる俺へとネウシス号が近づいてくる。あー、早く回収お願いします。MPが本当にキツいんです。海に落ちる前にお願いします。