4-11 災禍の王
―1―
渦の中心には巨大な烏賊頭。渦の中心には――まだまだ距離があるな。
ネウシス号が渦の中を大きく廻るように滑り進んでいく。渦の中にも木の板に乗ったスケルトンメイジが見えるな。またかよ! 何でこんなにも骨がいるんだ。スケルトン系って経験値は貰えないし、雑魚な癖に数は多いし……もうね、もうね。
俺は素早くコンポジットボウに鉄の矢を番え放つ。スケルトンメイジの頭に鉄の矢が刺さり、そいつはその勢いのまま渦の中へと落ちていく。よっしゃ、一匹。って、また鉄の矢が回収出来ないじゃん!
俺が一匹目を倒したことに怒ったのか、他のスケルトンメイジから次々と火の魔法が飛んでくる。
――[アイスウォール]――
氷の壁を張り火の玉を防ぐ。ちゃんとネウシス号の甲板上に張ってるから、氷の壁が吹き飛んでいくようなこともないぜ。
「僕が!」
氷の壁で防ぎきれなかった火の玉をジョアンが大盾で防ぐ。
「左だぜ!」
甲板にファットの声が響く。ちょ、ここでかよ!
渦を滑り落ちる中、ネウシス号が大きく左に曲がる。あぶ、危ない! 俺は急ぎハッチの縁に掴まる。他の猫人族たちも次々と掴まる。と、ジョアンは? ジョアンは急な動きに対処しきれず甲板を滑りながらも、体に結び直したロープに掴まり、ゆっくりとこちらへと向かってきていた。ああ、何とかなりそうか?
左に動いたネウシス号の横を巨大烏賊が飛ばしてきたのか巨大な黒い塊が通り抜ける。なるほど、ファットはこれを避けようとしたのか。
ネウシス号は再度、渦の中を大きく廻りながら滑り落ちていく。目指すは渦の中心ッ!
―2―
巨大烏賊が飛ばす黒い塊を何度も回避しながら、やっと渦の中心へ。よっしゃ、ここから反撃が始まるぜー。と、その前に鑑定するかな。
【名前:災禍の王】
【種族:キングクラーケン(クラーケン上位種)】
うお、ここで名前付きかよ! いやまぁ、ちょっとは予想していたけどさ。
キングクラーケンがその大きな足を持ち上げる。1本の大きな触手にそれよりは短い2本の足。他は切り取られたのか短くなった足だった部分だけが見える。えーっと烏賊の足って8本だったか? この烏賊、3本しか残っていないね。
キングクラーケンが持ち上げた足を叩き付けてくる。
「右だ!」
甲板に響くファットの声。俺たちはすぐにハッチの縁に掴まる。
さらに烏賊足が迫る。
「もういっちょ、右!」
それに合わせてネウシス号が右へ滑り旋回する。うひぃぃ、体が流れる。
にしても、この船ってば、凄いな。船が横にスライド移動するとか、どうやってるんだ? 謎技術だ。
視界右端に赤い線が走る。へ?
「避けきれねぇ、何とか跳ね返せ!」
ファットの叫びが響く。お、おい、跳ね返せって、何をよ。
迫る巨大な触手。こいつか! どうする、どうする?
――《払い突き》――
巨大な触手を真紅が打ち払う。その勢いを利用し一回転、突きを放――とうとした俺の前にもう一つの触手が迫る。右端の赤い線は消えない。
俺は素早く真紅を縦にし、右から迫る新しい触手を防ぐ。
「ラン!」
ジョアンが叫ぶ。俺は真紅ごと触手に吹き飛ばされる。俺の体に結びつけたロープがどんどん伸び、耐えきれなくなったのか、そのまま千切れる。俺の体にガクンと衝撃が走る。ぐ、が。
意識が飛びそうになる衝撃を耐え、周囲を見る。うん、空を舞ってるな。あー、ネウシス号はあっちか。
――《魔法糸》――
ネウシス号へ魔法糸を飛ばす。そのまま魔法糸をたぐり船の甲板へと戻る。ふぅ、意識が飛んでいたらやばかったな。ま、今の俺にとってはこの程度、たいした問題じゃないけどね! うん、ないんだよ。にしてもさ、このロープ、脆すぎないか? それとも触手の攻撃が強すぎるのか?
「ラン、大丈夫か!」
ジョアンが叫ぶ。大丈夫だって。と、一応回復しておくか。
――[ヒールレイン]――
癒やしの雨を降らせる。普通の雨と混じって、どれが癒やしの雨かわかんないね。
―3―
ネウシス号がキングクラーケンの前に。それに合わせてバンダナの猫人族たちが弓に銛を番えていく。えーっと、海賊って職業だと弓に矢を番えるのではなく、銛を番えるのか。勉強になるなぁ。
次々と銛が放たれ、キングクラーケンに刺さっていく。と、俺も攻撃しないとな。
――《集中》――
目の前の烏賊に集中しろ!
――《チャージアロー》――
鉄の矢に光が集まる。手痛い一撃を食らわしてやるぜ。
鉄の矢に光を集めている俺の視界に赤い点が灯る。
キングクラーケンから黒い塊が飛んでくる。墨か? って、のんきに構えている場合か。ああ、でも、ここでチャージを解除するのは勿体ない気が……。
「僕が!」
ジョアンが宝櫃の盾を構えて俺の前に。ナイス、そのまま頼むぜ。
ジョアンが宝櫃の盾を使い、飛んでくる黒い塊を防いでいく。
鉄の矢が大きな光の矢と化す。よっし!
『ジョアン!』
俺の天啓にジョアンが横へ避ける。
今だ!
光り輝く矢がキングクラーケンへ。そのまま烏賊の右目を貫く。キングクラーケンの体が大きくのけぞる。それに合わせて攻撃が止む。これで終わりじゃないぜ!
――《飛翔》――
真紅を手に、空へと舞い上がる。からのッ!
――《飛翔撃》――
そのまま真紅と共に煌めく三角錐となってキングクラーケンへ。喰らえッ!
真紅がキングクラーケンの体を外皮を削っていく。抉り、貫く。そのまま、その反動を利用し後方へ飛び、ネウシス号へ着地する。結構、ダメージを与えたんじゃないか?
「大きいのが来るぜ! 掴まれ!」
甲板にファットの声が響く。皆が一斉にハッチの縁に捕まる。そのままネウシス号が渦を高速で逆走していく。
逃げる俺たちを追い立てるようにキングクラーケンが、その残った足を激しく海面に叩き付ける。何度も何度も。その衝撃を受けるように海面が騒ぐ。
海面が震え、大きな波が巻き起こる。やばいやばい、逃げろ逃げろ。ファットさん、大至急で頼みますよー。
ネウシス号を追うように大きな波が迫る。
「大きく動くぜ。気合い入れて掴まれよっ!」
ファットの叫び。それに合わせるようにネウシス号が大きく旋回する。波を舐めるようにネウシス号が動く。回転し、そのまま波のトンネルを抜ける。うへう、目が回る。ジェットコースターに乗ってる気分だよ。
波が収まり、雨の中、ネウシス号が止まる。
渦は止まっていない。
キングクラーケンとの距離は……はぁ、振り出しに戻ったか。また渦を下ってキングクラーケンの元へ行かないと駄目なのか。