4-8 ネウシス
―1―
もしゃもしゃ。
「船を出して欲しいんだぜ」
そうそう、キョウのおっちゃん、それだよね。
「それか!」
ファットが口にくわえた蟹肉を飛ばしながら叫ぶ。それだ!
「って、うお。何で、こんなところに芋虫の魔獣が!」
今更かよ。
ファットが俺を二度見し、少し考え喋る。
「お前ー、チャンプだな!」
またそれか!
「姫さんから聞いたからな! 俺様は知ってるぜー」
って、また、お姫さまか! 何だろう、俺の噂を広めているのか?
「ホーシアまで頼みたいんだぜ」
キョウのおっちゃんが会話の流れを遮って要望を伝える。そうそう、それよ。俺の事はいいんだよ。
「あんたらもホーシアかよ」
あんたらもって他にもいるのかよ。
「ああ、俺様にそれを頼んだのは、あんたの噂をしてくれた、その姫さんよ」
へ、へー。確か、闘技場へ遊びに来ていた姫さまだよな。俺をペット呼ばわりした姫さまだよな! 俺は覚えているんだからな! その姫さまが何をしにホーシアまで行くんだよ。
「兄貴ー、おいらたちを助けてくれた人でやんすー」
「そうそう」
猫人族の中から手が上がる。あー、そういえば、助けてた! 昨日の出来事じゃないか。
「おう、何だよ、お前らの恩人って、こいつらかよ」
そうそう。そうなんだぜ。
「となれば、聞いてやらないとよ」
おおー。情けは人のためならずだね。ジョアンのお陰だ、やるじゃん。これで話がスムーズに進むじゃん。
「と言いたいが! 今、船を出すのはやべえな」
え、やばいのか?
「あんたら、冒険者だよな」
そーっすよ。
「ならよ、一緒に魔獣退治やろうぜ」
へ、どういうことよ!
―2―
ファットの案内で船着き場へ向かう。洞窟の中に作られた道を進んでいくと足下に川のようになった小さな水流が見えてくる。
お、海の水が流れてきているのかな。
流れている水の量が増えてくるのに合わせて、川の幅が広がっていく。って、これを川って表現していいのか?
やがて開けたところに出た。洞窟の中に巨大な水たまり。そして、それに浮かぶ船。船か、これ?
船というか、水に浮かんでる戦闘機……だよな? これ、あれだ! レーダーに引っかからない戦闘機だよ。それの大っきい版だよ! これが船?
「俺様の自慢の船、ネウシス号よ!」
ファットが自慢気に腕を組んでドヤ顔を披露する。何人乗りだ? 大きいから、20人くらいは大丈夫か?
「おいおい魔導船なんだぜ!」
キョウのおっちゃんが興奮した声で叫ぶ。何々、凄いの?
「帝国にも一隻しか存在しない、空飛ぶ船なんだぜ」
おー、やっぱり空を飛ぶのか。だって、見るからに戦闘機だもんな。
「え? そうなのかよ!」
何故か、ファットが驚く。
「ただの高速で海の上を走る船だと思ってた!」
あ、そうですか。
『飛べないのか?』
「試したことないな!」
俺の天啓にファットが応える。うーん、空飛ぶ船とか乗ってみたかったんだけどなぁ。飛ぶ機能が無くなったって感じなんだろうか。
「お前ら、乗り込めー!」
ファットが叫び、バンダナを巻いた猫人族たちが桟橋を渡って船の上に取り付く。
船の上で何やら操作していると、蓋が開くように表面の盛り上がった部分が開いていく。
「お客人もどーぞー」
俺の前に居た猫人族の案内で船の中へ。
中は何だろう、もっと機械的で、よく分からないメーターやパイプが一杯ついたゴツゴツしたの想像していたんだけど、そういったモノが何も無いな。つるんとした感じだ。うん、これ、ただの広い部屋って感じだ。
部屋の真ん中には透明なシリンダーのようなモノ、そして、そのすぐ後ろに台座。うーん、古代文明の遺産とかなのかなー。
俺は14型の方を見る。俺が見ていることに気付いた14型が首をかしげる。うーん、てっきり14型なら何か知っているかと思ったが、分からないのか?
「マスター、見れば分かると思うのですが?」
14型が大きなため息を吐く。う、わざとらしいなぁ。
「これは私が作られた世代よりも後のモノですよ。あの真ん中にあるのは魔石を動力としている証でしょう?」
あ、そうなの。よくわからないなぁ。
「見な!」
そう言ってファットが台座を叩く。
すると前方に外の景色が広がる。うお、映像が映し出されているのか?
「どうだ! 驚いたかよ!」
いや、凄いね。これなら中にいても、外の景色が見えるよ。
「俺様が海ん中の迷宮から持ち出したすっげぇ船よ!」
確かにコレは凄いな。
「それじゃあ、行くぜー」
ファットが号令をかける。
「あいあいさー」
それに応える他の猫人族たち。
出航か。って、何の説明も受けずに船に乗って出発しているんですけどー。
これからどうなるんだ?