4-5 宝箱の蓋
―1―
筋肉なヨハンさんも一緒に竜馬車で宿へ向かうコトに。あ、表に止まっていた竜馬車って、ジョアンの竜馬車だったのか。
のんびりと竜馬車を走らせ、お洒落な宿の前へ。そのまま竜馬車は宿の人に渡す。うん、キョウのおっちゃん、結構いい宿とってるじゃん。
そして、そのままチェックインしている部屋へ。む、狭い。ま、まぁ、キョウのおっちゃんが一人で泊まる予定だったから、あんまり広くないのかな。
俺に羽猫、おっちゃんとジョアンに14型、それに筋肉のヨハンさんも居ると、それだけで一杯一杯だ。まぁ、羽猫は俺の頭の上だから関係ないか。
「にゃあ?」
羽猫が俺の頭の上で鳴いている。はいはいっと。
「旦那、俺が広い部屋に移れるか聞いてくるんだぜ」
そう言い残してキョウのおっちゃんが部屋を出る。すまないねぇ。
しばらくしてキョウのおっちゃんが戻ってくる。
「旦那、明日には広い部屋に移動できるんだぜ。今日はここで我慢して欲しいんだぜ」
うむ、我慢するぜ。まぁ、最悪、転移で家に戻ればいいしね。って、俺、ここで、まだ転移のチェックをしてないや……。ま、まぁ、明日にでもチェックしておこう。
で、だ。なんでこの部屋の中にまでヨハンさんが居るんだ。
「ああ、俺なら、あんたらの監視をギルド長に頼まれたからよ」
え? ああ、そうだったのか。って、そうなの?
「おいおい、どういうことなんだぜ」
キョウのおっちゃんがヨハンさんを睨み付ける。ちょ、穏やかじゃないですね。
「言葉通りの意味だよ。あんたらがギルドを出てすぐにギルド長に言われてよ。それで追っかけてきたんだよ」
ああ、それでついてきていたのか。納得、納得。
「ギルド長は、あんたらが変なことをしないか、気にしているみたいよ」
ふむ。何で、そんなことを気にするのかな。
「自分とこのシマを勝手に荒らされたくない、特に魔獣問題が起こっている今は、って感じだと思うんだぜ」
そうなのかな? ふむ。俺たちはホーシアに行きたいだけなんだけどなぁ。
「そっちの人が言う、その通りかもしれないよ」
ヨハンさんが筋肉をピクピクとさせている。あ、はい。
「で、俺はそんな困っている君らに情報を、って思ってるのよ」
うん?
「ファット団のファットなら、魔獣の増えた今の海でも移動できる船を持ってるのよ。それにあいつらはギルドとは関係ないからよ」
ふむ、それは是非、船を借りたいな。で、そのファットさんは誰なのかね。
「随分と昔に、この町に流れてきた孤児の猫人族たちだよ。偶然か、変わった船を手に入れて海賊ごっこをしている変わり者よ」
海賊ごっこねぇ。この世界の海賊ってのが、どんなのかわかんないから、なんとも言えないなぁ。
「で、そのファットとやらは何処に居るんだぜ?」
そうよ、それよ。
「奇岩島よ」
奇岩島? 何やら変わった名前だなぁ。
「朝と夜だけ通ることが出来る道で海を渡って行ける島だよ。昔は小迷宮として冒険者で賑わっていたんだけどよ、今はファット団の連中が占拠しているから、誰も近寄らんのよ」
ふむ。迷宮を根城にする海賊もどきか。で、ここから近いのか?
「ああ、ジャイアントクラブが大量発生した浜辺の近くだよ。それもあって、奴らがまた何かしたんじゃないかってギルド長は思っているみたいよ」
なるほどね。でも、それだと俺があった連中のコトが説明つかないよなぁ。魔獣の大量発生はファット団とやらと別の原因がありそうだよね。
「じゃ、俺は伝えたから帰るよ。またなランさん」
ヨハンさんは、そう言い残すと筋肉をピクピクと震わせながら帰って行った。う、うむ。ナンパから始まった出会いだが、いい奴だったな、うむ。
―2―
「方針は決まったと思うんだぜ」
そうだなぁ。
世界の壁の魔族を防ぐ防御機能を復活させるために、もう一つの八大迷宮『空舞う聖院』へ向かうこと。
『空舞う聖院』のあるホーシアは海の上にあるから、そこに行く為には船が必要。
現在、海に大量の魔獣が発生して、船が出航出来ない。
ギルドに属していないファット団の船なら、この魔獣大量発生の中でもホーシアに行けるかも。
ファット団に会うために奇岩島に向かう。
って、感じか。なんというお使い感。そもそも、俺がそこまでする必要があるのか、って微妙に思わないでもないんだけどさ、それを言い出したらキリが無いからなぁ。ま、まぁ、八大迷宮は、当初から踏破しようと思っていたんだから、ついでついで、うん、ついでだ。
「と、それでなんだぜ」
キョウのおっちゃんが話を区切る。
「まずは旦那、これが世界の壁の魔獣の換金分なんだぜ」
俺はキョウのおっちゃんから小金貨を2枚受け取る。あ、こんなもんなの? う、うーん、意外とお金にならなかったなぁ。
「一応、旦那の言うとおり3分けなんだぜ。ま、旦那が一番活躍していたから、ちょっと多くしておいたんだぜ」
あ、そうなのか。気を遣わせてすまんね。と、やっぱり世界の壁の勅命クエスト分の報酬は貰えないのか。原因は追及出来たと思うんだけどなぁ。
「それと旦那にはコレもあるんだぜ」
そう言ってキョウのおっちゃんは1枚の金色のプレートを取り出した。うん? ううん?
「ステータスプレート(金)なんだぜ」
え? 金ですか。ゴールドですか!
「これも勅命の前金代わりなんだぜ」
マジで? 貰っていいの? うひょー。やったー。貰えないのかーって思った矢先に貰えちゃった。貰えちゃったよ!
「悪いけど、冒険者じゃない小僧の分はないんだぜ」
あ、そうなの? 何だか俺だけ悪いね。
「ふん、僕には必要無い!」
そう言って、ジョアンは横を向いている。うーん、本当は欲しかったんじゃね? ま、まぁ、俺はありがたく貰っておこう。でもさ、貰うのはいいけど、これって、すぐに使えるの?
「今度、冒険者ギルドに寄った時にでも使えるように手続きするといいんだぜ」
あ、やっぱりそうなんですね。ま、まぁ、それまで大切に持っておくか。
「でだ、拗ねている小僧にはコレだな」
そう言ってキョウのおっちゃんは大きな盾を取り出す。石で出来た盾?
「完成したんだぜ」
お、宝箱の蓋を加工した盾か。思ったよりも早く完成したんだな。
ジョアンが静かに盾を受け取る。お、何だか嬉しさでにやけそうなのを我慢している顔になってるな。やっぱり新しい装備は嬉しいモノなのかな。
「要望通り、盾の後ろに剣を取り付けられるようになってるんだぜ」
って、ジョアンはこれで両手盾か。それで、いつでも攻撃に移れるように盾の後ろに剣を取り付けられるようにしたのかな。うーん、謎だ。
ジョアンは新しい盾を振り回し感触を試している。ちょっと、狭い部屋で止めて貰えませんかね。俺の頭を掠めるんですけどー、吹っ飛ばされそうなんですけどー。
と、そうだ、ジョアンの盾、鑑定してみよう。宝箱の蓋が加工したことで、何て名前になったか気になるもんね。
【宝櫃の盾】
【宝櫃を守る盾。物理に強い耐性を持ち非常に壊れにくい】
ほう。なんというか、カッコイイ名前に変わっている。加工したことで装備品に変わったって感じなのかなぁ。
「小僧、そいつは剣や斧など殆どの武器の攻撃を防げるが、魔法には弱いらしいから気をつけるんだぜ」
なるほど、物理耐性特化な盾なのか。まぁ、でもさ、魔法を使ってくる魔獣ってあんまり居ないみたいだし、充分優秀な盾なんじゃね?
9月23日誤字修正
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