4-3 キャラ港
―1―
浜辺から海岸沿いの道に戻り旅を続ける。しかしまぁ、あの猫人族の方々は何だったんだろうね。ファット団と言ったか? 海にカニ肉を捕りに来たとかよく分からないなぁ。ま、まぁ、俺としては魔石が手に入ってラッキーって感じでいいのかな。
海岸沿いの道を歩くが人通りは無い。うーん、港町なんだよね。キョウのおっちゃんからは貿易で発展しているって聞いていたのに、何だか不安になって来たぞ。うら寂れた漁村って感じなのかなぁ。
しばらく人通りの無い、海岸沿いの道を歩いていると大きな石造りの町が見えてくる。うお、本当に町だぞ。村じゃない、町だ、町がある。地面にも石畳が見えてくる。おいおい、道になるよう石を敷き詰めたのかよ、凄い労力だよ。
港町だけあって大きな船も見えるな。でっかい船だ。蒸気船か? いやでも、さすがにそこまでの文明の力はないだろ……、無いよな?
帝都は中華風の建物が多くて古風な感じだったけど、何だろう、凄い近代な感じがする。西洋とかなら今でもありそうな感じだよ。
うわあ、町に近づくと急に人通りも増えたぞ。凄い発展しているじゃん。誰だよ、うら寂れた漁村とか言ったの。う、うむ。この姿形で町に入っても大丈夫なのかな? いきなり襲われたりとかしないよな?
ゆっくりと町へと近づいていく。う、うーむ。俺の姿を見て、何か言われたら、と思うと足の進みがゆっくりになるなぁ。今もすれ違う人が俺の姿を見て、二度見するくらいだもんなぁ。だ、大丈夫なのか?
そんな俺の心配を気にせず優雅に俺の後ろを歩く14型。君は怖い物が無さそうでいいね。ジョアンは意外と人見知りなのかキョロキョロと不安そうに周囲を見回している。うんうん、分かるよ、その気持ち。
しばらく歩いていると、ふいに筋肉を増量した男の人がこちらへと話しかけてきた。だ、誰?
「これはこれは美しいお嬢さん、この港町に何の用かな? もし良かったら素晴らしい場所があるから、ご案内してあげるよ」
気持ち悪いくらいにご機嫌な笑顔で話しかけてくる。うーん、知らない人だな。ま、もうすぐ港町に入るし、その中を道案内してくれるなら有り難いし、頼もうかな。
『では、道案内を頼もう』
俺の天啓に男が驚いた顔をする。そして周囲を見回し、俺の存在に気付いたのか、ぎょっとした顔でこちらを見る。
「そ、その魔獣はお嬢さんの、ぺ、ペットかな?」
俺をペット扱いだと! 失礼しちゃうなー。にしても、この世界にもペットって概念があるんだな。神国のお姫さまもペットとか言っていたから、裕福な国にはって、感じなのかな。そういえば、帝都ってすっごい広いけど、古くさいし、裕福って感じじゃ無かったもんなぁ。まぁ、俺の家がある場所が貧民窟の近くだからってだけかもしれないけどさ。
「マスターをペット呼ばわりするとは、脳に宇治でも沸いているのですか」
14型の字幕が宇治になっていた。宇治はお茶かなぁ。あ、お茶も沸かすから、同じか。上手い座布団1枚!
「へ、いや、あのよ」
「何度言わせるのですか、ド低脳。脳の代わりに芋虫でも入っているのですか」
いや、芋虫は入ってないと思うぞ。と言うか、筋肉のお兄さん困っているじゃん。
―2―
筋肉のお兄さんの名前はヨハンさんというそうだ。何でも、このキャラの町で船乗りをしているとか。で、可愛いお嬢さんを見つけたのでついナンパしてしまったそうな。うーん、14型って、可愛いか?
「いやあ、可愛いと思ったんだけど、今は怖いよー」
14型がヨハンさんを睨む。
『うむ、怖いな』
会話をするうちに何故か打ち解けてしまったヨハンさんは俺にも気さくに話しかけてくれるようになった。何だろう、この世界の人って順応早いよなぁ。
「ランさん、魔獣なのに人と変わらないなぁ。何か話していると親近感が湧いてきて怖くなくなったんだよなぁ」
お、ソレはアレか。俺の魅力が、迸るオーラが、メロメロにしてしまったのか? いかん、いかんなぁ。男も惑わすとは俺も罪作りだなぁ。
『で、ヨハン殿は、何故、町の船乗りなのに、町の外へ?』
俺の疑問にヨハンさんは手を叩く。
「そうだ、忘れるところだったよ! 向こうの浜でジャイアントクラブが大量発生しているって聞いたから、それを確認しに行くところだったんだよ」
あ、そうなの。魔獣が発生しているっていうのに、その確認を忘れてナンパとは……て、それって!
「それならランが倒した!」
あ、ジョアン、ありがとう。……って、もしかして会話に入る機会を探ってた? ま、まぁ、いいけどさ。
「およー、そうなの? そっかー、これで楽できるよ。さすが魔獣のランさんだよ」
ちょ、調子いいなぁ。
「いやあ、最近、海の魔獣が大量発生してんのよー。うちのギルドでも困っていて、船も出せない状態なのよ」
へぇ、そうなんだ。って、船が出せない? 確か、『空舞う聖院』があるホーシアって船じゃないと行けないんだよな? 困るよ、それ困るよ。
『船が出せないのか?』
「何々、ランさんって船で何処か行く予定?」
興味津々と言った感じで、俺に筋肉をすり寄せてくる。あ、はい、行く予定です。
「残念、今は無理だよ。それで俺たちもおまんま食い上げって感じなのよ。仕方ないから可愛い女の子と仲良く遊ぶしかやることないんだよ」
あ、はい。それは、頑張ってください。
「とりあえず、本当に町を案内しようか?」
ヨハンさんの申し出。いや、あの、本当にって、じゃあ、何処を案内するつもりだったんだ? って、それよりもジャイアントクラブの件をギルドに報告しなくてもいいのかよ。
「うーん、ランさんが倒したんなら、焦ることでもないし、いいんじゃない?」
いや、その、俺の話を信じてくれるのはいいけどさ。本当にそれでいいの? う、うーん。
「じゃあさ、ランさんたちも一緒にギルドに来るかい? ギルド長が船の件聞いてくれるかもしれないしよ」
そうするか。うん、何かアテがあるワケでも無し、それが一番いいよね。
じゃ、ギルドに向けて出発。あ、ヨハンさん、道案内お願いします。