4-2 猫人助け
―1―
北への旅は困難を極めなかった。
いや、だってさ、幾ら歩みがゆっくりだとは言っても疲れたら自宅に帰ることが出来るんだもん。困難になるはずがないッ!
この方法なら、俺の芋虫体型が原因で宿に泊まる際に不愉快な思いをする、なんてこともない。なんと完璧な――さすがは俺ッ!
「熱い……」
歩いていたジョアンがぽつりと漏らす。北に進めば進むほど、周囲の気温が上がっていく気がするな。うん、じめじめ蒸し蒸しするな。北が熱くて南が寒いのか。俺の居た世界とは逆なのかな。
周囲の風景も木々が多くなっているし、その木には蔦のようなモノが絡みついている。うーん、人里に近寄らないルートを辿っているから、もしかして道を間違えた?
ま、まぁ、北に進んでいれば、そのうち、着くでしょ。あ、でも、海ってコトならもう少し西側を歩いた方がいいのかな。
道を外れ、木々の中を北上していく。おうおう、ジャングルみたいだな。
さらに西側に進路をとって歩いて行くと森が開け、海が見えてくる。この海岸沿いに歩けばいいんじゃね?
海岸を黙々と歩いて行く。にしても魔獣と遭遇しないなぁ。冒険が歩くばっかりなんだぜ。
「魔獣なんて森の深いところか迷宮へ探しに行かないと」
ジョアンがぽつりと呟く。あ、そうなの。でも、ナハン大森林ではちょくちょく魔獣に出会ったけどなぁ、って、あそこは全部が森だから、森の深いところって条件に当てはまるのか? となると、森林部を通過していた俺たちはニアミスだったのか? もしかするとガンガン魔獣に襲われていた可能性があったのか。
「森を歩いていたのは魔獣と戦いたいからだと思って……」
あ、そうなんだ。いや、別にそういう意図があったワケじゃ無いんだけどね。にしても、それで出会えなかったのは運が悪かったのかなぁ。いや、運が良かったのか?
海岸沿いを歩いていると何やら喧噪が聞こえてきた。何だ、何だ?
―2―
海岸を伝い、浜辺へ。浜辺では4人のバンダナを巻いた猫人族が巨大なカニみたいな魔獣たちと戦っていた。え? コレ、助けに入るべきかな? どうしよう?
「ラン、僕が!」
ジョアンが駆け出す。へ、おい。状況も確認せずに行動しないでくれよ。助けが必要かも分からないし、狩りの邪魔をしたーって言われるかもしれないんだぞ。
そうこうしているうちに巨大カニの一匹に猫人族が掴まる。そのまま巨大なハサミで身を締め付けられていく。あ、これヤバイやつだ。
「助太刀する!」
――《シールドバッシュ》――
ジョアンがスキルを発動させ、新調した盾をハサミに叩き付ける。盾から伝わった衝撃がハサミをこじ開ける。ああ、もう、これは俺も参戦する流れだよね。
――《飛翔》――
高速で飛び巨大カニたちの元へ。からのッ!
――《スピアバースト》――
光の槍となって突撃する。走る衝撃波。カニたちが衝撃波を受け、動きが止まる。って、吹っ飛んだり、倒したりは出来ないのかよ。かったいなぁ。
俺はそのまま一匹のカニに突っ込む。
――《スパイラルチャージ》――
真紅が螺旋を描きカニの腹部から甲殻を打ち砕く。緑と赤のしぶきが飛び散る。カニ味噌かな。
俺はすぐに真紅を引き抜き、次へ。
――《百花繚乱》――
もう一方のカニへ高速の突きが炸裂する。砕き、貫き、硬い殻を花片と散らしていく。2匹目ッ!
そこへスピアバーストの衝撃から立ち直ったカニが襲いかかってくる。視界右上が赤く染まる。それをなぞるように巨大カニのハサミが迫る。
目の前のカニから素早く真紅を引き抜き、カニのハサミに打ち当て、そのままスキルを発動させる。
――《ウェポンブレイク》――
真紅がカニのハサミを打ち砕く。次は視界の左上が赤く染まる。
「僕が!」
――《ガーディアン》――
ジョアンがスキルを発動させ、俺の前に。新調した大盾でカニのハサミを受ける。
「耐える!」
ジョアンの盾がカニのハサミと拮抗する。
さらに迫るもう一匹のカニ。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし、巨大なカニを足止めする。しかし、捕縛はすぐに破られそうだ。むぅ。
俺は周囲を見る。猫人族の方々はハサミに挟まれていた一人を介抱している。14型は……うん、いつものように、自身の移動速度の速さを利用して遠くに離れているな。何だろうな、戦闘メイドなのに、戦闘してくれません。と、とりあえず。
――[ヒールレイン]――
癒やしの雨が猫人族の上に降り注ぐ。と、ついでにッ!
――[アイスウォール]――
氷の壁を張り、カニの侵攻を防ぐ。よし、時間を稼いでっと。
――《飛翔撃》――
空へと舞い上がり、光り輝く三角錐となってカニを貫く。
「僕も!」
ジョアンの構えた剣から光の刃が迸る。光の刃がカニを真っ二つにする。これで、カニは全部か? ふぅ、結局、俺たちで全部倒しちゃったじゃないか。
―3―
さてと、猫人族の方はどうなっているかな?
『大丈夫か?』
あ、14型さん、俺たちが会話している間に魔石の回収をお願いします。
猫人族が驚き、キョロキョロと周囲を見回す。俺だよ、俺ですよ。
「なあ、あの魔獣……」
「聞いたことがあるでやんす」
「俺も、俺も」
「痛いよぅ」
好き好きに喋っている。えーっと、痛がっているけどヒールレインの効果が余りなかったのかな?
「あんた、アレだろ」
「闘技場の芋虫チャンプ!」
「知ってる、知ってる」
「あれ? 痛くない」
う、またソレかよ。魔獣がって言われるよりはいいけどさ、チャンプ呼ばわりは余り好きじゃ無いんだよな。そして、何故か得意気なジョアンと14型……君ら何さ。
『大丈夫か?』
もう一度、天啓を授けてみる。
「あ、大丈夫っす」
「助かったでやんす」
「そうそう」
「治ったー」
良かったね。で、君らは何者で、何をしていたのかね。猫人族ってさ、小さいから、小さな子どもを相手している気分になるよなぁ。猫だから、余り表情も読めないしさ。
「おいらたちはファット団!」
「ファット団っす」
「俺たちはファット団です」
「え? え?」
ああ、何かの集団なワケね。って、さっきから4人が好き好きに喋るから大変だよ……。
「食料を取りに来た」
「そうなんすよ」
「普段は群れないはずのジャイアントクラブが群れて襲ってきた」
「1匹なら楽勝なのにねー」
あ、そうなんだ。ま、まぁ、助かって良かったね。
「どうも、チャンプありがとやんした」
「肉もくれるなんて、ありがとうでやんす」
「困ったことがあったら是非、ファット団に」
「このお礼は必ずするよー」
そう言い残して4人の猫人族は去って行った。ちなみに4人は、ちゃっかりとジャイアントクラブの肉を持って帰っていった。ああ、コレが探していた食料だったワケね。ま、まぁ、魔石は回収したから、別にいいけどさ。
ま、こういう出会いもあるか。
さ、気を取り直して北に向かいますか。
2021年5月10日修正
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