4-1 北へ、行こう
―1―
北へ行こう。
今、俺たちは――ジョアンと14型、羽猫のパーティは北への旅路にある。
八大迷宮の一つ、『空舞う聖院』があるのは、帝国に属している領国の一つ、ホーシア。そのホーシアは多くある海洋国家群の中でも主国として帝国に属しているらしい。何でも海に浮かぶ国と言うことだから、今から、どんな不思議な国なのか、と楽しみである。
そんな情報を教えてくれたキョウのおっちゃんだが、帝都でやることがあるらしく、俺たちと一緒に旅をするのは遅れるそうだ。まぁ、俺としてはさ、キョウのおっちゃんの用事が終わるのを待っても良かったんだけどね。でもさ、おっちゃん自身が先に行っててくれって頼むんだから、仕方ないよね。
ちなみに俺たちは徒歩だったりする。
だってさ、ジョアンの竜馬車、世界の壁に放置になってるんだもん、仕方ないね。
キョウのおっちゃんの知り合いが回収してくれるということだから、回収後、おっちゃんが操って合流してくれる手筈になっている。とまぁ、そんな感じでジョアンの歩幅に合わせて、のんびりと北への旅を続けているワケだ。
ある程度、進んだら世界の壁から外した転移のチェックを入れて、自宅に戻り休憩。また転移で戻り、進むを繰り返す。これなら危険な野営をしなくて済むし、宿代もかからない! 完璧な作戦だ。ギルドのクエストを受けるコトが出来ないのだけは残念だけどね。ま、倒した魔獣を回収しておけば、GPは稼げなくてもお金にはなるし、生活には困らないもんね。魔法のウェストポーチXLを使って魔獣をそのままを回収出来るから、解体する手間や、どの部位を素材として回収しておくかを悩む必要が無い! うん、便利な世の中になったモノだ。
にしても北か。西のナハン大森林からスタートして、大陸に渡って、色々あって、今は北の海洋国家を目指すとか、もうよく分からないな。
まぁ、八大迷宮の攻略ってのが、とりあえずの目標だった訳だし、順調に進んでいるって感じなのかなぁ。
―2―
転移を使い、我が家へ。ジョアンも自身の自宅に戻るようだ。ま、まだまだ子どもだからね、夜間の外出は禁止だよね。世界の壁に向かう時に散々野宿しているワケだが、そこは気にしないことにしよう。
枠組みが完成した自宅に戻る。お、家の骨組みはほぼ完成しているな、うんうん。
「お、チャンプ戻ったのか」
親方、いい感じじゃん。って、俺が戻ってくる時間に居るなんて珍しいな。
「ちょっと見て欲しいんだがよ」
あ、そうだ。これだけ完成近くになっているなら、張り紙しとくか。『ランさんは北の空舞う聖院に向かってます』みたいな内容を書いた紙を貼っておけば、シロネさんやミカンさんが俺を探しに来てもすれちがうコトが無いからね。完璧じゃね?
「チャンプ、聞いてるのかよ」
あ、親方すんません。で、何でしょ。
「地下室の方にも手を入れたんだがよ、いや、実際に見た方がはええな」
どういうこと?
親方の案内で地下室へ。最近の寝泊まりは地下室がメインになっているからな、ここが改修で入れなくなるようだと、自宅前で野宿になってしまう。家があるのに野宿とかしたくないなぁ。
「これだ」
地下室には、さらに下へと降りる階段があった。あれ? 毎日寝泊まりしているけど、こんな階段なかったぞ? ここって、小さな石碑があった場所か?
「この先は小迷宮になっているようでよ、扱いに困っているんだ」
へ?
「で、どうするよ? 埋めちまうか」
いや、それよりも何で、急に石碑が無くなって階段になっているんだ?
「分からねえな。今日、見たらこうなっていたぜ」
むぅ。
「これはっ!」
14型が大きな声を上げ、俺たちの前に出る。
「マスター、これが私の言っていた地下世界の入り口です」
あ、そうなんだ。
「それを埋めるだなんてとんでもないコトです! ド低脳ですか」
14型の言葉に親方はため息を吐いている。
「で、どうするよ」
うーん、まぁ、14型のコトもあるし、残しておくかなぁ。でも、小迷宮でしょ? 魔獣とか住んでいると嫌だなぁ。我が家に侵入されたらたまったもんじゃないよね。
『残したまま改修をお願いしたい。この小迷宮が安全かは、自分が調べるとしよう』
北に行く途中に面倒ごとが増えたなぁ。
「さすがはマスター、少しは考えることが出来るようで安心したのです」
俺は常に考えてますよ。ふんふん。
「わーったよ、チャンプの家だからな。自宅に迷宮の入り口があるってのも乙なモノかもしれねえな」
そう言って親方は笑っている。う、うん。まぁ、そういう感じで。
―3―
長い長い階段を降りていく。うーん、長いなぁ。
にしても、この家って、何だったんだろうな。
帝都の中にあって、神国風の建物だった。
戦闘メイドの14型が眠っていた。
隠された地下室が有り、小迷宮の入り口があった。
うーん、謎だらけだ。この建物の元々の持ち主だったフロウに聞いてみるか? いや、でも闘技場に行くのか? それにさ、フロウに会うのが怖いんだよなぁ。うーん、うーむ。
とりあえずは保留ってことで。必要に迫られたら聞きに行ってみよう、そうしよう。
階段を降り進めていると周囲の壁が透明になった。何だ、コレ? ガラスか何かか?
軽く触れてみるが硬く、壊すのは難しそうだ。
そして、透明な壁越しに世界が広がった。明るい……。地下なのに、外に出たみたいだ。
透明な壁を隔てた、そこには無数の建物が見えた。家……か? 巨大な3つの神殿のようなモノも見えるな。何だ、何だ? 本当に地下に世界が広がっているのか?
透明な壁の中、周囲の風景を観察しながら階段を降りていくと、やがて巨大な門の前に出た。
門の前には世界樹や世界の壁で見かけたのと同じ装飾が施された台座があった。うん? もしかして、ここも八大迷宮の一つなのか? 俺の家の地下なのに?
台座に描かれている絵を確認する。書かれているのは月と星と太陽? の紋章だった。うーん、三日月型のイラストに五芒星、〇の周囲に線とか、月、星、太陽だよね。
俺は台座の紋章に触れてみる。しかし、何も起こらなかった。
次に門を調べてみる。巨大な門は閉じられており、開く気配が無い。押してもびくともしないな。
門には4つの玉が取り付けられており、それがうすぼんやりと光っている。青い玉と緑の玉、それに黄色と赤か。原色って意味なのかな?
『14型、ここが地下世界なのか?』
俺は背後の14型に確認する。さっきから14型さんが静かで怖いんですけど……。
「え、ええ。間違いないのです」
14型の言葉が弱々しい。どうしたんだ?
『この門を開ける方法は分かるのか?』
14型は首を横に振る。
「わからないのです。このような門は……何もわからないのです」
うーん、14型が分からないなら、お手上げだな。となると、探索はこれで終了か。魔獣も居なかったし、ただ門があるだけだったから、このまま埋めなくても問題無さそうだな。
うっし、戻りますか!
しかしまぁ、北へ進んでいる矢先に、いきなりの寄り道だったなぁ。