世界の壁攻略編エピローグ
―1―
「旦那が起きたんだぜ」
俺が目覚めるとキョウのおっちゃんの顔があった。うーん、気付いてすぐにおっちゃんの顔とか嬉しくないなぁ。
ジョアンも不安そうな顔でこちらを見ている。はいはい、大丈夫なんだぜ。
にしても、またも限界突破を使ってしまった。もうね、使った後が酷いんですよ、痛みで死にそうになりそうなくらい、体が痛いんですよ。もう、絶対に使わない。あんな痛み耐えられないもん、もう使わないからなッ!
『どうなった?』
俺は天啓を飛ばし確認する。
「巨人は消えたんだぜ。それに合わせて障壁も消えたんだぜ」
そうか。そう言えば、小っこい羽猫と14型は?
俺が起きたことに気付いたのか、向こうから小っこい羽猫がこちらへと歩いてくる。歩きながら光を帯びていく。な、なんだ?
【エミリオがランクアップ条件をクリアしました】
【エミリオが神獣(少)にランクアップします】
へ? 謎のシステムメッセージが流れる。システムメッセージさん、もしかして、気を利かせて俺が起きるまで待っていたのか?
にしても少って何だ、少って。何か少ないのか?
「にゃ?」
【エミリオがスキル《ピュリフィケイション》を獲得しました】
光が薄れ、そこにはサイズの大きくなった小っこい羽猫が居た。お、やっと普通の猫くらいのサイズになったな。もう、小っこい羽猫って言えないな、これなら羽猫だ。
「にゃあ?」
羽猫は不思議そうに首をかしげている。そして、すぐに飛び上がり、俺の頭の上に乗っかる。ちょ、重たい。子猫だったのが、普通に猫になっているから、ちょっと重たいぞ。肩が凝りそうだよ……まぁ、肩は無いんだけどさ。にしても、またもスキルを覚えたか。ピュリフィケイションって何だろうな? 光魔法とかでアンデッドどもをぴかーっと浄化するようなスキルだろうか。何にせよ、確認しないとな。うむ、楽しみである。
と、14型は何処だ?
「旦那の従者ならあっちなんだぜ」
俺はキョウのおっちゃんと共に手すりもない、世界の壁の頂上を歩く。地面が触手の攻撃によって、ボコボコだ。歩きにくいったらないね。
キョウのおっちゃんが案内してくれた先に14型が居た。瓦礫を枕のように傷ついた体を横たえ、動かない。メイド服も破れ、その下の金属部分が剥き出しになっている。ま、まさか、触手の攻撃で?
『まさか?』
俺はキョウのおっちゃんを見る。
おっちゃんが首を横に振る。え、まさか、本当に?
……。
…………。
「マスター、勝手に壊れたことにしないでください」
まったく動かない14型から声だけが聞こえる。うお、無事なのか。
「ボディが傷ついたため、自己修復モードに移行しているのです。喋っているよう見せるために口を動かすことも出来ません」
ああ、口を動かしていたのは、人ぽく見せるためだけだったのね。いやぁ、うん、無事で良かったよ。
俺は14型に近づき、体の破損箇所を確認する。ああ、何だろう、本当にじんわりと新しい皮膚が構成されていってるな。何を使って再生しているんだろう?
その瞬間だった。
俺を中心として足下に光の円が描かれる。え? これは転送に使われている模様? 何で?
そして、すぐに周囲の風景が変わった。
―2―
ここは? 俺は周囲を見渡す。
何処かの閉じられた部屋のようだ。転送されたのは俺だけか?
「何処を見ているのですか、マスター?」
ああ、14型も居るか。
「にゃあ?」
頭の上の羽猫も一緒と。アレ? 隣に居たはずのキョウのおっちゃんとジョアンの姿が見えない。何で俺と14型だけ転送されたんだ? うーん、わからない。
ま、考えても仕方ない、部屋を調べるか。
部屋の中央には精巧に装飾された台座が。描かれているのは巨人か。そして奥に真っ黒な直方体。
台座の上には手袋のようなモノが置かれている。コレが、この迷宮のクリア報酬か。うーん、普通の手袋にしか見えない。毛糸の手袋だよね、コレ。俺のこの手だと手袋を装備することが出来ないしなぁ。まぁ、それでも勿体ないから貰っておくか。と、一応鑑定しておくかな。
【てぶくろ】
【迷宮王製】
……。
いや、そりゃね、見れば分かるよ。
「マスター?」
14型が体を起こそうとしている。いや、まだ寝てていいよ。
『俺が探索している間、14型は体を休めているといい』
「マスターのくせに気が利くんですね」
はいはい、そうだね。
とりあえず手袋は貰っておくか。俺は手袋を手に取る。うーん、何の変哲も無い手袋に見えるな。中に手を入れてみる。ああ、この球体のような手だと手袋の意味が無い。うん、何も起きない。仕方ない、魔法のリュックにでも入れておくか。
後は奥の黒い直方体か。これ、どう考えてもクラスとかを取得出来るモノリスだよね。モノリスに触れてみようと近寄った時、俺は、それに気付いた。
視界の端に線が見える。
壁により沿うように倒れている骸骨。そして、のびた線の先は『迷宮王の骨』と表示されていた。って、おい。
何で、ここにも迷宮王の骨があるんだよ!
迷宮王の骨の下も確認してみる。うーむ、さすがにステータスプレートは無いか。にしても、何で、ここにも迷宮王の骨があるんだ? まさか、各迷宮ごとに迷宮王が居るのか? 俺はてっきり一人だと思い込んでいたが違うのか? う、うーん。
ま、考えても分からないことは考えるだけ無駄だよね。まずは目の前のモノリスだ。
俺は黒い直方体まで歩き、それに触れる。
【換装系のスキルツリーを取得しますか? Y/N】
もちろんイエスで。これで2個目のスキルツリーか。でも、このステータスプレート(銀)って確か、サブスキルが1個までだよね。って、コトは、クラスの時と同じように入れ替えになるのか? さすがに転移を消して入れようとは思わないな。
【換装系のスキルツリーを取得しました。内容はステータスプレートをご確認ください】
俺の心配は何だったと言わんばかりに、普通に獲得出来る。何だ、ソレ。ま、まぁ、手に入ったんだから結果オーライってことで。
俺がスキルを獲得すると同時にスキルモノリスが突然崩れ始める。換装のスキルも再取得は出来ないってことか。
――エピローグ――
「これはっ!」
14型が突然、大きな声を上げる。ど、どうしたの? 動いて大丈夫なのか?
14型が叫んだすぐ後に壁から、壁の向こう側から何かを叩き付けるような音が聞こえ始めた。ん? 何だ?
「マスター、そんな音はどうでもいいのです。コレを見てください」
いや、音も気になるでしょ。
「こちらです」
14型がよろよろと立ち上がり、中央の台座の前に。いや、手袋ならもう取ったよ?
「アクセス」
14型が台座を叩く。すると空中に透明なキーボードのような映像が浮かぶ。ほへ? 何ソレ? ホログラム?
14型が凄い勢いで空中に浮かぶキーボードを叩いていく。何を入力しているんだ? 14型のキーボードを叩くのに合わせて壁の音も大きくなっていく。
「この迷宮の防御機構が失われている理由が分かりました」
14型がそう喋るのと同時に、壁が崩れる。
壁の向こうに居たのはキョウのおっちゃんとジョアンだった。
「その理由を聞かせて欲しいんだぜ」
壁を崩し現れたキョウのおっちゃんの第一声がそれだった。14型がキョウのおっちゃんを睨む。何故、睨む。
『キョウ殿どうやって?』
俺の天啓にキョウのおっちゃんが肩をすくめる。
「旦那達が消えたすぐ後に床が崩れて隠し通路が現れたんだぜ。そこを進むとすぐに行き止まりになったんだぜ。怪しいと思って調べていたら、壁の向こうから聞いた声が聞こえた、ってワケなんだぜ」
それで壊して入ってきたのね。アクティブだなぁ。というか、迷宮の壁って、そんな簡単に壊れるモノなのか? それとも、この壁だけが例外だったんだろうか。
「で、理由を教えて欲しいんだぜ」
14型が俺を見る。ああ、許可を求めているワケね。
『14型頼む』
俺の天啓に14型が頷く。
「エネルギーの供給が絶たれています」
どういうこと?
「この迷宮は全て繋がっているのです。ここの防御機構は、ここから南にある迷宮が動力源の代わりになっていたのですが、そこからの供給が切れているのです」
ふむ。14型さん、詳しいね。
「南に迷宮があるなんて聞いたこと無いんだぜ」
え? そうなの?
「南には聖院があるはずです」
14型の言葉にキョウのおっちゃんが首をかしげる。
「聖院? 聖院って、海底に沈んでいる『空舞う聖院』のコトか? それなら南じゃなくて北なんだぜ」
何だろう、空舞うって言うくらいだから、空を舞って南から飛んで北で墜落したとか、そんな感じなのだろうか。
「あんたが言っているのは正方形で中央に階段の付いた四角錐みたいな感じの、なのかなんだぜ」
14型は腕を組み、考え込んでいる。階段の付いたピラミッドって感じなのかな。それが浮かぶのか?
「その聖院で間違いないと思うのです」
ふむ。
「そこに行けば、ここの防御機構を復活出来るのか?」
14型が頷く。14型が頼りになる、どうしたことだ。にしても、14型よ、何処でそんな知識を? 今まで隠していたのか?
『14型、他に迷宮の知識を、他に何を知っているんだ?』
俺の天啓に14型が驚き、口を開ける。何というか、演技派だね。
「私は、何故、このような知識を? 私は一体……」
私は一体って、メイドロボでしょ?
「急に知識が浮かんできたのです」
うーん、長く眠っていたから記憶喪失とかになっているのかな。まぁ、ポンコツ気味だからなぁ。
「魔族の脅威から帝国を守るためにもお願いしたいんだぜ」
14型が俺を見る。そうだね。
『14型、出来るか?』
14型が頷く。よし、決定ってコトで。
となると、これで次の目的地が決まったのか。
次は北の八大迷宮、『空舞う聖院』の攻略だな!
『行こう、北へ』
いざ、北へ。
八大迷宮・世界の壁クリア
9月19日修正
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