3-120 世界の壁内壁
―1―
階段、しかも手すりがない不安定な場所での戦闘か。
俺がどうしようか、と考えるよりも早く、グリフォンが襲いかかってくる。鋭いかぎ爪をたて、こちらへと突進してくる。すぐに視界の隅に赤い点が灯る。あ、危ない。
俺は急ぎ階段を横へ飛ぶ。
グリフォンが鋭い爪と共に壁に当たる。回避した俺を追うように何度も何度も壁に爪が刺さる。
「僕が!」
回避する俺と入れ替わるようにジョアンが階段を駆け上がる。手には宝箱の蓋。って、もしかして、それを盾の代わりに使うのか?
ジョアンの構えた宝箱の蓋がグリフォンの爪による突進を跳ね返す。は、跳ね返したッ!
ジョアンもその勢いのまま後ろの壁に叩き付けられる。
「小僧、よくやったんだぜ!」
そう言うが早いか、キョウのおっちゃんが階段の縁を蹴り、宙に、空中でふらついているグリフォンへ。そしてその体に掴まる。うお、アクティブだ。落ちたら死んじゃう高さなんだぜ?
そのままザクザクとナイフを突き刺す。グリフォンがたまらず体を振り回すが、キョウのおっちゃんはしっかりとしがみつき振り落とされるのを回避する。そして、更に何度も何度もナイフを突き刺す。って、俺も見ている場合か。
『14型!』
俺は14型からコンポジットボウを受け取る。サイドアーム・ナラカとサイドアーム・アマラを使い鉄の矢を番え、構える。自身の手には真紅があるからね。サイドアームを使わないと弓が持てないよ。
――《チャージアロー》――
鉄の矢に光が集まる。
そこへ、グリフォンと一緒に現れた青いカラスが襲いかかってくる。こちらはクチバシを前に、ドリルのように錐揉みしながら飛んでくる。じょ、ジョアンさん防いでくれません? 見れば、ジョアンはグリフォンの攻撃によって態勢を崩したままだった。ピヨッている場合じゃないですよ!
――《払い突き》――
コンポジットボウを構え光を溜ながら、自身の手に持った真紅でクチバシを打ち払い、一回転、そのまま突き刺す。真紅によって青カラスが砕け散る。うお、砕けた?
そして光の矢を放つ。回転後のため、狙いは甘くなるが、それでも、しっかりとグリフォンの胴体に突き刺さる。
それに合わせてグリフォンの高度が少し下がる。
――《集中》――
次の鉄の矢を番え、すぐさま放つ。集中力の増した状態で放った鉄の矢は狙い違わず先程と同じ胴体部分に突き刺さる。
もう一射!
すぐさま、魔法の真銀の矢を番え放つ。魔法の真銀の矢が刺さっている鉄の矢を貫きグリフォンの体内へ。そして、そのまま光となって消える。
さらにグリフォンの高度が下がる。キョウのおっちゃん落ちるぜ!
キョウのおっちゃんがグリフォンの背に乗りグサグサとナイフで刺し続けていたのを止め、そこから、こちらへと跳躍する。しかし、届かない。いや、でも、ここには俺がいるからね!
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし、キョウのおっちゃんにくっつける。そして、そのまま引っ張り上げ回収する。ふん、巨大ムカデの重さに比べたらおっちゃんくらい軽いモノよ!
キョウのおっちゃんは無事階段の上に着地し、そのまま、踏鞴を踏む。
「旦那、もっと優しく受け止めて欲しいんだぜ」
いやいや、自分で着地出来るでしょ。
傷ついたグリフォンがもう一度、高度を上げ舞い上がる。そして、大きく翼をはためかせる。羽を飛ばしてくる攻撃か?
更に俺たちと同じ視点の高さにいた青カラスたちがクチバシを前に錐揉み突進を開始する。
「スキルを使えなくても防ぐくらいなら!」
体勢を立て直したジョアンが階段の縁に。余り前に出すぎると落ちちゃうんだぜ。キョウのおっちゃんはちゃっかりジョアンの後ろに隠れる。と、そうだ!
――[アイスウォール]――
俺はジョアンの前に氷の壁を張る。上からのグリフォンの羽は防げなくても横からくる青カラスの攻撃なら、これで!
氷の壁に青カラスたちが突き刺さる。青カラスたちは氷の壁が砕けるのと一緒に下へと落下していく。気絶でもしたのか? ま、まぁ、これで青カラスの脅威は去ったか。
そして上から降り注ぐ鋭いグリフォンの羽。
「負けるか!」
ジョアンが力任せに宝箱の蓋を振り回し、グリフォンの羽を撃ち落とす。
そっちは任せたぜ!
――《飛翔》――
俺は空高く舞い上がる。グリフォンよりも高く舞い上がる。そして、これがッ!
――《飛翔撃》――
真紅と共に光り輝く三角錐となってグリフォンへ。自分より上空からの攻撃は受けたことがなかろうッ!
真紅がグリフォンの脳天を貫く。響く大きな悲鳴。落下していくグリフォン。あばよ、グリフォン、これで3戦目だからな、もう負けないぜ。
そして、その突き刺した反動を利用し壁側へと飛ぶ。しかし、距離が足りない。
「旦那!」
キョウのおっちゃんがこちらへと手を伸ばす。
――《浮遊》――
俺は浮遊を使い、空中に浮かぶ。
――《魔法糸》――
そのまま魔法糸を壁に飛ばし、綺麗に階段へと着地する。
「いや、あの、旦那……」
俺は伸ばしたキョウのおっちゃんの手に俺自身の短い手を叩き付ける。ハイタッチ代わりなんだぜ!
『勝ったな!』
ジョアンも宝箱の蓋に手を乗せ自慢気にこちらを見ている。蓋を盾代わりに使うのか。ま、まぁ、おなべのふたを盾の代わりに装備する勇者も居るんだ、宝箱の蓋を盾代わりに使う聖騎士が居てもいいよね。アレ? でもスキルが使えないとか言っていたような……。やはりスキルって、武器や装備品依存なのかなぁ。ま、まぁ、防ぐことが出来るから、今度、鍛冶屋さんで盾として加工して貰うってことで。
―2―
あ、グリフォンの素材。青カラスの素材も……。ま、まぁ、仕方ないか。
そして、ステータスプレートを見るとレベルアップしていた。ここでレベルアップか。何の経験値が多かったんだろう。もしかして、あの青カラスか?
ま、まぁ振り分けておくか。
【レベルアップです】
さーって、どう振り分けようかな。
【ボーナスポイント8】
筋力補正:8 (2)
体力補正:6 (2)
敏捷補正:54(4)+8
器用補正:10(8)
精神補正:4 (0)
いや、まぁ、これは、ねぇ。
筋力補正:8 (2)
体力補正:6 (2)
敏捷補正:62(4)+8
器用補正:10(8)
精神補正:4 (0)
うん、敏捷特化だよね! これで74ですよ! もう動作の鈍い芋虫とは言わせない! そのうち、残像を伴った移動とか出来そうだよね。まぁ、飛翔を使えば似たようなコトは出来るけどさ。うん、どんどん体が軽くなった気がする。いやまぁ、気のせいかもしれないけどさ、そのうち、空でも飛べそうな気分です。
グリフォンを倒し、そのまま階段を上り続けていると、階段の先にリフトのようなモノが入った透明な円形の筒が取り付けられていた。円形の筒は遙か上空へと続いている。あれ? もしかして、コレ、ラスト?
世界樹の時みたいに宝箱は? あっちは透明なシリンダーの前に宝箱があったよね?
宝箱を探していると俺の視界よりも一段高い場所に、壁が削られ、棚が作られていた。そして、その上に棺のような箱が8個乗せられていた。こ、これはお宝の匂いがする!
『キョウ殿!』
キョウのおっちゃんが頷く。
「旦那、8個のうち、6個は空っぽみたいなんだぜ。すでに蓋が開いているんだぜ」
む、俺たちよりも先にここに到達した人が居るのか? いや、それなら2個だけ残す意味がわからないな……。うーん、謎だ。
「残り2個を調べるんだぜ」
よし、俺も鑑定しておこう。
【罠はかかっていない】
【罠はかかっていない】
よし、罠無しか! 開けよう。
この中で一番背の高いキョウのおっちゃんが棚に乗った棺を開ける。
中に入っていたのは流れる水のように綺麗な装飾のされた弓と青く輝く小手だった。弓か! さっそく鑑定だ!
【水天一碧の弓】
【水の魔力を宿した弓。放たれる矢は水の力を持つ】
【アクアガントレット】
【水の魔力を宿した篭手。水を掴むことが出来るようになる】
うーん。篭手はジョアンだよね。弓は俺が貰ってもいいのかな? でも、この迷宮だと水の属性の魔獣ばかりだから使い道が無さそうなんだけどね。ま、まぁ、初の属性を持った魔法の弓だから、ちょっと、いや、かなり欲しいんだけどね。
俺はチラチラと二人を見る。
「弓は旦那でいいと思うんだぜ」
その言葉を待っていたッ! うん、有り難くいただくんだぜ。
『では、篭手はジョアンに。水を掴めるようになる篭手のようだ』
ジョアンが頷き、恐る恐る篭手を手に取る。鎧が銀だから、青い篭手は映えるね。
俺も魔法の弓が手に入ってホクホクですよ。これでキョウのおっちゃんとジョアン、俺の3人が全員、何かを手に入れたって感じになるのか。ま、まぁ、14型は力のパーツを手に入れたってコトで。うん、しっかり全員、何か手に入っているね。
じゃ、進みますか。
あー、この迷宮もラストぽいなぁ。そう考えると今、レベルが上がったのは、凄く丁度良かったな。まるで狙ったかのようだぜ!